【解説】文献調査開始3年 今後のポイントは

大幅に長引く、核のごみの「文献調査」。地元にとって、どんな3年間だったか、これからどうなるのか、取材を続けている担当の生田真尋記者が解説します。
Q1:3年間の地元の受け止めは?
A1:寿都町と神恵内村以外に調査地域が増えていないことについて、地元のトップからは、最終処分地の選定が「北海道だけの問題」となりつつあるとして、全国的な関心の広がりを求める声が強まっています。
このうち寿都町では、住民の間で「核のごみ」についての話題を避ける空気が広がり、対話が深まっていないのが現状です。
住民からは、「小さな町では、誰がどんなことを言ったなどという話がすぐに広がり、本音で話すことができない」とか、「考えても答えが出ない」といった声が聞かれます。
また、文献調査の期間が長引いていることについて、反対の立場の住民からは「声を上げ続けることに疲れるタイミングを狙っているのでは」といった声も聞かれ、不信感を募らせる住民もいます。
一方、神恵内村ではNUMOと村が開いている「対話の場」で、「早く概要調査に進みたい」という意見が住民から出るなど、一連の調査に賛成する声も聞かれます。
高橋昌幸村長は、文献調査の報告書が出たあと、何らかの方法で住民の意思を確認した上で、概要調査に同意するかどうか、村としての方針を決めたいとしています。
Q2:文献調査を受け入れた自治体には交付金が支給されるが、具体的にいくら交付されたのか?
A2:処分地の選定に向けた調査では、段階に応じて対象の自治体に交付金が支払われることになっていて、「文献調査」では最大20億円が交付されます。
寿都町には、周辺の自治体に分配された分を除いてこれまでに18億5000万円が交付金として支払われ、町では、▼保育士の人件費や▼温泉施設の光熱水費などに充てているとしています。
また、神恵内村には、周辺の自治体に分配された分を除いてこれまでに15億5000万円が支払われ、村では、▼港の荷さばき所の建て替えや▼ホタテの養殖施設の整備などに充てているとしています。
Q3:今後、調査はどのように進められるのか?
A3:「文献調査」の報告書は、現在、最終的な取りまとめが行われています。
これまでの「対話の場」で、NUMO側は文献調査の状況について、▽寿都町では、次の段階の現地調査を行うのに現時点で適さないと思われる場所はないという見解を、▽神恵内村についても一定の条件を満たせば南部の一部のエリアで次の段階の現地調査を実施できると思われるという見解を示しています。
報告書では、こうした内容が、今後の調査にあたっての地質学的な観点からの留意事項などとともに盛り込まれる見通しです。
取りまとめの時期については、経済産業省が、報告書の内容を北海道でより時間をかけて説明するために、関連する省令を年内をめどに改正する手続きを進めていることから、年明けになる見込みです。
Q4:報告書がまとまったあとはどうなるのか?
A4:報告書がまとまったあとは一般向けに公開したり、説明会を開いたりして、意見を受け付けたうえで、NUMOがそれに対する見解を作成します。
そのうえでNUMOは、第2段階の「概要調査」の計画を策定することになりますが、この調査に進むには地元の町村長や知事から同意を得る必要があります。
鈴木知事は、処分場を受け入れないとする道の条例や、核のごみが「北海道の問題」にされてしまう懸念などを理由に、「概要調査」に進むことに反対する意向を示しています。
寿都町では、「概要調査」に進むかどうか、調査の是非を住民投票で問うことになっていて、片岡町長は、事前に町民対象の勉強会を開くとしていますが、ほかの調査地域が現れるまではいずれも実施しない方針を示しています。
神恵内村の高橋昌幸村長も、何らかの形で住民の意思を確認する機会を設けたいとしています。
Q5:文献調査は長期化し、新たな調査地域も現れない状況が続いているが、処分地の選定に向けて、今後、どのような点がポイントになってくるか?
A5:「核のごみ」の最終処分に関する国の小委員会の委員を務める東京電機大学の寿楽浩太教授は、ポイントを3つあげて次のように指摘します。
<ポイント1>
▼寿都町と神恵内村で文献調査が始まってから3年が経過したことについて
「新型コロナの感染拡大が『対話の場』の開催に影響した部分もあり、調査の期間が長引いたことについてはやむをえない部分もあった」とした上で、「時間を理由にして対話の場が打ち切られることは避けなければならず、一概に2年という期間にこだわる必要はかっただろう」と話しています。
<ポイント2>
▼処分地の選定に向けた国やNUMOの調査の進め方について
「今後のプロセスについては不透明な部分が残ったままで、そういった中では様々な憶測が飛び交って疑心暗鬼や不信が生じかねない」と指摘した上で、「まずどういう段取りでこの先の調査が進んでいくのかや、他の調査地が現れる可能性について国やNUMOがどういった見通しを持っているのか、どのような手順や基準によって最終的な候補地を決めていくのかなどについて、そろそろ具体化して地域や社会全体にはっきりと示していくべき局面を迎えている。全体のプロセスを明確化して、個人や自治体が自信を持って判断できるよう環境を整備することが国やNUMOの重大な責任であり、地域住民の安心感や信頼にもつながる」と話しました。
<ポイント3>
▼この3年で寿都町と神恵内村以外に新たな調査地域が現れていないことについて
「今の『公募方式』は、どうして自分たちの自治体で調査が実施されるかについて、納得のいく答えを得るのが難しく、地域にとっての負担が非常に大きい。多くの自治体が財政難に苦しむ中で、大きな額の交付金を示して応募を募るというのは、公正さを欠くということに加えて、交付金と引き換えに何らかのお願いをされる形になってしまうという批判もずっとある。現在のやり方が本当に最善なのか、社会全体で考えていく必要がある」と話しています。
Q6:調査開始から3年について実施主体のNUMO=原子力発電環境整備機構はどのように受け止めているか?
A6:NHKの取材に次のようにコメントしています。
「寿都町と神恵内村について文献調査を実施させていただいていることは大変ありがたく、深く敬意を表するとともに、対話活動などを実施させていただいていることについても心から感謝申し上げる。初めて実施している文献調査でもあり、丁寧に対話を重ねながら、しっかりと文献調査の取りまとめを進めてまいりたい」。