JR函館線脱線事故10年 安全確保へ取り組み 課題指摘も

JR北海道で、鉄道の安全を根幹から揺るがす事態が次々と発覚するきっかけとなったJR函館線大沼駅構内での貨物列車の脱線事故から10年となった19日、再発防止に向けた研修が行われました。

10年前の2013年9月19日、JR函館線の大沼駅構内で貨物列車が脱線した事故では、JR北海道がレール幅の補修が必要だったにもかかわらず放置していたことや、検査データの改ざんをしていたことなどが相次いで明らかになり、鉄道の安全を根幹から揺るがす事態が次々と発覚するきっかけとなりました。
JR北海道は、事故の起きた日を「保線安全の日」と定めて研修を行っていて、このうち大沼駅がある七飯町では社員およそ90人が参加して再発防止に向けた研修が行われました。
この中でJR北海道の綿貫泰之社長は脱線事故について「鉄道事業を運営する会社としてその資質とモラルが一から問われる事故だった」と述べました。
さらに、保線に従事するJR北海道の社員のうちおよそ6割が、事故の後に入社しているとした上で、「みなさんが鉄道輸送の根幹を担っていることを誇りに思い、お客様と社員の命を守るという気概を持ちながら、その使命を果たすため一丸となって安全な線路、安全な鉄道輸送を守っていきましょう」と呼びかけました。
【斉藤国交相「2度と起きないように」】
斉藤国土交通大臣は19日の閣議のあとの会見で、「平成26年に国土交通省から事業改善命令と監督命令を出したが、近年、JR北海道では事故となるおそれのあるインシデントなどの件数は減少傾向にあり、一定の効果があらわれていると認識している」と述べました。
その上で、「国土交通省としては引き続き監査などを通じて、安全が確保されているか確認するとともに、JR北海道の厳しい経営環境を踏まえ、設備投資に対する支援などを実施し、2度とこのような事態が発生しないよう、指導してまいりたい」と述べ、引き続き指導を徹底していく考えを示しました。
【事故で安全軽視浮き彫りに】
10年前にJR函館線の大沼駅構内で起きた貨物列車の脱線事故をきっかけに、JR北海道では鉄道の安全を根幹から揺るがす事態が次々と発覚しました。
事故の原因は現場付近のレールの幅の広がりが最大で基準値の2倍以上になっていたにもかかわらず、補修を行わず放置していたことなどでした。
さらに、その後の調査で、貨物列車の脱線事故が起きた現場を含めて補修を行わず放置していたケースが常態化していたほか、レールの検査データを改ざんしていたことも明らかになりました。
社内調査では44か所の保線部署のうち75%にあたる33か所でデータが改ざんされていたことが分かりました。
背景にあったのは、時刻表どおりの「安定輸送」を最優先に考え、検査や補修による遅延や運休を認めないといった「安全を軽視する体質」です。
事故を受けてJR北海道は、「安全第一、安定第二」を掲げて再発防止に取り組むことになります。
▽レールの幅については、測定データが自動で記録される装置を導入し改ざんが難しい仕組みを整えたほか、▽鉄道設備の検査結果はタブレットに入力し、多重チェックを徹底するなど、安全確保に向けた取り組みを強化しました。
一方、「危ないと思ったらすぐに列車を止める」という方針が明確に示されたことから、利用者からは「以前よりも頻繁に運休するようになった」という声が上がっているのも事実です。
運休や30分以上の遅れが生じた「輸送障害」の件数は脱線事故が起きた2013年度は374件でしたが、大雪による影響もあった2021年度は595件と増加傾向にあります。
JR北海道には、安全を最優先にしながらも、利便性を求める利用者の声にどう応えていくか、公共交通を担う鉄道事業者としての対応が問われています。
【専門家「安全維持に人材・資金面で課題」】
JR北海道が安全確保に向けた取り組みを続ける上で、専門家は人材面や資金面での課題があると指摘しています。
JR北海道によりますと、昨年度自己都合で退職した人の数は232人とこれまでで最も多く、中でも「保線」の担当を含む「工務・電気」の部門は94人と最も多い割合を占めていて、人手不足が深刻化しています。
また、JR北海道の昨年度の修繕費は365億円と脱線事故が起きた2013年度の277億円と比べて1.3倍あまりに増加しています。
こうした人材不足や修繕費の増加は、近年、相次いでいる鉄道の廃止の要因にもなっています。
外部の有識者でつくるJR北海道の「安全アドバイザー会議」のメンバーで北海道大学工学研究院の高野伸栄教授は「『安全第一、安定第二』という方針を明確に打ち出したことは評価できる一方で、利用者数が減少傾向にある中で安全にかけられるコストの制約が厳しくなっている。北海道新幹線が札幌まで延伸すると、人員をそちらにも割かないといけなくなるため、初期投資がかかったとしても、他社の事例を参考にしてさらなるIT化を推進し、より効率的に安全対策を行うことが必要だ」と話しています。