野党候補者一本化
“ガチンコ勝負”持ち込めるか

刻々と迫る与野党総決戦の衆議院選挙。
野党第1党の立憲民主党が急ぐのが野党連携だ。
できる限り多くの選挙区で候補者を一本化して、与野党ガチンコの直接対決に持ち込むのが狙いだ。
“政権交代を再び”という目標は共有するが、そう一筋縄ではいかない。
実態に迫った。
(金澤志江、篠田彩、三浦佑一、浅井優奈)

“まとまる気がしない…”静岡1区

去年9月の旧民主党勢力の合流を経て、衆議院で100人を上回る規模となった立憲民主党。
その後初の衆議院選挙に向けて国民民主党、社民党との間で、289ある小選挙区のうち233選挙区で候補者の一本化を終えた。

そんな中、「まとまる気がしない」と関係者が嘆くのが静岡1区だ。

現職は、法務大臣を務める自民党の上川陽子。

閣僚を歴任してきた上川は、政権与党の一員としての実績をアピールし、「腰の据わった」政治を掲げ、7回目の当選を目指している。

これに対し、野党側は実に4人が立候補を表明。
うち2人は、立憲民主党と国民民主党の候補で、一本化にはほど遠い状態となっている。

先に動いたのは国民民主党。おととし5月、かつて旧日本維新の会から比例代表北海道ブロックで当選し、1期務めた高橋美穂の擁立を発表した。
高橋は静岡市出身で地元での国政復帰を狙う。
同窓会のネットワークなどを使って存在感を高めようとアピールする。
「危機に強い社会を作るために“長老政治”を打破し、新旧交代を目指したい」

その1か月後、立憲民主党が元県議会議員の遠藤行洋の擁立を決めた。
競合を承知の上で、だ。
地元民放の元アナウンサーの経験を生かし、精力的に訴える。
「立憲民主党は、国民の皆さんが主役の政治を取り戻すため、全力を尽くします」

両党幹部が調整を試みてきたが双方1歩も引かず、にらみ合いが続く。

国民民主党を離れ、いまは立憲民主党で静岡県連代表を務める渡辺周は、現状を嘆いた。

「2年前のこともあるから、また静岡が、野党の足並みがそろわない象徴として見られてしまう。なんとしても避けたい」

要因の1つは過去の因縁か?

渡辺が言う「2年前のこと」とは、前回の参議院選挙のことだ。
このときも「安倍一強」と言われた政権与党と対じするため、当時の立憲民主党と国民民主党が選挙協力を進めた。
しかし静岡選挙区はそうはならなかった。

事前の予想は定員2の議席を自民党の牧野京夫と、国民民主党の榛葉賀津也がそれぞれ分け合う“無風”の選挙だった。
しかし、選挙2か月前、立憲民主党が、江戸幕府初代将軍の徳川家康の末えい、徳川家広を擁立したのだ。
立憲民主党代表の枝野幸男は「切磋琢磨する方が野党全体のパイを広げることにつながる」と述べ、野党で2議席独占を狙うとしていた。
しかし、全国に4つある「2人区」で競合させたのは静岡だけ。
副代表の蓮舫ら知名度の高い党幹部が何人も応援に入る熱の入れようだった。
結果は榛葉が議席を守ったが、禍根が残った。

当時を知る議員たちは、こう語る。
「榛葉さんはあのとき、立憲民主党につぶされかけた」
「立憲民主党の徳川への力の入れ方は尋常ではなかった。『榛葉を落とせれば』という思いがあったはずだ」

徳川の擁立を主導した1人が立憲民主党の幹事長、福山哲郎だ。

榛葉とは過去、ともに旧民主党に所属し、政権も担った。
かつての仲間と言えるはずなのになぜなのか。

議員の1人は、2人が党運営をめぐって根深い対立関係にあったと明かす。
「2人は党運営のあり方を巡って、そりがあわなかったんだよ。例えば自民党との向き合い方とかね。対決するところは徹底的にやるべきだというのが福山。一定程度うまく進めようというのが榛葉。もう、あらゆることでぶつかっていた」

それから2年。
両党の候補が張り合う姿は、福山、榛葉の“代理戦争”の再来のように見える。

前出の渡辺が、最近、こんなことばを口にした。
「ここまで双方が運動している以上、“生木を裂く”ようなことはできない」

“生木を裂く”とは男女を離別させる意味の表現。
もう一方に諦めてもらうのは困難だと吐露したのだ。

対立めぐる当事者たちは

当の福山と榛葉の2人は、それぞれの党の幹事長を務めるいま、
過去をどう振り返り、何を考えるのか。

福山
「おととしの選挙は確かに激しかったが、過去は一定程度、水に流している。ただ、ここはそれぞれの政党の候補者が『なかなかおりにくいね』ということでぶつかっている」

