町に生きる人々の声を残す〜中頓別町・銭湯の物語

地域にディープな人脈を持つローカルフレンズのもとに、ディレクターが1か月滞在する「ローカルフレンズ滞在記」。今回の舞台は中頓別町。ローカルフレンズで菓子店の店主・中野巧都さんのもとに、札幌局の佐藤耀ディレクターが滞在しています。今回が最終週です。

中野さんに連れてきてもらったのは、町の中心部にある銭湯「黄金湯」。その番台で常連さんと仲睦まじい様子で話していたのが、今回の主人公となる植村友貴さんです。中頓別町に移住して2年目、現在30歳の植村さん。福祉施設などで働く傍ら、毎週日曜日は銭湯の番台に座っています。

実は2年前、黄金湯は一度廃業してしまいます。そんな中、植村さんは銭湯の常連さんと立ち上がりました。ボランティアで銭湯を運営する仕組みをつくり、町に欠かせない憩いの場として復活させたのです。「いろんな人が地域でその人らしく生きられるような地域社会であってほしい」と植村さんは言います。

銭湯の再開に協力したひとりが、炭焼き職人の岩田利雄さん。岩田さんは長年銭湯に通い続けるお客さんであり、再開にあたってはお湯を沸かす薪を用意してくれました。

こうした交流をきっかけに、植村さんは町のお年寄りたちとの交流を深めていきます。お年寄りたちの語りから見えてくるもうひとつの中頓別町の姿。やがて植村さんは、それを地域の貴重な記録として残したいと思うようになり、母校である北海道大学の教授たちと聞き書きを始めました。「書き残されることの少ない地域に生きる一人ひとりの体験こそ、ちゃんと書き残さないといけないんじゃないかなって」。そんな思いを込め1年半かけて9人の語りを本にまとめたのです。完成した本を読んだ炭焼き職人の岩田さんは「みんな似たような苦労したんだなあって」「これはいっぺんに友達ができたような感じで」とうれしそう。本をきっかけにお年寄りたちの間に新たな交流も生まれています。

「ちょっとずつ前に進めているかな」と、中頓別町での暮らしを振り返る植村さん。この日曜日も銭湯の番台で町のみんなとの出会いを待ちます。