蘭越町の蒸気噴出 現場から高濃度ヒ素検出で町が会社に抗議

後志の蘭越町の地熱発電の調査現場で先月下旬から蒸気が噴出している問題で、現場で採取した水から非常に高い濃度のヒ素が検出されたことを受けて、町は住民の健康を害し環境汚染に直結する深刻な事態だとして、掘削を行っていた会社に抗議しました。

蘭越町湯里の山中にある地熱発電に向けた資源量調査の掘削現場では、先月29日以降、蒸気が数十メートルの高さまで噴出していて、6日になって、現場で採取した水から国が定める飲料水の基準の1590倍にあたる非常に高い濃度のヒ素が検出されたことがわかりました。
町内ではこれまでに、硫化水素中毒と診断された女性を含むあわせて3人が体調不良を訴えています。
掘削工事を行っていた「三井石油開発」によりますと、発生から9日目の7日も噴出は止まっておらず、会社は高濃度のヒ素が検出された水のほとんどを近くにある沼の方向へ放出しているということです。
7日、蘭越町役場に説明に訪れた会社の担当者に対し、金秀行町長は「現場で発生した水の適切な処理を再三要請してきたが、敷地外への放出は地域で生活する住民の健康を害し、環境汚染に直結する深刻な事態だ」と強く抗議しました。
その上で、町側は水の処理対策について道と協議することや、対策を講じるまで沼の方への放出を速やかに停止するよう要望しました。
会社側は、具体的な対応を検討するとともに、引き続き周辺の住民に注意を呼びかけています。

【町が相談電話窓口】
この問題を受けて、蘭越町は健康に不安を感じる人の相談に応じるため専用の電話窓口を開設しています。
電話番号は0136ー57−6969、または0136−55−8525で、平日の午前8時45分から午後5時半まで受け付けています。
町は、体調がすぐれないなど不安のある人は気軽に相談してほしいと呼びかけています。

【蘭越町議が現場など視察】
蒸気の噴出現場で採取した水から非常に高い濃度のヒ素が検出されたことを受けて、7日午後、蘭越町の町議会議員10人が噴出現場や取水制限を受けている農家の状況などを視察しました。
はじめに、議員たちは噴出現場付近の立ち入りが制限されているエリアを訪れ、高濃度のヒ素が検出された現場を視察したほか、近くの川では水が濁っていないかなどを確認していました。
また農業用水の取水を控えるよう呼びかけられている地域では、コメ農家から、取水制限の状況や栽培への影響などを聞き取りました。
聞き取りに応じたコメ農家の林賢治さんは「いつになったら事態が収束するのか不安だ。早く落ちつくためにも議員のみなさんには対策を考えてもらえるようお願いしたい」と話していました。
町議会の熊谷雅幸議長は「まずはヒ素の数値が下がるように水質調査をしっかりやるよう求めていきたい。町民には議会からも状況を丁寧に知らせていく」と話していました。

【ヒ素に詳しい専門家の話】
蘭越町の掘削現場で蒸気が噴出し、現場で採取した水から非常に高い濃度のヒ素が検出された問題で、ヒ素の毒性に詳しい大阪公立大学医学部の鰐渕英機教授は「噴出を直接浴びたり、高濃度のヒ素が地下水に流れ込んだものを飲むと、健康被害のリスクがあるが、現場から離れた場所では、大気中のヒ素は大幅に薄まるため、健康被害のリスクは低いと思われるほか、農業用水についても、濃度が基準値をわずかに上回る程度であれば、農作物の汚染の懸念はほぼないと考えて良い」と話しています。
その上で、鰐渕教授は不安を感じている住民のためにも、「基準を大幅に上回るヒ素が含まれた水が外に流れ出ないよう隔離することや、蒸気が噴き出している場所に近づけないようにすることが重要だ。長期的な暴露や流出を防ぐため、まずは、噴出を止めることを最優先に行い、1か月をめどに周辺の水質を基準値以下に下げることが重要だ」と指摘しています。

【水質汚染対策に詳しい専門家】
水質汚染の対策に詳しい宮崎大学国際連携センターの伊藤健一准教授は、「拡散を防ぎながら、今後、発生源を制御していくことが重要だ」と指摘しています。
伊藤准教授によりますと、噴出した蒸気は有害物質が近隣に飛散するリスクがあることから、長期化する場合は、壁などで周囲を覆うなどして拡散を防ぐことが必要だとしています。
また、現場付近から検出された高い濃度のヒ素を含む水の処理については、人間が利用する地下水とは層の深さが異なる地下深くに水を戻す対応が有効だとしています。
すでに川に流れ出てしまったヒ素を含む水については、この地域の川の水量が多いため自然に濃度が低くなるので影響はほとんどないということです。
今後の見通しについて伊藤准教授は、蒸気が収まる時期の予測は難しく、拡散の防止を進めながら、発生源を制御していくことが重要だとした上で、「自然の恵みを利用する際には、人間の予測できないことが起こるので、考えられるリスクを住民にあらかじめ説明して理解してもらうなど、コミュニケーションを十分にはかることが重要だ」と指摘しています。