「マイナ保険証」相次ぐトラブル 現状は? どうすれば?

マイナンバーカードと一体化した健康保険証「マイナ保険証」についてです。岸田総理大臣は先週、今の健康保険証を来年秋に廃止する方針を当面維持する意向を示しました。
ただ、マイナ保険証をめぐっては全国の5000あまりの医療機関でトラブルが起きていて、道内でもマイナ保険証が読み取れないなどのケースが報告されています。現状を取材しました。

【相次ぐトラブル】
マイナンバーカードと一体化した健康保険証「マイナ保険証」について、医療従事者でつくる団体が調査したところ、全国の5000あまりの医療機関で「トラブルがあった」と回答しています。
医師や歯科医師でつくる団体「全国保険医団体連合会」は、「マイナ保険証」についてことし5月から調査を行い、41都道府県の1万あまりの医療機関から回答を得ました。
その結果、全国の5493の医療機関で何らかのトラブルが起きていて、▼別の人の情報がひも付けられていたケースが31都府県で114件、▼窓口で情報を確認できず、一時、患者に全額負担を求めたケースは38都道府県で少なくとも776件あったということです。
このうち道内でも、▼マイナ保険証が読み取れず本人確認が出来なかったり、▼情報が正しく反映されていなかったりしたケースが報告されています。

【札幌のクリニックでは】
1日におよそ100人の患者が受診する札幌市手稲区の泌尿器科クリニックでは、ことし4月に「マイナ保険証」のシステムを導入しました。
患者の1割弱が「マイナ保険証」を利用していますが、顔認証がうまくいかなかったり、該当者無しと表示されたりして、本人確認ができないケースがあるということです。
クリニックは、患者が従来の保険証を持参している場合は従来の保険証で、ない場合は診察券とカルテなどを調べて対応しています。
患者の中には、すでに「マイナ保険証」を持っているものの、トラブルが相次いでいることから従来の保険証で受診する人もいるということです。
受診した患者は「個人情報が漏れることが不安なので、マイナ保険証は持っているが、これまでの保険証と2枚持ち歩いていて、使っているのはこれまでの保険証です」と話していました。
ていね泌尿器科理事長の鈴木伸和医師は「マイナ保険証の導入メリットは理解できるが、命を預かる医療の現場でこれ以上混乱が起きないよう、秋の廃止するまでに、しっかりと点検をしてもらわないと困ります」と話していました。

【取得が難しい人も】
69歳から101歳までの80人が入所する、札幌市厚別区の特別養護老人ホームです。
入所者のうち、「マイナ保険証」を取得しているのはわずか3人です。
入所者が病院を受診する際は、この施設では従来の健康保険証を使っていて、普段はファイルに入れた上で、鍵付きのロッカーに保管し、看護師や生活相談員などがその都度持ち出しているということです。
マイナンバーカードの取得には、顔写真の提出や暗証番号の設定が必要なため、認知症や寝たきりの入所者は本人が申請するのは難しく、家族や施設の代理で申請することも必要な書類や作成に時間がかかり、この施設ではスタッフも少ない中で、手続きなどは難しいとしています。
国は今後、認知症や障害のある人などを対象に、マイナンバーカードの暗証番号なしでの申請や交付を受け付けたり、自治体から出張申請の職員を派遣したりするほか、本人確認を窓口の目視でも可能にするなど負担を軽減していきたいとしています。
社会福祉法人栄和会特別養護老人ホーム「あつべつ南5丁目」の生活相談員、久慈隆之さんは「過去の薬剤情報や診察歴をマイナ保険証で確認できるなど、メリットは理解できる。資格確認証の有効期限も5年まで延長するということで安心した面もあるが、国の方針も具体的にまだわからないので、高齢者をあずかる現場としては不安を感じている」と話していました。

【“国は丁寧に対応を”】
来年秋に今の健康保険証を廃止する方針を当面維持し、マイナンバーカードと一体化した保険証を持っていない人すべてに「資格確認書」を発行するなどの国の対応策について、デジタル行政に詳しい中央大学総合政策学部の宮下紘教授は「さまざまな声がある中で、当初の予定どおり進めていくことに決めた一方で、マイナ保険証と資格確認書を併用するなど緩やかにでもデジタル化を進めていこうという姿勢は評価できるのではないか」と話しています。
その上で、マイナ保険証の利点を国民に理解してもらわない限りトラブルだけが先行して伝わりさらに不安が広がってしまうと指摘した上で、宮下教授は「特にデジタルに苦手意識のある高齢者には国が管理している情報をわかりやすい形で示すなど、国民皆保険の日本でこの制度を信頼してもらうために、期限を区切って急いで進めるのではなく丁寧に対応していく必要がある」と話していました。