道北で増える風力発電施設 大型風車の保守人材の育成が急務

続いては特集です。
道北では風が強い地理的特性を生かして、風力発電施設が次々と建設されています。
再生可能エネルギーの一大生産基地として期待が高まる一方で、いま、数が増え続ける風車のメンテナンスを担う人材の育成が急務となっています。
その現場を取材しました。(取材 稚内支局 山川信彰)

【風力発電施設 道北に建設相次ぐ】。
道北の幌延町に2023年5月に完成した陸上風力発電所です。
大手風力発電会社の「ユーラスエナジーホールディングス」が建設し、国内最大級、高さおよそ150メートルの大型風車を14基備えています。
道北では海から吹き寄せる強い風を利用して電気を生み出す風力発電施設が次々と建設されています。
【風力発電の“弱点”克服へ 送電線・蓄電池を整備】
発電した大量の電気を消費地へ届ける専用の送電線も整備されました。
稚内市から中川町まで総延長は78キロ、つなぐ鉄塔の数は269基に及びます。
送電線を建設したのは稚内市に本社がある「北海道北部風力送電」です。
建設費はおよそ1050億円。
多額の費用をかけて作った理由は…。
(北海道北部風力送電 吉村知己 社長)
「再エネの適地というのがどうしても需要地から離れたところにあるので、電気を使う人ではなくて、電気を作る人のところに向かって送電線を作っていく」。
道北には大手電力会社が整備した送電線は少なく、札幌など電気を消費する地域に大量の電気を送れませんでした。
その課題を克服するために送電線は建設されました。
さらに、風の強さによって発電量が変動する、風力発電の不安定さを克服するために、送電線には国内最大級の蓄電池を備えました。
風が強いときには電力を貯蔵。
風が弱まれば送電線へ電気を送り、安定的な供給ができるということです。
(北海道北部風力送電 吉村知己 社長)
「電気は使う分と作る分を同時に同量であわせる同時同量を守らないと電圧が変動する。最悪の場合は大きな停電がドミノ倒しのように続いてしまう。そのひとつの解決策が蓄電池だ」。
送電線には2年後までにあわせて127基の風車が接続され、最大54万キロワット、一般家庭およそ40万世帯分の消費電力を届けられるようになるということです。
【風力発電業界も人手不足 人材育成が急務】
風力発電特有の“弱点”を克服するために整備された「送電線」と「蓄電池」。
しかし、いま、新たな課題が。
増え続ける風車のメンテナンスを担う人材の育成です。
大型の風車は海外の製品がほとんどで、その保守管理にあたるには欧米の風力発電企業や風車メーカーなどでつくる非営利組織「GWO」が定める認証取得が必要です。
「GWO」の認証を取得できる研修施設は全国に5か所のみ。
そのひとつを作ったのが先ほど紹介した「ユーラスエナジーホールディングス」です。
(ユーラステクニカルサービス 高木晋洋 設備運用管理部長)
「保守をしている対象の風車はいま440基程度ある。実際、風車のメンテナンスに携わっている人間というのは110数名。大体1人あたま4基ぐらいの風車を見ている。やはり風車の数が増えるのにあわせて保守の人間を増やしていかざるをえない」。
施設には▼消火訓練設備や、▼AEDを使って心肺蘇生法を習得する設備などがあり、受講者は事故が起きた場合の対応を座学や実技で学びます。
取材に訪れた日、行われたのは風車で火災が発生した場合の脱出訓練です。
一瞬の気の緩みが転落事故につながるだけに、受講者たちは真剣な表情で臨んでいました。
この会社では、2023年中に風車のメンテナンスにあたる社員全員の認証取得を目指すほか、今後、ほかの保守管理業者などからも受講者を受け入れ、風力発電を担う人材の育成をはかりたいとしています。
(ユーラステクニカルサービス 高木晋洋 設備運用管理部長)
「人材確保というのは弊社だけではなく、他の風力事業者さんにおいても大きな課題だと思う。昨今の少子化や、どちらかといえば3Kと言われる大型風車の保守業務に人があまり集まってこない状況のなかにあっても、保守にあたる人の数を増やしていく取り組みは続けていかなければならない」。