1本の道に込められた思い 洞爺湖が見える森

地域にディープな人脈を持つローカルフレンズのもとにディレクターが訪ねる企画「ローカルフレンズ」。今回は道内の魅力的な森に詳しい「森のローカルフレンズ」にとっておきの場所を案内してもらいました。

新緑の山道を自転車で駆け抜けるのは、舛森拓郎さん。札幌市内の薪ストーブ店で働きながら道内各地の森を訪ね歩いているという「森のローカルフレンズ」です。舛森さんが今回連れてきてくれたのは洞爺湖。湖のほとりに舛森さんの友人が所有している、とてもステキな森があるといいます。

迎えてくれた森のオーナーは、渡辺大悟さん。渡辺さんと仲間たちは「森と街のがっこう」と名付けられた取り組みを続けており、森づくりに関心のある人たちに研修を行っているそう。この日も30人以上が集まりました。みんなと一緒に森の中へと続く道を歩いて行くと、目に飛び込んできたのは洞爺湖の絶景。気持ちよく吹き抜ける風を感じたり、鳥のさえずりに耳を傾けたり。
みんな自由に森を楽しみます。渡辺さんは「木だけじゃないものにちゃんと目を向けられるだけで、すごくモチベーションが変わると思う」と語ります。

渡辺さんは、梱包会社の経営者。精密機械などの梱包には多くの木材を使います。そんな中、森林の再生に関わりたいと思うようになり、6年前に出会ったこの洞爺湖の湖畔の森を購入したのこと。

かつてこの森からは、多くの木材が切り出されていたそうです。
「この道はもともと木材を運び出すために使われていました」。
渡辺さんの指さす先には、木材搬出用の旧道が。効率重視でまっすぐに切り開かれた道です。渡辺さんは、長く放置されたこの森に新たな”命”を吹き込むには、もっと違う姿の道が必要だと思ったといいます。

そこで頼ったのが、林業家で自らを”フリーランスの木こり”と名乗る足立成亮さん。道内でも知る人ぞ知る、森に新たな道を作る達人でもあります。そんな足立さんの信条は、できるだけ木を切らずに道を作ること。森の生命力を失わせないために、弱っている木は切るけれど、元気な木はできるだけ切らないのです。

そのためどんなルートをたどるかは、時間をかけて慎重に選んでいきます。なんとその作業は、まだ雪深い冬の間から始まっていました。雪が積もると、森の中をスキーで自由自在に移動できます。足立さんはスキーであちこち移動しながら最適なルートを見定めていきます。

こうして見当を付けたルートに道を作る作業が、この春から始まっています。何本かの木には、冬の間に足立さんがつけた青いテープが。この木々は弱っているため切り、道を作っていきます。「木と相談すればするほど、良い景色、良い道が残るかなと思うんですよね」。そう語る足立さんの表情は、森を守りたいという熱い思いを感じさせます。

この森を紹介してくれたローカルフレンズの舛森さんは、こうしていろいろな人々が集まり、道を作って森と親む活動をこれからも続けていきたいと話します。「同じ思いを共有して、同じ場所でいろんな人たちが入り交じって活動しているのがたまらなく楽しい。これからも森づくりや道づくりの手伝いをしていきたい」。みんなでつくる道の先には、まだまだ知らない森の魅力が待っているのかもしれません。