知床沖観光船沈没事故原因 国の運輸安全委が調査報告書公表

知床半島沖の観光船の沈没事故について、国の運輸安全委員会は船の前方のハッチのふたが十分に閉まっていない状態で運航し、そこから海水が流入したなどとする報告書を公表しました。
船底を仕切る壁に開いた穴から浸水が広がったと考えられ、隔壁を密閉していれば沈没を回避できたとしています。

ことし4月23日、知床半島の沖合で観光船「KAZU 1」が沈没した事故では、20人が死亡、6人が行方不明となっています。
事故について調査を進めている国の運輸安全委員会は、沈没の原因がおおむね解明されたとして経過報告書をまとめ、15日公表しました。
《要因1:船体構造》
それによりますと、直接的な原因としては、甲板から船の倉庫=船倉につながるハッチに不具合があったことや、船倉にある隔壁が密閉されていなかったことが浸水の拡大を招いたとして、船の構造に問題があったと指摘しています。
このうちハッチについては、ふたの留め具が削れていたことや、事故の2日前に行われた訓練でふたを確実に閉めることができなかったという証言があることから、ふたが十分に閉まっていない状態で運航するなか、船体の揺れでふたが開き、海水が流れ込んだ可能性があるということです。
また、甲板の下にある2つの船倉とエンジンがある機関室などを仕切る3か所の壁には穴が開いていました。
船底にあった損傷箇所は船の内部まで通じていなかったことなどを踏まえると、ハッチからの浸水が全体に広がったと考えられ、隔壁を密閉していれば浸水の拡大を防ぎ、沈没を回避できたとしています。
さらにハッチのふたが外れて客室前方のガラス窓に当たって割れたことで、ここからも大量の海水が流入し沈没を早めたとみられています。
報告書によりますと、午後1時7分ごろ、船長から「スピードが出ない」などと連絡があったのに続き、1時21分からおよそ5分間、乗客が親族にかけた電話では「浸水して足まで浸かっている。冷たすぎて泳ぐことはできない。飛び込むこともできない」と話したということで、船長が異変を伝えてから20分ほどで急速に浸水が進んだとみられています。
《要因2:運航判断》
次に、報告書は、事故当日に出航を決めた判断にも問題があったとしています。
出航する前の段階で港がある斜里町には強風注意報と波浪注意報が発表されていました。
「KAZU 1」の運航会社が定めた運航基準では、航行中に風速8メートル、波の高さが1メートルに達するおそれがある場合は出航を中止することになっていますが、船長は、別の船の関係者から基準に達する可能性があると聞かされても中止していませんでした。
運輸安全委員会が日本気象協会に分析を依頼した結果、現場海域では事故当時、風速は最大およそ10メートル、波の高さも2メートル前後に達していたと見られるということです。
《要因3:安全管理規程》
運航管理者である社長、それに船長は出航の判断をした経緯などを記録していなかったほか、会社では観光船と無線で連絡できる状態にないなど不適切な安全管理が常態化していたことも分かっています。
これについて報告書は安全管理規程が軽視されていたと指摘しています。
《要因4:監査・検査など》
このほか、報告書は、▼北海道運輸局とJCI=日本小型船舶検査機構の監査や検査の実効性に問題があったこと、▼観光船に備えられていた救命胴衣や、しがみついて浮力を保つ救命浮器が低水温の海域に適していなかったことなども指摘しています。
運輸安全委員会はこうしたいくつもの要因が重なって事故が起きたとしていて、▼小型旅客船の事業者に対するハッチの点検や、▼隔壁の水密化を検討するよう国土交通大臣に意見を出しました。
その上で、さらに調査・分析を進め、最終的な報告書をとりまとめることにしています。