サケの卵が徐々に軽く小さく 生育環境が影響している可能性も

日本各地で捕獲されるサケの卵、いわゆる「イクラ」が、1990年代以降、徐々に小さくなっているとする研究成果を、国の水産研究・教育機構がまとめました。気候変動やサケを増やすための「ふ化放流」の取り組みなど、生育の環境が影響している可能性があるとして、詳しい調査が必要だとしています。

国の水産研究・教育機構の研究グループは、日本各地で捕獲されるサケの卵、いわゆる「イクラ」について、その大きさや数を、国などが記録してきたデータをもとに分析しました。
対象となったのは、北海道や石川県、宮城県など、10の道と県にある23の川で捕獲されたサケの卵で、データが整っている1994年から2010年を比べると、1粒の重さが最大でおよそ6%軽くなり、小さくなっていたとしています。
研究グループは、小さくなる傾向は北海道など、日本の北で捕獲されたサケの卵ほど顕著で、小さくなったことで1匹のサケが持つ卵の数は逆に増えているとしています。
研究グループは「この傾向は現在も続いているものとみられる」としていて、気候変動による川の水温の上昇や、サケを人工授精で増やす「ふ化放流」の取り組みなど、生育の環境が影響している可能性があるとして、詳しい調査が必要だとしています。
サケをめぐっては、「ふ化放流」が資源を効率的に増やすことを可能にした一方で、繁殖力や「遊泳力」という泳ぐ能力など、遺伝的な特性に影響を及ぼしている可能性が欧米を中心に指摘されていて、気候変動の影響とともに世界各国で研究が進められています。
水産研究・教育機構の長谷川功主任研究員は「サケの卵がどんどん変わっていることが分かった。今後、変わりゆく自然環境の中でサケが世代をつなぐことに何らかの不利益が生じている可能性もある」と話していて、ふ化放流のサケの生態への影響についてもより詳しく調べていく必要があると指摘しています。

【道は遺伝学的研究開始】
サケが生まれた場所や育った環境がサケの遺伝的な特性にどのような影響を及ぼしているのかを見極めるための研究は、世界各国で進められていて、北海道立総合研究機構も去年から乗り出しています。
北海道立総合研究機構の小亀友也研究職員の研究グループは、サケの生まれ育った環境がサケの遺伝的な特性にどのような影響を及ぼしているのかを、遺伝情報のレベルで調べる研究に去年から乗り出しています。
具体的には、▽人工授精で生まれて、ふ化場で育った「ふ化放流」のサケと、▽野生のサケ、それぞれの精子や筋肉、肝臓などを比較して、働いている遺伝子に違いはないか突き止めようとしています。
そして、繁殖力や遊泳力などに影響がないかどうかを見極めて、能力が低下しているなどの変化が確認できれば、それが親から子へ引き継がれていないのかも調べるということです。
研究の背景には、近年、続いている不漁の原因を特定したいという狙いがあり、気候変動などの影響とともに、「ふ化放流」によるサケの遺伝的な特性への影響を詳しく特定する必要があるとしています。
その理由として研究グループは、不漁にはこれまで海水温の変動が主に影響していると考えられてきたものの、近年、サケにとって好ましい水温になったにもかかわらず資源が回復しないことを挙げていて、「ふ化放流」の影響も少なくないのではないかとしています。
日本では、サケの資源確保のため、サケを人工授精で増やす「ふ化放流」事業が明治時代から行われていて、このうち北海道では、水揚げ額が去年も456億円とホタテに次ぐ重要な漁業資源ですが、漁獲量としてはピーク時の4分の1ほどに落ち込んでいて深刻な不漁が続いています。
こうしたなか、日本では、▽水槽を使った実験で、ふ化放流のサケは野生のサケに比べて遊泳力が低いとする研究が報告されているほか、欧米では、▽ふ化放流のサケは野生のサケよりも繁殖力が低いという研究も発表されています。
さらに、欧米では、▽ふ化放流のサケは野生のサケと比べて、働いている遺伝子が一部、異なっているとする研究も報告されていて、遊泳力や繁殖力にどのように影響しているのか見極めるための研究が進められています。
研究グループでは、日本で獲れるサケでも同じような変化が起きていないか遺伝情報のレベルで解き明かしたいとしていて、10月にカナダで開かれるサケ資源の管理を話し合う国際シンポジウムで初期の分析結果を報告したいとしています。
北海道立総合研究機構の卜部浩一研究主幹は、「人の手を加えすぎると自然の中で持っている法則を壊しかねない。自然産卵する魚を維持しながらふ化放流の環境をより自然に近づける技術を開発するなどして資源の底上げにつながればと思う」と話しています。

【不漁解消目指す研究 盛んに】
深刻なサケの不漁の原因を特定して解消しようという研究や取り組みは、国内の各地で進められています。
国の水産研究・教育機構の佐橋玄記研究員たちの研究グループは、野生のサケと、ふ化放流のサケが交配したとき、サケの稚魚が成長して大人になって戻ってくるいわゆる「回帰率」にどのように影響するのかを道内の6つの川を対象に調べました。
その結果、▽人工授精に用いるサケの親に野生のサケが含まれていて、▽その割合が全体の2割から4割に増えると、稚魚の「回帰率」が高くなり、試算では1.9倍にまで増えることがわかったとしています。
この結果を受けて、佐橋研究員は、ふ化放流と野生、両方を可能にして盛んにしていくことが資源の回復につながる可能性を指摘していて、「ふ化放流に用いない親を放流するなど、自然産卵を促す方策が必要だ」と話しています。
一方、日高地方で複数のふ化場を運営する日高管内さけ・ます増殖事業協会は、ふ化放流のためのサケを確保しながら、野生で産卵するサケを増やす取り組みを進めています。
日本のふ化放流の事業では、北太平洋から産卵のために川に戻ってきたサケを確実に捕らえようと、海に近い川の下流で、「ウライ」と呼ばれる川をふさぐ仕掛けを設けてサケを捕獲し、川の上流にあるふ化場にトラックで移送するなどしてきました。
このため、自然に産卵できるサケがほとんど残らないかたちとなっていますが、日高管内さけ・ます増殖事業協会では、この「ウライ」を撤去して、サケがふ化場がある上流まで自ら上がってこれるようにしました。
すると、▽大量のサケがふ化場の池を目指して池につながる水路に殺到するように上ってきたほか、▽野生でも産卵が行われるようになり、研究機関による試算では、ふ化場から放流した稚魚の数とほぼ同じ数の稚魚が野生でも生まれるようになったということです。
日高管内さけ・ます増殖事業協会の清水勝専務理事は、「人工増殖は人工増殖でやり、天然は天然でやっていく。お互いにやっていくのが一番良いのではないか」と話していて、ふ化放流と自然産卵を共存させることがサケの資源回復につながるのではないかという考えを示しています。