新幹線延伸後 鉄道貨物存続の方針確認 令和7年度中最終結論

北海道新幹線の札幌延伸に伴い、JRから経営が分離される区間のうち、函館から長万部までの鉄道貨物について、国や道などは26日に開いた会合で存続させる方針を確認しました。今後は有識者会議を設置し、費用負担のあり方を含む最終的な結論を令和7年度中にまとめることにしています。

北海道新幹線の札幌延伸に伴いJRから経営が分離される区間のうち、函館から長万部までの区間は北海道と本州を結ぶ鉄道貨物が通る唯一のルートで、廃止されると道産の農作物などの物流に大きな影響を及ぼすことから、国と道、JR貨物、それにJR北海道は鉄道貨物を存続させる方向で調整を進めてきました。
26日に開かれた会合では、こうした方針を確認した上で、路線を維持していくには多額の費用や人員が必要になるとして、▼年内にも有識者会議を設置し、費用負担のあり方を含む最終的な結論を令和7年度中にまとめることや、▼物流事業者や沿線の自治体にヒアリングを実施し課題を整理することなどを決めました。
このあと開かれた会見で、道の担当者は「この区間は現在も鉄道貨物輸送の大動脈であり、北海道だけでなく日本の経済にとっても極めて重要な役割を果たしていることを確認した。存続させる場合はJR北海道から引き継ぐ保有主体を決めることや、年間数十億円規模の維持管理費用や人員をどう確保するかなど問題もあるため、今後、解決法の検討を進めていく」と述べました。
一方、この区間の旅客輸送については道と沿線の自治体の間で引き続き協議が行われています。

【鉄道貨物の現状】
北海道新幹線が札幌まで延伸するのに伴い、並行在来線の函館から長万部の区間はJRから経営が分離されることから、平成24年に地元の自治体や道でつくる協議会が設置され、旅客鉄道を存続させるかどうか話し合われています。
仮に、この区間の旅客鉄道が廃止されれば、同じ区間を走行している鉄道貨物にも線路の維持費用などで影響がでることから、国と道、JR貨物、それにJR北海道が去年から協議を行っています。
この区間は北海道と本州を結ぶ鉄道貨物が通る唯一のルートで、物流の大きな役割を担っていて、JR貨物によりますと、昨年度(2022年度)北海道から本州や四国、九州に輸送された鉄道貨物は186万トンで、たまねぎや砂糖、じゃがいもなど農産品のほか乳製品や水産品などが全国の消費地に送られました。
また、本州などから道内へは通信販売などで購入したものや引っ越しの荷物などの宅配貨物、それに書籍や加工食品など合わせて191万トンが輸送されています。

【鉄道貨物料金の仕組み】
今後検討される費用負担のあり方によっては、鉄道貨物にかかる料金が値上がりし、わたしたちの生活にも大きな影響がでる可能性もあります。
函館から長万部までの区間は、現在は線路を保有するJR北海道が維持・管理をしていて、JR貨物が線路使用料を負担しているため、貨物を運送させた分だけJR北海道に支払う仕組みで設定されています。
しかし、北海道新幹線が延伸してJR北海道から経営が分離されれば、線路の保有や維持・管理する費用をどこが負担するのかが今後の議論となります。
この議論の行方によっては、線路を維持・管理するために鉄道貨物にかかる料金が値上がりしたり、線路を維持するために資金提供を求められたりするのではないかと、運送業者や農産品を本州などに送っている農業団体などから不安の声が上がっています。
仮に鉄道貨物にかかる料金が値上がりすれば、インターネットの通信販売や引っ越し料金、宅配便など利用者である私たちの生活に影響する可能性もあります。

【北見のタマネギ農家は】
函館から長万部までの区間の鉄道貨物を存続させると26日の協議会で確認された方針について、生産量日本一のたまねぎを鉄道貨物で輸送している北見市の農家からは、安どする一方、今後、輸送コストに影響が出るのではと不安な声が上がっています。
北見市やその周辺の地域は、全国のたまねぎの生産量のおよそ2割を占める日本一の産地です。
収穫したたまねぎの6割ほどを鉄道貨物で輸送していて、8月ごろから旭川までたまねぎを運ぶ臨時の貨物列車は、地元では通称「たまねぎ列車」と呼ばれ親しまれています。
本州に鉄道で輸送する際の唯一のルートとなる函館と長万部の間の鉄道貨物を存続させる方針が決まったことについて、14ヘクタールの畑でたまねぎを生産している北見市の加藤英樹さんは「トラックよりも鉄道の方が若干コストが低い。北海道の端にあるこの地域は輸送面の条件が悪く、鉄道貨物の存続が決まりほっとしている」と話していました。
その上で、今後、輸送コストがあがるかもしれなとして、「生産資材などすべて高騰している中で、運賃が経費の中でも一番かかっているので負担にならないように考えていただきたい。不安です」と話していました。

【専門家“国の支援を”】
26日の協議会で確認された方針について、地域物流が専門の北海商科大学の相浦宣徳教授は「この区間はわれわれの生活を支えている物流の大動脈であり、道内だけでなく全国の産業への影響も多大で、存続は賢明な選択だと思う」と評価しました。
そして、旅客鉄道の廃止によって鉄道貨物の存続が議論される今回のようなケースは、ほかの地方でも起こりえるとして、「北海道に限った問題ではなく、全国的な物流ネットワークのあり方を踏まえた上での議論が必要だ。将来の日本を担う物流の重要なネットワークがなくなってしまう可能性も今後、考えられれるが、今回の北海道のような議論が起きるたびに、鉄路の維持の地方負担の議論があってはならないと思う」と指摘しました。
その上で相浦教授は、今回の北海道のケースは、国が線路などを保有し、鉄道会社が運行を担う「上下分離方式」の導入を提案し、貨物鉄道ネットワークを維持するために国の積極的な支援を求めました。