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NHKワールドTV(4)

国際放送の舞台裏原稿英語化の課題異文化ギャップを乗り越え相互理解へ

ニュース原稿を英語に変換する際、単に翻訳するだけでは不十分で、情報を補足しないと海外の視聴者には理解しにくい場合が少なくない。また、「伝聞」「推測」「主語の不明示」などのように、英語化が困難な日本語特有の表現もある。そんな異文化ギャップを、制作現場では日々どのように乗り越えようとしているのか。

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海外の視聴者にもわかりやすいニュース原稿をめざして

日本人とネイティブの連携作業

稿英語化の作業は、通常、日本人とネイティブの担当者が連携して進めていく。

まず、日本人のライターが、元の日本語原稿を海外の視聴者にもわかりやすいように修正しながら英語に変換。続いて、ネイティブのリライターが、文法や言い回しなどを必要に応じて書き直しする。こうして出来た英語原稿を、デスクが修正・確認して、最終稿が完成するという流れだ。

異文化ギャップ解消の工夫

この英語化の際、その話題に関する基礎知識がない海外の視聴者への配慮が欠かせない場合がある。

たとえば、「沖縄の米軍基地」に関するニュースでは、日本の米軍基地の70%以上が沖縄に集中していることを知らない外国人が少なくない。そこで、“More than 70 percent of US military facilities in Japan are located in Okinawa Prefecture.”など、元の原稿にはない情報を補足して、ニュースの背景を理解しやすいよう努めている。

また、「豆まき」のような伝統行事のニュースの場合、“According to ancient beliefs, evil spirits appear at the turn of the season. People throw roasted beans to drive them out and invite good fortune.(古くから節分には鬼がくると信じられ、煎った豆をまいて鬼を追い払い、福を招き入れる)”など、その歴史背景や行事の意味を補足して、日本文化をより深く理解してもらうことを目指している。

1.日本人ライターが英語に変換
1.日本人ライターが英語に変換 日本語をまず、日本人ライターが外国人に分かりやすいよう修正しながら英語に変換

日本語をまず、日本人ライターが外国人に分かりやすいよう修正しながら英語に変換

2.ネイティブリライターが書き直し
2.ネイティブリライターが書き直し ネイティブリライターが文法・言い回しなど必要に応じて書き直し英語原稿作成

ネイティブリライターが文法・言い回しなど必要に応じて書き直し英語原稿作成

3.デスクが修正・確認・最終稿へ
3.デスクが修正・確認・最終稿へ 作成された英語原稿をデスクが修正・確認し、最終稿完成へ

作成された英語原稿をデスクが修正・確認し、最終稿完成へ

デスクは“異文化間の橋渡し”役

国際放送で何よりも求められるのは、海外の視聴者に対して、一見わかりにくいと思われる事柄をできるだけわかりやすく伝えること。日本独特の制度や風習、伝統行事などを取り上げる場合、外国人ならどんな疑問を感じるか想像をめぐらせて、情報を補足するよう心がけている。

一方で、わかりやすくすることに傾注するあまり、似たような意味だからと、日本の裁判員制度を欧米の陪審員制度と同じjury systemとすると誤りで、正しくlay judge systemとし、必要に応じて両者の違いの説明も加える。こうしたバランス感覚が実に難しく、同時に、この仕事の魅力でもある。

海外の視聴者に違和感なく見てもらうには、原稿スタイルを国際標準に合わせて修正することも大切だ。たとえば、海外では、ニュースの要約を短く伝えるリードで触れた内容は、原則、その後は繰り返さない。また、同じ表現はできるだけ繰り返さず、他に言い換えるのが一般的だ。

「同意する」という表現が同じニュースの中で何度も登場する場合は、approve, back, give consent to…と何通りもの言い方を使い分けるなどの工夫が欠かせない。

こうした試行錯誤を経たニュースが、「おもしろい」「よくわかった」と反響をもらえることが何よりの励みになる。

メディア文化の違いを乗り越えるための試行錯誤が続く

英語化作業の“落とし穴”

沖縄の米軍基地

沖縄の米軍基地

岩手の神社の豆まき

岩手の神社の豆まき

尖閣諸島

尖閣諸島

ただし、国によって制度が異なる話題のニュースの場合、英語化の際に慎重に言葉を選ばないと、元の日本語原稿のニュアンスからかけ離れて、誤解を招く恐れがある。

また、要注意なのが安全保障関連のニュース。たとえば、「尖閣諸島周辺で中国当局の船の活動が活発化したため自衛隊が警戒監視を強化した」というニュースの場合。“The Self-Defense Forces are on a heightened state of alert.”とすると、「自衛隊が不慮の事態に備え“alert=警戒態勢”に入った」と誤解されかねないためNGとなる。“The Self-Defense Forces are stepping up their surveillance.”などの表現を選ぶべきだろう。

英語化に立ちはだかる文化の壁

時には、日本人とネイティブの担当者の間で見解が分かれ、意見の調整に時間がかかる場合がある。たとえば、こんなケースだ。

『委員会は…を決定するものと見られて
います』を直訳すると、以下のようになる。

“It is believed that the committee will decide…”

日本語のニュースではよく登場する表現だが、ネイティブのリライターには「誰がそう見ているのか主語がない」ため不自然に映る。

こんな場合、元の日本語原稿では書かれていなかった主語を英語ではあえて明らかに表示して、“An official suggests that the committee will decide…”(ある当局者によれば…だろうということです)というリライト案を提示するネイティブもいる。

しかし、この英語化案がNGとなることがある。取材先から匿名を条件に証言をしてもらったため、主語が誰かをあえて省略しているケースなどだ。議論の末、ネイティブには違和感が残るとしても、“It is believed that…”のままで決着させる場合もある。

“国際標準”スタイルへの模索

原稿の執筆責任は、原則、取材を担当した記者個人に帰すべきというのが欧米メディアの常識だ。一方、日本では、報道内容に責任を持つのは取材者が属する組織だとの考えが根強く、このメディア文化の違いが原稿のスタイルにも色濃く影響している。

今後、伝聞や推測調、主語を明示しない言い回しなど、国内のニュースに特有の表現をどこまで減らせるのか。“国際標準”を一層意識した原稿スタイルへの模索が続いている。

“テンポ”と“間”とのせめぎ合い

国内放送のニュースでは、編集した映像をナレーション音声で埋め尽くしてしまうのは野暮とされ、ひと息つける“間”を数か所作ったり、ナレーションをつけず取材現場の音を聞かせるなど、メリハリをつけるのが一般的だ。

一方、欧米メディアでは、1カット1カットの尺は短めにして、次々と映像を切り替えていくテンポのいい編集が好まれる傾向にある。

英語のナレーションをつける以上、できるだけ欧米スタイルのテンポのいい編集に近づけるのが妥当な選択だろう。ただし、季節感を伝える催しや、ある人物に焦点を当てた特集企画など、話題によっては国内放送のように“間”のある編集の方がふさわしいと感じる場合もある。あるネイティブはこうした違いを、「登場人物を際立たせるディズニ―アニメと、背景画まで丁寧に描きこむ宮崎駿アニメの違いに似ている」と評する。

異文化ギャップが生じた場合、“国際標準”に合わせて必要な修正を加えながらも、日本発の国際放送ならではの特色をどう残していけるのか。原稿英語化と同様、映像制作の作業でも、欧米式か日本式かの単純な二者択一ではない、絶妙なバランス感覚が求められるのだ。