榛葉
「切磋琢磨することは互いに認め合っているし、今からどちらかがおりることはたぶんない。このことに、おととしの参議院選挙の影響は全くない」

一方、2人を知る関係者はこう語る。
「当時は互いに怒りで戦った。連合からはもうこんな選挙はしないでくれと言われたが、 そうもいかない。協力してやれれば一番良いが、もうどうにもならない」

静岡1区ではさらに2人が立候補を予定している。


共産党の元衆議院議員・島津幸広は「今の政府の新型コロナ対策では国民の命を守れない」として政治の転換を訴える。党の比例票を意識し、東海4県をくまなく回る活動を続ける。

前回、比例代表で復活当選した無所属の青山雅幸は、与野党対決からは距離を置き、活動を展開する。新型コロナ対策の過剰な行動制限を批判し、医療体制の拡充などを訴え、2回目の当選を目指す。

一本化はできても… 愛知

候補者を一本化できたところでも課題はある。
連合の動向だ。
連合は、小選挙区では立憲民主、国民民主の両党を支援する方針だが、政権交代を目指すため、野党第1党の立憲民主党に比重を置きたいのが執行部の意向だ。

ただ傘下の民間の産業別労働組合には、立憲民主党の支援に否定的な組織が少なくない。
共産党と連携を進めていることなどへの反発が大きな要因だ。

愛知県には、トヨタ自動車などの自動車産業を中心に企業が集積し、民間の産業別労働組合が集票力を持つ。

県内に15ある小選挙区のうち、13選挙区で立憲民主党の候補者に、1選挙区で国民民主党の候補者にそれぞれ一本化され、両党の連携の形は整っている。

しかし組合関係者たちは、立憲民主党の候補を支援するつもりはないと本音を隠さない。
「連合から割り当てられた立憲民主党の候補の支援体制に組み込まれたが、組合員の理解を得るのは難しく、実際は支援しない」

とりわけ大きな影響力を持つトヨタの労働組合関係者は、立憲民主党と共産党との連携を重ねて批判した。

「自動車産業はカーボンニュートラルなど、我々にとって待ったなしの課題が山積し、産業政策の重みが増している。共産党は『アンチビジネス』であり、我々の仕事や産業をつぶしかねない。立憲民主党はその共産党に近づきすぎている」

比例代表の運動でも火種

課題は小選挙区だけではない。
比例代表では、原則、立憲民主党支持の連合だが、産業別労働組合は従う気配はない。
民間の組合は、いわゆる「組織内議員」を参議院の比例代表で出し、多くが国民民主党に所属している。
立憲民主党の支援に傾けば、組合の代弁者を失う可能性もあるからだ。

さらに、比例代表の選挙運動のあり方をめぐり、反発の声が上がる出来事があった。
きっかけは、両党の衆議院選挙の協力に関する覚書。
この案に、小選挙区で比例代表の選挙運動を行う場合には、各選挙区の候補者の所属政党の支持を呼びかけるという文言が盛り込まれたのだ。
少し難しい文言だが、つまり、立憲民主党の候補者がいる選挙区なら「比例も立憲民主党」。国民民主党の候補者がいる選挙区なら「比例も国民民主党」というわけだ。

小選挙区の候補者の数は立憲民主党が213。国民民主党が20。
10倍以上の開きがある。
国民民主党からは「立憲民主党を圧倒的に利するもので不公平だ」と強い反発の声があがった。
結局、この文言を削除する形で覚書は締結されたが、議員の当落、そして政党の盛衰がかかる選挙で、野党連携を遂行する難しさを改めて示した場面だった。

愛知県の産業別労働組合の関係者は「組織内候補」が立候補する来年の参議院選挙も見据えてこう語る。
「一度『立憲民主』と書いた組合員に『国民民主』と書いてもらうよう戻すことは難しい。この衆議院選挙から『国民民主』を書いて定着させてもらう」

これに対し立憲民主党の幹部は、あくまで強気だ。
「国民民主党の候補者が全体として少ない中で、『比例票』を集中させれば、いわゆる『死に票』が増える。現実を見れば立憲民主党に集中させるべきだ」

共産との調整も課題 北海道4区

一方、立憲民主党と共産党との候補者の一本化はというと、両党の候補者が競合する選挙区はまだ70近くある。

立憲民主党からすれば、可能な限り、共産党に候補者を取り下げてもらいたい。
これに対し共産党は、協力を進めるには政権構想の共有や政策のすり合わせが必要で、選挙区によっては立憲民主党も候補者を取り下げるよう、対等な連携を求めている。

立憲民主党の幹部の1人は、現状をこう説明する。
「なるべく多くの候補者を取り下げてもらいたいが、共産党との政権構想の共有はできない。そんなことをすれば、リベラル層や無党派層が逃げてしまう。現実を理解して連携してもらいたい」

