市街地での出没増えるヒグマ 背景は? 対策は?

人とヒグマの距離が近づく中、市街地やその周辺での出没も増えています。2年前には、札幌市東区の丘珠空港や市街地にヒグマが出没。相次いで人を襲い、4人が重軽傷を負いました。
市街地で出没が増えている背景やクマを引き寄せない対策を専門家や道の担当者に取材しました。

【2年前 札幌東区で】
おととし6月18日、札幌市東区の市街地に体長約1メートル60センチ、体重およそ160キロのオスのクマがあらわれ、4人が襲われて重軽傷を負いました。
その際、ろっ骨を折るなど大けがをした45歳の男性が、クマに襲われた現場で当時の状況を振り返りました。
その日の午前7時頃、安藤伸一郎さんは、職場に出勤するため、札幌市営地下鉄「東豊線」沿線の住宅街の中を、新道東駅に向かって歩いていました。
すると突然、背後からクマに襲われ、地面にうつぶせに倒れこんだといいます。
安藤さんは「何が起きたのか分からず、人に襲われたのだと思いました。倒れたあとに、かまれて初めてクマだと認識しました。ずっと叫んでいましたが、誰も助けに来られなかったので怖かったです」と当時を振り返りました。
とっさに手と足で顔や腹部を守りましたが、クマは何度も近づき、右腕や右ふくらはぎ、左太ももなどにかみつきました。
「背中やふくらはぎ、腕には傷が今も残っています。背負っていたかばんを揺さぶられて道路に倒れたのでもし意識を失っていたら危なかったです」と話していました。
安藤さんは近くの病院に搬送されましたが、肋骨が6本折れ、背中を80針、両腕両脚を60針縫うなどの大けがを負いました。
現在も時折痛み、病院で鎮痛剤を処方してもらっているということです。
「札幌市内に住んでいてクマに出くわすと思わず、対策も考えていなかったです。動物に襲われたら体の弱いところ、柔らかいところを守るように病院で言われた」と話しつつも、クマに出くわさないことが最善の策だとして「札幌市から出されるクマの情報を日々チェックするようになりました」と話しています。

【クマの生態に詳しい専門家の話】
クマの生態に詳しい酪農学園大学の佐藤喜和教授は、個体の数自体が増えているとの見方を示したうえで、「市街地では同じ個体が繰り返し出没するというのが何か所かで発生している。街のすぐ裏の森で暮らしているクマは人の存在に慣れ、人前に出てきても気にしない個体もいて、繰り返し目撃されている」とクマの目撃情報が増えている要因を分析しています。
そのうえで、「人の生活圏のすぐ近くの森、いわゆる都市近郊林でクマが出没した場合は、クマの定着を防ぎ人の安全を守るために、早い段階でクマの駆除が必要になってくる。クマが出没した場所は、現地調査を続け、餌になるようなものや、身を隠せるような草木を取り除くなどの対策を続けていく必要がある」と述べ、市街地に近い森の対策を強化していく必要があると強調しています。

【道のヒグマ対策室長に聞く】
北海道野生動物対策課ヒグマ対策室の井戸井毅室長は、市街地にクマを引き寄せないために住民ができる対策について、「食べ物がある場所を学習すると何度も現れる恐れがあるため、生ゴミのほか、漬物や干物などの匂いが出るもの、それに農業廃棄物を屋外に放置しないことが重要だ」と話していました。
そのほかの対策として、▽クマの行動が活発になる薄暗い時間帯になるべく出歩かないことや、▽クマが身を隠すことができる背の高い草を適切に刈ることを挙げていました。
また、市街地に住む住民に向けては、「警察や市町村がSNSを通して発信しているクマに関する情報をふだんから活用してほしい」と述べ、クマと出くわすリスクを避ける重要性を訴えています。