蘭越町で蒸気噴出続く 住民から不安の声

後志の蘭越町にある地熱発電の調査現場で蒸気が噴出している問題では、発生から6日が経過した5日も噴出が続いています。近くの川では農業用水の基準値を上回るヒ素が検出されたことも明らかになり、周辺の農家や住民のあいだには不安の声が広がっています。

蘭越町湯里にある地熱発電に向けた資源量調査の掘削現場では、先月29日以降、蒸気が噴出していて、掘削を行っていた「三井石油開発」は4日になって、噴出初日に現場にいた女性が硫化水素中毒と診断されていたことを明らかにしたほか、近くの川で行った水質調査では農業用水の基準値を上回るヒ素が検出されたということです。
蒸気の噴出は発生から6日が経過した5日も続いていて、事態の収束が見通せない中、周辺の農家や住民のあいだには不安の声が広がっています。
このうち、町が農業用水の取水制限を呼びかけている地域でトマトやメロンなどの栽培を行う農家の日比野準さんは、農作物への影響や会社の一連の対応に不安を感じています。
日比野さんの畑では、水の使用量をふだんの8割ほどに減らして栽培を続けていますが、この状況が続くと気温が上がるこれからの時期に十分な量の水を与えられず、野菜や果物の生育や品質に影響が出るといいます。
日比野さんは「収入に直結する問題にも関わらず、会社からは具体的な説明がない。安全性を保証する報告がない以上、水を使うわけにもいかない。これまでの会社の対応は都合の悪いことを隠したいという感じに見えて不信感につながっており、今後の調査結果も信用できるのか疑ってしまう」と話していました。
また、町の人からは蒸気の噴出が長期化していることについて、懸念の声が聞かれました。
80代の女性は「困った問題で、ひと事ではない。身近でこんなことが起こるなんて思っていなかったので心配している」と話していました。
また、70代の男性は「この時期はアユ釣りをしているが、川からアユがいなくなっているのが残念だ。ほかの魚もいないようなので水質に問題があるのではないか。噴出を止めるのに時間がかかりすぎている」と話していました。

【これまでの経過】
蒸気の噴出は、先月29日午前11時半ごろ、蘭越町湯里の掘削現場で発生しました。
掘削を行っていた「三井石油開発」によりますと、地熱発電に向けた資源量調査のため、地下およそ200メートルまで掘り進めたところ、突然蒸気が噴出し、地上数十メートルの高さまで立ちのぼったということです。
現場ではすぐに水を注入して蒸気を止める作業を行いましたが、発生から6日が経過したいまも勢いはおさまっていません。
発生当初から、現場の近くでは川の水が白く濁る現象が確認されたため、町は農家に対し、安全が確認されるまで取水を控えるよう呼びかけています。
会社側は、発生の翌日、町などの関係者に謝罪したものの、体調不良などを訴えている人はいないとしてきました。
しかし、4日になって、噴出が始まった29日に現場にいた女性が硫化水素中毒と診断されていたことを明らかにした上で、「近隣住民の不安をあおることを避けるために公表を控えていた」と説明しました。
さらに、噴出現場では当初から硫化水素の成分が検出されていたことを明らかにしたほか、近くの川で行った水質調査では農業用水の基準値を上回るヒ素も検出されたということです。
こうした事態を受けて、会社は4日夜、住民を対象とした説明会を開きましたが、住民からは農業などへの影響を懸念する声が相次ぎました。

【会社は別の方法を検討】
掘削を行っていた「三井石油開発」は蒸気が噴出した原因については現在も調査中だとした上で、「想定外の事態だった」と謝罪しています。
現場では、噴出が確認されるとすぐに水を注入し、蒸気を止める作業を行いましたが、効果は限定的だとして、会社側は別の方法を検討することにしています。
また、噴出がおさまるめどはたっていないということで、会社としては引き続き、近くの川の水質調査を行うなど、周辺への影響を注視することにしています。

【“モニタリングを”】
火山活動に詳しい北海道大学大学院の中川光弘特任教授によりますと、「地下深くにあるマグマには硫黄や塩素などの成分が溶け込んでいる。温泉地帯の蘭越町の地下には高温のマグマが存在し、ボーリング調査などで岩盤に穴を掘るとその成分が吹き出すことがある。吹き出した蒸気に硫化水素やヒ素が含まれるのは当然のことだろう」と分析しています。
その上で、対策を検討するには、吹き出した蒸気をモニタリングし、検出された成分について時系列とともに詳細に分析することが必要だと指摘しています。
また、中川特任教授は「蒸気の成分が川に流れ込まないようにするなど、対応を至急検討すべきだ」と話しています。