蘭越町蒸気噴出 新たに基準の2100倍のヒ素検出

後志の蘭越町の地熱発電の調査現場で蒸気が噴出している問題で、新たに、現場で採取した水から国が定める飲料水の基準の2100倍にあたる濃度のヒ素が検出されたことがわかりました。
調査のため掘削を行っていた会社は、来月下旬にも蒸気の噴出を止めた上で掘削した井戸を廃坑にする方針を示しています。

蘭越町湯里の山中にある地熱発電に向けた資源量調査の掘削現場では先月29日以降、蒸気が噴出し続けていて、これまでに地元の住民ら4人が体調不良を訴えています。
掘削を行っていた東京に本社のある「三井石油開発」によりますと、現場で採取した水からは国が定める飲料水の基準の1590倍にあたる非常に高い濃度のヒ素が検出されていましたが、9日行った水質検査ではこれを上回る、基準の2100倍の濃度のヒ素が検出されたということです。
会社では体調に不安がある人は医療機関を受診するよう呼びかけています。
一方、会社は10日夜、2回目となる住民説明会を町内で開き、来月下旬にも蒸気の噴出を止める手だてを講じた上で、掘削した井戸を廃坑にする方針を示しました。
具体的には、掘削していた井戸に水を注入して冷やし蒸気の発生を抑えるとともに、鉄製のふたをすることで噴出を止めたいとしています。
10日夜、三井石油開発の原田英典社長は「皆さまの不安な気持ちをしっかりと受け止め、今後、より納得してもらえるよう丁寧に対応にあたりたい」と話していました。
【「三井石油開発」原田社長が鈴木知事に謝罪】
掘削を行っていた「三井石油開発」の原田英典社長は11日午後、道庁を訪れ、鈴木知事に謝罪しました。
これに対し、鈴木知事は、「当初、健康被害についての情報共有が適切に行われなかった点が指摘されるなど、大変遺憾に思っている。住民に大きな不安が広がっているので、迅速な対応をお願いする」と応じました。
その上で、今後は、情報共有などを迅速に行うため、国や道も参加する連絡会議を定期的に開催するよう求めました。
このあと原田社長は、記者団に対し、「知事から要望のあった連絡会議については、蘭越町と協議し状況が整えば速やかに開催したい。1日も早く安全を届けられるよう、全力で対応していく」と述べました。
【地元の米農家からは不安の声】
現場で採取された水からさらに高い濃度のヒ素が検出されたことなどを受けて、地元の人からは不安の声が聞かれました。
このうち、蘭越町で米農家をしている脇山良明さんは取水が制限された川とは別の川から水を引いてきましたが、心配した取引先などから問い合わせを相次いで受けたということです。
そのため、「風評被害に対応するために米の安全性を評価し結果を公表する仕組みを作ってもらいたい」と話しています。
また、脇山さんは地下水などを利用したエビの養殖事業も計画していました。
ただ、今回の問題によって、その計画にも影響が出ると心配しています。
脇山さんは「蘭越町のきれいな水で育ったエビを国内外に発信しようとした矢先にこんなことが起こってしまい、事業を進めていけるのか不安です」と話していました。
【現場から約6キロ離れた森林を管理する環境保護団体は】
噴出現場からおよそ6キロ離れた森林を管理する環境保護団体からも、「周辺の地下水の安全性について詳しい情報を共有してほしい」という声が上がっています。
江別市にある環境保護団体で公益財団法人の「草野河畔林トラスト財団」は噴出現場がある湯里地区でおよそ8万5000平方メートルの森林を管理しています。
森林は現場からは直線距離で南へおよそ6キロ離れていますが、財団事務局の田畑真紀さんは「管理する敷地周辺では湧き水や地下水を生活用水に利用している人も多いので影響がないか心配です」と話していました。
また、掘削を行った三井石油開発はヒ素が含まれた水を過去に掘った別の井戸に移すことにしていますが、これについても周囲の地下水などに影響が出ないか不安を募らせています。
田畑さんは「敷地内の植生や水脈に変化がないか今後も注視していきたい。会社には、周辺の地下水の安全性についてより詳しい情報を共有してほしい」と話していました。