【2030大会招致断念】賛否の市民 経済界など関係者の反応

【市民の反応は】
スキージャンプやノルディック複合の競技会場として予定されている札幌市中央区の「大倉山ジャンプ競技場」では、観光客や市民から残念といった声や妥当だという意見が聞かれました。
栃木県から家族で観光に訪れていた70代の女性は、「スキージャンプはいつも見ているので一度見てみたいと思って競技場に来ました。札幌でまたオリンピックを見てみたかったので断念はちょっと残念です」と話していました。
茨城県から旅行で訪れていた60代の男性は、「オリンピックが開催されれば札幌をまた観光する機会があったかもしれないので、楽しみにしていましたが、残念です」と話していました。
また、東京から旅行で訪れていた70代の男性は、「札幌は以前オリンピックが開催されてから、街なかがきれいに整備されたと感じます。また札幌で開催してほしいですし、開催されたら息子と一緒に見に来たいです」と話していました。
札幌市の市民のうち、招致に賛成だという競技場近くに住む50代の男性は「いろんな国の人たちが来ることを楽しみにしていたので、残念です。ぜひここでオリンピックが開かれてほしいなと思いますし、市民や行政全体で乗り越えていけたらいいなと思います」と話していました。
一方、招致に反対だという近くに住む50代の女性は、「頑張っていた地元のアスリートの方を見られないのは残念ですが、開発によって周辺の自然を維持できるのかという不安があったので、断念となって安心していますし、周りの人も反対の人が多かったので、ほっとしています」と話していました。
また、招致に反対だという札幌市の40代の男性は、「オリンピック招致ありきで物事がすべて進んでいって、街の整備がおろそかになるのは賛成できなかったので、見送りは妥当だと思います。北海道の経済が停滞していて人口が減少する中、いまはオリンピックに莫大な資金を投入する時期ではないと思います」と話していました。
【招致の賛否問う住民投票の実現目指す団体は】
招致の賛否を問う住民投票を実現しようと署名活動を行っている団体からは、行政には市民の声を聞いてほしいという意見が聞かれました。
札幌市の市民などで作る「札幌オリパラ住民投票を求める会」は、2030年の大会の招致の賛否を問う住民投票を実現しようと、署名活動を行っていて、11日も札幌市の中心部で署名を集めていました。
団体では、2034年以降の大会招致の賛否を問う住民投票の実現に向けて、今後も署名活動を続けることにしています。
高橋大輔事務局長は、「大会の招致については、住民投票によって民意がはっきりわかると思うので、今後も署名活動を続けていく。行政にはまず市民の声を聞いてほしいし、そのために住民投票をしてほしいので、真摯に応えてほしい」と話していました。
【積極的に招致活動に関わってきた経済界は】
道内の経済団体や競技団体などでつくる「冬季オリンピック・パラリンピック札幌招致期成会」の会長などを務める札幌商工会議所の岩田圭剛会頭は「これまで民間の立場として機運醸成を行ってきたわれわれとしては率直に残念な思いもある。しかしながら、2034年以降の大会招致の可能性を探っていくということであり、招致活動から撤退するということではないので、経済界としても引き続きしっかりとこれをバックアップしていきたい」とコメントしています。
その上で「札幌で2度目となるオリンピック、そして初めてのパラリンピックを開催することで、人種や性別、国籍の垣根を超えた多くの人々の思いが一つになり、持続可能な社会を目指す機会となる。そして、さまざまなまちづくりの取り組みを加速させ、市民生活、経済活動に好影響を与えるものとなる。これらはすべて大会の開催年次にはとらわれないものである。引き続き経済界としては札幌市と緊密に連携しながら今後の大会招致活動に協力していきたい」としています。
【道観光振興機構は】
北海道観光振興機構の小金澤健司会長はNHKの取材に対し、「コロナ禍で落ち込んだ海外からの観光客がやっと戻ってきた中で、オリンピック・パラリンピックの開催が北海道を知らない人へのプロモーションになると思っていたので非常に残念だ。2030年を目指して活動してきた中、2034年以降を目指すとなると、海外へのアピールとしては弱くなってしまうおそれがある」と述べました。
その上で、「引き続き大会の招致活動に協力していくとともに、機構としては、ことし北海道で開かれた体験型の観光の国際商談会『アドベンチャートラベルワールドサミット』のような海外へのアピールの機会をもっと探っていく必要があると思う」と述べ、オリンピック・パラリンピックの開催年次にとらわれず、道内の観光産業の活性化に向けて引き続き注力する考えを示しました。
【鈴木知事「丁寧な説明を」】
鈴木知事は記者団に対し、「道や競技会場となっている帯広市にもまだ連絡が来ていない状況だ。2030年の招致を中止するというのは大きな決断であり、札幌市民や道民をはじめ、協力してきた自治体や関係者には丁寧に説明してほしい」と述べました。
【長野五輪スキージャンプ団体金メダルの岡部孝信さん】
25年前の長野オリンピックでスキージャンプ男子ラージヒル団体で金メダルを獲得し、現在は社会人チーム、「雪印メグミルク」の総監督を務める岡部孝信さんは「自国開催のオリンピックは、選手として、一生に一度あるかないかの機会なので、そこにかける選手の思いは大変大きいと思う。2030年の招致断念は大変残念なことで、34年以降の招致を期待したい」とコメントしました。
そのうえで、岡部さんは、「自国開催ではなくとも、オリンピック・パラリンピック自体は開催される。2030年の招致断念を残念に思っている選手も多いと思うが、開催地がどこであっても選手が取り組むべきことに変わりはない。引き続き世界一を目指して頑張ってもらいたい」と選手たちにエールを送りました。

【中京大学 來田享子教授”振り返りができていない”】
オリンピックの歴史に詳しい中京大学の來田享子教授は、おととし夏の東京大会をめぐる不祥事による支持の低下が判断の大きな理由になったことについて、自身が東京大会の組織委員会理事を務めたことを踏まえたうえで、「市民の目で不正をチェックすることができなかったのはなぜか、組織委員会のなかでチェックができる体制になっていなかったのはなぜかということについてまだ振り返りがうまくできていない。不正がないという当たり前のことができていないことに加えて、税金を投じるオリンピックにどんな意義があるのかということにコンセンサスを得られていないということが、乗り越えるべきとても重要な課題となっている」と指摘しました。
そのうえで今後の招致活動に向けては「近年のオリンピックでは、インフラ整備などによるメリットや開催地への直接的な経済効果はあまりないということが世界の共通認識になっている。一方で、人権問題や社会の持続可能性など世の中が変わっていくことを後押しするような価値を見いだしていく段階にきている。例えば環境問題など札幌が雪のあるまちのモデルとして危機感を持ってオリンピック・パラリンピックを通じてどんな姿を見せようとしているのかを市民の望むかたちで提案できることが求められている」と話しました。