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大戦が生んだ“100年の分断”~内戦前夜の国から緊急報告

第1次世界大戦の終結から100年。休戦記念日の11月11日には、フランスで各国の首脳を招いた追悼式典が開かれ、歴史の教訓から学び平和の尊さが訴えられました。しかし、皮肉にもその歴史に翻弄され、内戦前夜ともいえる混迷に陥っている国があります。アフリカ中部のカメルーンです。緊迫する現地で見た“100年の分断”の悲劇とは。
(ヨハネスブルク支局長 別府正一郎)

100年前の分割 融和が目指されたが…

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カメルーンの首都ヤウンデにある「融和の塔」。2つの柱が絡み合うデザインで、フランス語を話す人たちが住む東部と英語を話す人たちが住む西部の融和をイメージしています。

アフリカでは、植民地時代の宗主国の言葉がそのまま公用語になって引き継がれているのが一般的ですが、カメルーンはフランス語と英語の2つの言葉が公用語になっている珍しい国です。その理由は、100年前に終結した第1次世界大戦にまでさかのぼります。

もともと一帯はドイツの植民地でしたが、ドイツが大戦で敗れると戦勝国のフランスとイギリスが分割して支配。それぞれの支配地域で、それぞれの言葉や習慣それに法制度などを押しつけました。

1960年、まずは東部のフランス領が独立し、翌年には西部のイギリス領だった地域と一緒になって今のカメルーンが生まれました。

人口およそ2400万人、面積は日本のおよそ1.3倍あります。しかし、国の融和は進むどころか、むしろ、分断が深まり続けてきました。

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人口や国土のおよそ80%を占める多数派のフランス語圏主導で国づくりが進められ、残るおよそ20%の英語圏では「少数派の自分たちは二級市民扱いされている」という不満がくすぶってきました。

超長期政権 アフリカ最高齢の大統領

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双方の力関係を象徴しているのが、フランス語圏出身のビヤ大統領の存在です。36年間という超長期政権を続け、現在85歳と、アフリカで最も高齢な大統領とされています。

10月7日の大統領選挙で再選し、さらに7年の任期を得ました。首都ヤウンデでは、至るところにビヤ大統領の巨大なポスターが掲げられ、「経験の力」というスローガンで、自分こそが国を率いる指導者だとアピールしています。

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そして、国の中枢や国営の石油会社の幹部などは同じくフランス語圏の出身者ばかりで固め、強権的な体制を敷いています。

首都にいる限りは盤石にしか見えないビヤ政権。しかし、いま、独立以来最大の挑戦を受けています。

分離独立運動で内戦前夜に

きっかけはおととし、英語圏で行われた平和的なデモでした。イギリス式の教育や司法制度、それに英語の尊重を求める教師や弁護士によるデモを政府の治安機関が弾圧。対立は先鋭化し、英語圏の分離独立を求める武装グループが結成されるにいたりました。

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武装グループが去年10月、武装蜂起して一方的に「独立」を宣言したのに対し、政府軍は鎮圧をはかり、内戦前夜の状況に陥っているのです。

英語圏では何が…

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その英語圏では何が起きているのか。首都ヤウンデから車で西に6時間。私たちは陸路で現地に入りました。

いくつもの検問所を通って、英語圏に入ると町の様子は一変。まず目に飛び込んできたのが、破られたビヤ大統領のポスターでした。顔の部分だけがはがされていて、首都では考えられない光景です。

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至るところに、政府軍の兵士が展開し、分離派の武装グループの襲撃を警戒して、ピリピリした緊張感に包まれていました。

私たちも撮影中に取り囲まれて、カメラにある映像をすべて消去するよう迫られることもありました。

“紛争の人質”になる人々

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カマジュさん

「政府軍はどこにでも入ってきて、無実の人を殺している」

戦闘が激しい町から逃れてきたメルベイユ・カマジュさん(24)。ことし7月、政府軍の部隊が自宅に押し入り、武装グループのメンバーだと疑われた夫が射殺されました。4歳の息子は、連れ去られたまま行方が分からないといいます。

「多くの親戚も殺された」と涙ながらに訴えたカマジュさん。取材したこの日も、町に残る親戚から「けさも戦闘があり、近所の人が巻き込まれて死亡した。自分たちも森の中に逃げ込んでいる」と悲痛な声が、何とかつながった携帯電話で届けられました。

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ステファンさん

一方で、分離派の武装グループによる暴力を証言する住民もいます。ロマロ・ステファンさん(26)は、武装グループが住民たちに対し、政府に協力しないよう圧力をかけていると、重い口を開いてくれました。英語が十分話せないと、フランス語圏のスパイだと言いがかりをつけられて殺された人もいたと証言します。

11月、武装グループが学校を襲撃し、学校から生徒など80人余りを一時連れ去るという衝撃的な事件もありましたが、こうした状況下で起きているのです。

双方の暴力にさらされ、いわば“紛争の人質”に捕らわれている住民たち。住まいを追われた人はすでに46万人を突破しています。

国連の人権高等弁務官事務所は11月20日、声明を発表し、双方が一般市民を標的にした人権侵害を繰り返していると非難し、対話を呼びかけました。

“資源戦争”も拍車

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対立を一層深めている背景にあるのが天然資源です。英語圏ではゴムや果物などの広大なプランテーションがどこまでも続いています。また沖合にはいくつもの石油の採掘施設が見えました。

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石油はカメルーンにとって重要な外貨獲得手段で、油田はすべて英語圏にあります。このため、政府としては、豊富な資源を失いかねない、英語圏の分離独立の動きは絶対に認められないのです。

ビヤ政権は、英語圏の分離派はテロリストだとして徹底的に押さえ込むと公言しています。資源利権の奪い合いという側面も拍車をかけ、戦闘が終息する兆しは見えていません。

炸裂する“時限爆弾” 歴史の教訓は

「内戦は、誰かが『きょうから始める』と宣言して始まるのではない。気がついたら、いつの間にか始まっているものなのだ」

これは国連のイラク問題の特使が2004年にバグダッドでの記者会見で述べた言葉です。実際、イラクもシリアも少しずつ内戦の泥沼にはまっていきました。

カメルーンもこのままではそうした危機的な状況に陥るとの懸念が高まっています。皮肉にもいずれも第1次世界大戦後のイギリスとフランスによる分割を経て、生まれた国です。

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しかし、カメルーンの現状への国際社会の関心は低いのが現実です。国連が緊急の人道支援のために各国に資金の拠出を呼びかけていますが、3億ドル余りの目標に対し、集まったのは3分の1にすぎません。

また情報も限られています。外国のメディアは取材許可が出にくく、私たちもビザを取るのに苦労しました。

国際社会の関与が十分に及ばない中で、深まるカメルーンの混乱。植民地支配が埋め込んだ分断は100年の時を経て、まるで時限爆弾のように炸裂しているかのようです。歴史の教訓を見いだすためにも、私たちは関心を向け続けるべきだと思います。

別府 正一郎
ヨハネスブルク支局長
別府 正一郎