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最強部隊を率いる男の行方

「次に解任されるのは誰か?」
今、アメリカの首都ワシントンでたびたび耳にする言葉です。アメリカの中間選挙後、人事の刷新を図る構えを見せるトランプ大統領。さまざまな閣僚や高官の名前があがるなかで、その去就が注目されているのが「最後のとりで」とも言われるマティス国防長官です。長官の同行記者団にも参加しその傍らで取材するなかで見えてきたマティス長官の真意や素顔を報告します。
(ワシントン支局記者 太田佑介)

“あなたは民主党員ですか?”

マティス国防長官辞任の臆測が一気に高まったのが、ことし10月に放送されたトランプ大統領のインタビューでの発言です。

トランプ大統領はマティス長官について「民主党員のようなところがある」と考えの違いを指摘したうえで、「やめるかもしれない」と述べ、辞任の可能性を排除しなかったのです。

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その翌日、私はマティス長官と共に専用機の機上にいました。アジア外遊の同行記者団の一員に選ばれたのです。

長官は外遊の際、通常、機中で同行記者団向けに会見します。当然ながら、この時、相次いだのがトランプ大統領のインタビューについての質問でした。

「あなたは民主党員ですか?」
「政党に所属したことはありますか?」

アメリカの記者の質問は直球です。

「辞任について大統領と話したことはない」
「いずれの政党にも所属したことはない。仕事を続けるだけだ」

辞任を否定したマティス長官。しかし私はこの時、その受け答えに質問をかわすだけの歯切れの悪さを感じていました。

100%味方

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会見が終わってから、1時間ほどがたったころ。マティス長官が再び記者たちのスペースに姿を現しました。

そして問わず語りにトランプ大統領とつい先ほど電話をしたこと、その電話で「100%あなたの味方だ」と言われたことを明かしました。

その言葉にはつい先ほどより力がこもっていたように感じ、表情にもうれしさがにじんでいたのが印象に残っています。

マティス長官はみずから辞任することはないのではないか。私はこう思っています。

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トランプ政権内では保守強硬派のボルトン大統領補佐官が安全保障政策に大きな発言力を持っています。ボルトン補佐官はトランプ大統領に忠実なだけでなく、これまでアメリカと対立する国には軍事力の行使も辞さない考えを示してきたことでも知られています。

そうしたなか軍を誰よりもよく知り、そして外交の重要性を強調してきたマティス長官はいわば歯止め役としての責務を感じているのではないか、そのように思えるのです。

しかしマティス長官といえ、トランプ大統領の頭の中をのぞけるわけではありません。だからこそトランプ大統領から「味方だ」と言われたとき、「まだ仕事をできる」という気持ちを感じたのではないか、私にはそう思えました。

指揮官の素顔

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アメリカ海兵隊の退役大将であるマティス長官は湾岸戦争やアフガニスタンでの「対テロ戦争」、イラク戦争などで前線の部隊を指揮した歴戦の雄として知られています。

それと同時に歴史に造詣が深い「戦略家」としても知られ、時に議会の軍事委員会で対じする多くの議員からは党派を超えて尊敬を集めています。国防総省でも部下からの信頼の厚さで知られています。

そのマティス長官の素顔を垣間見たのが、機内で会見を終えたあとのひとときでした。少しリラックスした様子の長官は部下が持っていた同行記者団の顔写真と略歴が書かれた名簿を手に取りました。

明らかにインターネット上の写真や略歴をコピーしただけの簡単な名簿でしたが、長官はこうジョークを飛ばしました。

「これはCIAが用意してくれたんだ。君たちのことは何でもお見通しだぞ」

そして一人ひとりの記者に声をかけていきました。

「けさは何時に基地に集合したんだ?眠たくはないか?」

私はこの7月にワシントン支局に異動したばかりで、国防総省の記者団では新顔です。ですがマティス長官は私にも「子どもは何歳だ?一緒に引っ越してきたのか?家族はアメリカになじんでいるか?」と気さくに応じてくれました。

こうした人柄が部下からも慕われる理由なのだろう。そう感じた時間でした。

世界の終わりの日のための飛行機

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ここで余談ですが、マティス長官が外遊の際に搭乗する専用機「E4B」に触れておきます。

ボーイング747型をベースにあらゆる通信設備を加えて改良した特殊な航空機で、「国家空中作戦センター」に指定されています。核戦争や大災害で地上の指揮機能が崩壊しても世界中に展開するアメリカ軍を上空から指揮できる能力を備え、「世界の終わりの日のための飛行機」とも呼ばれています。

記者が座るのは機体中央からやや前方の列、記者会見室を兼ねたスペースで、そのすぐ後ろにはドアを挟んで国防総省の職員のスタッフルームがあります。

アジア外遊にはアジア太平洋地域を統括するシュライバー国防次官補をはじめ、40人ほどの職員が同行し、分厚い資料を片手に電話で地上と頻繁にやり取りする姿が見えました。

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ちなみに機内にはもちろん客室乗務員はいません。食事の時間になるとアメリカ軍の下士官が機内食を運んで来てくれますが、飲み物はセルフサービスです。

最後のとりで

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マティス長官がトランプ政権で果たしてきた役割の大きさに異論を唱える人はいません。トランプ政権の内幕を描いたとする著名なジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏の本によれば、シリアで化学兵器の使用が大きな問題になった際、トランプ大統領のアサド大統領暗殺の指示をかわして空爆作戦に変更したり、在韓米軍の駐留を疑問視するトランプ大統領にその重要性を諭したりしたとされています。

日米関係でもその存在は大きく、ある関係者は「マティス長官が東アジアのアメリカ軍のプレゼンスの重要性をトランプ大統領に理解させてくれている。そのおかげで日米同盟に大きな影響が出ていない」と指摘します。

一方で仮にマティス長官が政権を去ればその代役を果たせる人は見当たらないと不安を隠しません。国際協調や同盟国との関係を重視するマティス長官の外交・安全保障観はトランプ大統領のいわば直感に左右される政策への一定の重しともなってきました。

そのトランプ大統領は中間選挙を通じ、アメリカ第一主義、グローバリズムの否定という、これまでの路線への自信を深めているようにも見えます。2020年の大統領選挙に向け、より「トランプ節」を強める時、重し役とみなされてきたマティス長官との関係に何らかの変化があるのか。その去就から目が離せない日々が続きそうです。

太田 佑介
ワシントン支局記者
太田 佑介