共産党とは一緒に政権を担うことや、政策の深い連携はできない。
ただ、与党に勝てる見込みのある選挙区では候補者を取り下げて欲しいというのが偽らざる気持ちだろう。

こうした立憲民主党のスタンスをけん制する意味合いか、共産党は6月から7月にかけて、立憲民主党の候補者がいる3つの選挙区に追加で候補者を立てる動きを見せた。

その1つが北海道4区だ。

立憲民主党が、当初、公認内定していた本多平直は、性交同意年齢をめぐる不適切な発言で、離党。議員辞職に追い込まれた。

間隙を突くように、共産党が地元で党のジェンダー平等委員会の責任者を務める松井真美子の擁立を決定。
一方の立憲民主党は、元フジテレビ記者の大築紅葉の擁立を発表した。
一本化が進むどころか競合区が増える展開となった。

立憲民主党の陣営幹部はこう語る。
「北海道4区の一本化をどうするか、具体的に話せている状況にはない。共産党も比例代表の票を増やしたい事情はあるだろうが、こちらとしても、譲るわけにはいかない」

これに対し、共産党の地元幹部は言う。
「本多さんの問題は抗議したが、立憲民主党側からきちんとした説明はなかったので、党としては許されないという立場で擁立を決めた。話し合いが必要だ」

さらに共産党の中央幹部の1人は。
「そもそも、なぜいつもこちらが譲ってばかりなのか。うちの候補に一本化する選挙区があっても良いはずだという思いもある。互いに尊重し合う姿勢が必要だ」

北海道4区には、このほか、自民党の現職で、4回目の当選を目指す中村裕之が立候補を表明している。
道議会議員出身で、社会や地域のインフラ整備の充実などを訴えている。

国民民主に強気の姿勢 茨城5区

共産党は、国民民主党にも強気の構えを見せる。

国民民主党の現職の浅野哲に一本化が図られたかに見えた茨城5区。
共産党が、ことし7月下旬、突如として新人の飯田美弥子の擁立を発表したのだ。

発端は、この直前の国民民主党代表の玉木による発言という見方がある。


「共産党は、全体主義の政党だ」と批判的な言及をした。
共産党への否定的な発言は、これまでも繰り返されてきたが、今回は我慢の限界だったということか。

共産党書記局長の小池は、記者会見で「わが党は、民主主義と自由を何より大切にする政党で、事実無根だ」と語気を強め、玉木に発言の撤回を求めた。

共産党関係者によると「もともと擁立を模索していた選挙区だが、玉木代表の発言を受けて飯田氏も思いを固めた」ということで、事実上の対抗措置とも受け止められた。

その後、共産党委員長の志位からの指摘も受けて、玉木は自身の発言を改めるとしたが、不信感は消えていない。

共産党幹部はけん制する。
「国民民主党からは共産党を目の敵にしたような発言が相次いでいる。表で批判をしておいて裏では選挙区調整は求めてくる。そんなに都合よくはいかない」

これに対し、国民民主党の幹部の1人は。
「共産党そのものをすべて否定するつもりはなかった。しかし選挙で戦術的な調整はできたとしても、政権構想などの共有はできないという認識は変わらない」

このほか、茨城5区では、自民党の現職の石川昭政が4回目の当選を目指し立候補する予定となっている。
これまで経済産業政務官などを務めた実績もアピールしながら、新型コロナの影響を受ける事業者支援の強化に取り組むなどと訴えている。

野党連携は深まるか

立憲民主党など野党4党の党首がそろって必要性を主張し、強化を呼びかける野党連携。
東京都議会議員選挙や、先の横浜市長選挙など、ことし行われた大規模な選挙では実際に連携や共闘態勢を築き、野党候補の勝利をもたらしてきたのも事実だ。

衆議院選挙に向けても、この流れをつなげようという取り組みは続くが、政策や理念を細かく見ていくと「同床異夢」でガラス細工のようにもろくも映る場面に相次いで直面するのも現実だ。
野党連携で政権への批判票の受け皿となり得るのか、最大の政治決戦をまもなく迎える。
(文中敬称略)

政治部記者
金澤 志江
2011年入局。山形局、仙台局を経て政治部へ。文部科学省など経て、野党クラブで立憲民主党などを担当。
名古屋局記者
篠田 彩
2014年入局。福井局を経て名古屋局。現在、経済担当として愛知県内の労働組合も取材。
静岡局記者
三浦 佑一
2003年入局。福島局、名古屋局、報道局社会部などを経て、地元の静岡局。熱海市の土石流の真相究明に取り組む。
札幌局記者
浅井 優奈
2018年入局。函館局を経て札幌局へ。主に医療・教育分野を取材。政党取材では共産党を担当。