観光振興の財源確保に“宿泊税” 道内の検討状況と課題は  

観光振興を図るための財源を確保しようと、道内の自治体では宿泊税の検討が進んでいます。このうち札幌市は宿泊税として1泊あたり5万円未満のときに200円を課税するなどの案を検討。道内の検討状況や導入に向けた課題などについて詳しくみていきます。

【札幌市が宿泊税の説明会】
8日、札幌市が開いた説明会には市内の宿泊事業者や観光団体の代表者など13人が参加しました。
この中で、札幌市は検討を進めている宿泊税について、料金に応じて税額が変わる「段階的定額制」の案を示しました。
具体的には◇ホテルや旅館の1泊あたりの料金が5万円未満のときは200円、◇5万円以上のときは500円を課税するということです。
年間で27億円あまりの税収が見込まれていて、市は使いみちについて、◇観光案内所の拡充や◇公共交通のバリアフリー化、◇インバウンド向けの多言語対応などを進めることで観光客やビジネス客の利便性の向上につなげたいとしています。
いわゆる宿泊税をめぐってはことし9月、道が◇1万円未満で100円、◇1万円以上5万円未満で200円、◇5万円以上で500円を課税する案を示していて、いずれも実施された場合には上乗せして徴収されることになります。
札幌ホテル旅館協同組合の橋本吉巧理事長は「札幌市で集めたものを市内で使うことはイメージしやすいが、道とあわせたときの税額や導入時期、徴収方法を具体的に検討し、私たち事業者が納得して徴収できる体制をつくってほしい」。
札幌市経済観光局の青山智則観光・MICE担当局長は「きょういただいた意見をしっかりと受け止めてどのように解決できるか検討を進めていきたい。宿泊事業者にとっては道と市であわせていくらになるのかが気になる点だと思うので、納得してもらえるように道と調整したい」。
また、8日はニセコ町も宿泊税の案を公表し、◇2万円未満で200円、◇2万円以上では段階的に500円から2000円を課税するとしています。
【宿泊税について担当記者が解説】
こうした各地で検討が進む「宿泊税」について、担当の渡邉記者が詳しく解説します。
Q:道内の宿泊税の検討状況は?
A:道内では、札幌市のほか函館市や小樽市など、観光地を中心に14の市町村で検討されています。
一方で、道も検討を進めていて、実施が決まれば、道と市町村にそれぞれ税金を払うことになります。
道内で唯一、すでに実施されている倶知安町では懸念も生じています。
【実施済みの倶知安町では】
ニセコエリアを有する倶知安町は、4年前から道内で初めて宿泊税を課税し、素泊まり料金の2%にあたる金額を徴収しています。
このうち早川貴士さんが経営するペンションでは当初から大きな混乱はなく、宿泊客からの不満の声もほとんどないということです。
ただし、町に加えて道も課税することになると、制度が異なることから作業の負担が増えるとともに、宿泊客に対する説明も難しくなると感じています。
早川さんは「先行している自治体に合わせた税率や徴収方法を考えてほしい。宿泊税の導入によって地域にどういうメリットがあるのかという部分もよく議論したうえで進めていってほしい」
Q:倶知安町では今後に不安の声があがっているが。
A:事業者にとっては、道と市町村の制度が異なると、事務作業などの手間が増えるため、わかりやすい制度設計が求められます。
一方で、宿泊客にとっては2重の負担増になります。
札幌市内に宿泊した場合、道と札幌市に支払う宿泊税は、1泊あたり◇1万円未満であわせて300円、◇1万円以上5万円未満では400円、◇5万円を超えると1000円が課税される想定です。
Q:使いみちは何なのか?
A:主に「観光振興」に使うことになっています。
実際に倶知安町では、昨年度の税収は2億4000万円あまりにのぼっていて、観光施設などの整備につながっているということです。
ただし、全国の観光地と比べて、北海道は少し特殊な状況です。
去年1年間に道内のホテルや旅館に泊まった客のうち、およそ半分は道内に住んでいる人でした。
これは全国平均と比べても2倍近い割合です。
やはり、広い北海道では道内の宿泊も多くなるという事情があり、宿泊税は、道民の負担の増加につながることになります。
この点について、街の人の反応です。
観光のために埼玉県から夫婦で訪れたという60代の女性は「税金はないほうがいいが、このご時世なので致し方ないとは思う。北海道は何度も来たい場所なので宿泊税があっても来ないということにはならない」。
道内から出張で札幌を訪れているという60代の男性は、「仕事で各地をまわる必要があるので、負担が大きくなって困る。北海道という広い地域では道内の出張でも宿泊が伴うのでもう少し考えてほしい」。
札幌市の40代の男性は「ホテル料金が上がっている中でさらに税金を取られるのは負担ばかり増えるという印象だ。使いみちなどのしっかりとした説明が必要だ」。
一方、札幌市の80代の男性は「ばらまいて使うのではなく、観光資源や施設などのインフラ整備に集中して使ってほしい。道がわかりやすくなったり、水たまりが無くなったりするならいいと思う」。
Q:道民の理解を得るために何が必要か?
A:具体的な負担額や徴収のあり方について議論を深めることはもちろんですが、使いみちをきちんと明示することが、宿泊税に対する理解を得るための第一歩だと思います。
道や札幌市は、具体的にどのように観光振興に結びつけるのか。
そして結果的に道民にどんなメリットをもたらすのかについて、積極的に発信していくことが求められます。