運航会社の安全管理体制 国のチェックは機能したか?

知床半島沖で観光船が沈没した事故では、運航会社の出航をめぐる判断などずさんな安全管理体制が指摘されています。一方、事故から1か月がたつ中、運航会社に対する国の指導や確認にも不十分な点があったことが相次いで明らかになり、国のチェック体制の課題が浮き彫りになっています。

【「運航管理者」の要件満たしていたか】
国が運航会社の安全管理体制をチェックしたのは去年3月、桂田精一社長が会社の「運航管理者」になった時のことでした。
当時、会社側は北海道運輸局に対し、桂田社長の資格要件として、「船舶の運航の管理に関して、3年以上の実務経験を有する」と届け出ました。
この届け出について、運輸局は当時、会社側の自己申告を書類で確認しただけで、国土交通省はチェックが甘かった可能性があるという認識を示しています。

【改善報告書の「運航記録簿」に不自然な数字】
桂田社長が運航管理者になってから2か月後の去年5月と翌6月、今回の事故で沈没した観光船「KAZU 1」は、航行中に漂流物に接触したり、浅瀬に乗り上げたりする事故を相次いで起こし、運輸局が特別監査の結果、運航会社に行政指導を行いました。
この指導をめぐり、去年7月、運航会社から提出された「改善報告書」の内容について、運輸局の確認や指導に不十分な点があったことが明らかになっています。
その1つが、会社の「運航記録簿」です。
日々の運航について、風速や波の高さなどが記載されていますが、連日のデータがいずれも▼風速は「0.5メートル」、▼波の高さは「0.5メートル」、▼視界は「5000メートル」とほとんど同じ数字が並んでいました。
これについて、運輸局は当時、問題を指摘しておらず、国土交通省は、「不自然な点がありながら確認や指導が十分できていなかったと認識している」としてチェックが不十分だったと認めています。

【「安全教育」は徹底されたか】
この改善報告書で、運航会社は「全従業員に対し、安全管理規程について安全教育を定期的に行い、周知徹底を図る」と記載し、全体会議で定期的に勉強会を開くことを確認したなどと報告しています。
これについて、去年10月、運輸局は改善報告書の内容が守られているか確認するため抜き打ち検査を行った際の報告書で、担当者が不在で安全教育の記録は確認できなかったとしています。
一方、電話で応対した桂田社長から「安全があっての商売」、「安全運航に努める」などと説明を受けた上で、「以前より安全と法令順守意識が向上したことを確認できた」としていました。
国土交通省は、「さらなる確認や指導が十分にできていなかった」としています。

【改善報告書の定時連絡・連絡体制守られず】
このほか、改善報告書の中で、運航会社は「運航管理者は常に連絡を取れる状態を維持し、事故発生時に際しては確実に報告を受け、必要な措置を講じられる体制を確立する」と記載していました。
しかし、先月の沈没事故当時、事務所に運航管理者の桂田社長は不在で、代わりを務める「運航管理補助者」だった豊田船長は「KAZU 1」に乗船していました。
また、改善報告書では、「運航管理者への定時連絡を確実に実施すること」と記載していましたが、事故の当日、定時連絡は行われておらず、改善報告書の内容は徹底されていませんでした。

【国交相「どこが足りなかったのか検討」】
国のチェック体制に問題はなかったのか。
斉藤国土交通大臣は、「特別監査、指導、抜き打ち検査などを行っても事故が起きたことは重く受け止めている。我々としてどこが足りなかったのか真摯に検討し再発防止策に全力を挙げたい」と話しています。

【専門家「性善説の監査」】
知床半島沖で観光船が沈没した事故を受けて、課題が指摘されている国の監査や指導について、専門家は、「性善説に基づいた制度で中身まで正しくチェックされていない」とした上で、今後、より経営者の資質を確認することや、業界としても安全管理や教育に取り組む必要があると指摘しています。
北海道運輸局は去年、今回の事故で沈没した観光船が相次いで事故を起こしたことを受けて特別監査を行い、安全確保のために守るべき事項を記した安全管理規程を徹底するよう行政指導を行っていましたが、結果として監査や指導が不十分だったのではないかと指摘されています。
船の安全管理に詳しい東京海洋大学の竹本孝弘教授は、安全管理規程について、「安全管理の責任者や運航可否の判断、それに安全教育など事故を未然に防ぐバリアが用意されているが、運用が会社の自主性に任されているところがあり、今回のようにバリアを無効にしてしまう状況が出てくる。ルールを確実に守らせて強制的に実行させるものにはなっていない」と指摘しています。
また、国の監査について、「性善説にもとづいた制度で、書類が正しく作られ、記載されているかどうかは監査の対象になるが、その中身が正しいかどうかまでチェックされていない。書類があったからといって、しっかりと事業者が安全管理規程を守って運航してるかどうかの証拠にはならない」などとして、いまの監査の体制の課題を指摘しています。
そして、今後の監査のポイントについて、「安全に関する意識や知識、それに技術を経営トップがしっかりと持っているのかどうかを、しっかりと監査で確認するのが大事だ」として、特に規模の小さい事業者を中心に経営者の資質をチェックすることが重要だと指摘しています。
また、今後の対策について、「会社の安全統括管理者と運航管理者に任せていても事故は防げなかった。事故を防ぐためには、この気象状況だったら船を出さないという協定を同業者どうしで結ぶといった取り組みが大事だ」として、国だけでなく、業界全体で安全管理や教育に取り組む必要があると指摘しています。