「核ごみ」最終処分地 長崎県対馬市長“文献調査受け入れず”

原子力発電で出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分地選定に向けた「文献調査」が寿都町と神恵内村でまとめの段階に入る中、「文献調査」を受け入れるかどうか議論が続いている長崎県対馬市の市長が調査を受け入れない意向を表明しました。

「核のごみ」は最終処分場を設けて地下300メートルより深くに埋めることが法律で定められていて、処分地の選定に向けては3段階で調査を行うことになっています。
このうち第1段階にあたる「文献調査」の受け入れをめぐって対馬市議会は今月12日、賛成派の団体が出していた受け入れの促進を求める請願を10対8の賛成多数で採択しました。
文献調査に応じるかどうかは最終的に市長が決めることになっていますが、対馬市の比田勝尚喜市長は27日最終日を迎えた市議会で、「議会の採択を重く受け止めながらも市民の将来に向けて熟慮した結果、『文献調査』を受け入れないとの判断に至りました」と述べ、調査を受け入れない意向を表明しました。
「核のごみ」の最終処分地の選定に向けた調査は、寿都町と神恵内村で3年前から全国で初めて実施されていて、現在、「文献調査」の報告書を取りまとめる作業が行われています。
地元の住民からは最終処分地の選定が「北海道だけの問題」とならないよう全国的に関心を広げることを求める声が上がっているほか、2つの自治体のトップは調査を行う地域の拡大を訴え続けていますが、対馬市の市長の表明によって調査地域は寿都町と神恵内村だけの状況が続くことになります。

長崎県対馬市の市長がいわゆる「核のごみ」の最終処分地選定に向けた文献調査を受け入れない意向を表明したことについて、寿都町の片岡春雄町長はNHKの取材に対し、「コメントできることは何もない。町民向けの勉強会は全国で調査が実施されることが前提で、一日も早くほかの調査地域が出てくれることを願うほかない」と話しています。
また、神恵内村の高橋昌幸村長はNHKの取材に対し、「ほかの自治体の決定なので申し上げることは何もない。より多くの場所で調査が行われることが望ましいと考えているため、国などには引き続き、全国的な議論が行われるように力を尽くしてもらいたい」と話しています。

【道内の現状と今後】
いわゆる「核のごみ」の最終処分地の選定に向けた調査の第1段階にあたる「文献調査」は、全国で初めて、3年前の2020年11月に寿都町と神恵内村で始まりました。
現在は実質的な調査がほぼ終わり、事業主体のNUMO=原子力発電環境整備機構が結果を取りまとめる段階に入っています。
今後は、NUMOが調査の報告書をまとめ、第2段階の「概要調査」の計画を策定することになりますが、この調査に進むには地元の町村長や知事から同意を得る必要があります。
鈴木知事は、▽処分場を受け入れないとする道の条例や、▽核のごみが「北海道の問題」にされてしまう懸念などを理由に、「概要調査」に進むことに反対する意向を示しています。
一方、寿都町では「概要調査」の前に住民投票が行われるほか、神恵内村の高橋昌幸村長は何らかの形で住民の意思を確認する機会を設けたいとしています。
寿都町と神恵内村では、この3年間、新たな調査地域が現れなかったことから、「全国で議論して答えを出すべき問題が2つの町と村の住民に押しつけられている」といった声が住民から上がるようになりました。
このため、寿都町の片岡春雄町長は「一日も早く第3、第4の調査地域が出てきてほしい」と繰り返し訴えてきたほか、神恵内村の高橋村長も「最も適切な場所を選ぶためにはより多くの地域で調査が行われることが重要だ」と話してきました。
こうした中、長崎県対馬市で「文献調査」の受け入れについての議論が持ち上がり、ことし5月に地元の建設業の団体が調査への応募を市に働きかけるよう求める請願を市議会に提出する方針を決めた際、寿都町の片岡町長は「一日も早く仲間ができてほしい。より多くの場所で調査が行われ、全国的に議論が盛り上がることが重要だ」と話していました。
27日、長崎県対馬市の比田勝尚喜市長が文献調査を受け入れない意向を表明したことで、調査地域は寿都町と神恵内村だけの状況が続くことになり、地元からは全国的に関心を広げるよう求める声が強まるとみられます。
また、寿都町の片岡町長は、概要調査の前に行う町民対象の勉強会や調査の是非を問う住民投票について、ほかの調査地域が現れるまで実施しない方針を示しているため、概要調査に向けたスケジュールにも影響が出る可能性があります。

【道“国民的議論必要”】
長崎県対馬市の市長が「核のごみ」の最終処分地選定に向けた文献調査を受け入れない意向を表明したことについて、2つの自治体で処分地選定の調査が進められている北海道は、直接的なコメントは差し控えるとした上で、「高レベル放射性廃棄物の最終処分の問題は、原発の所在の有無に関わらず国民的な議論が必要な問題だ。道としては、国に対して最終処分事業の理解促進に向けた取り組みを一層加速させるよう引き続き働きかけていく」としています。