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カジノ、パチンコ それって介護?

カジノゲーム、パチンコ、麻雀。これらはすべて、お年寄りが日中過ごす「デイサービス」で提供されているものです。デイサービスは介護サービスの1つです。お年寄りが体操したり、合唱したりする姿を想像している人も多いと思いますが、今、サービスが多様化しているんです。これについて、「介護保険でやるべきサービスなのか」などと疑問視する声もあります。今回はデイサービスでのこうした“異変”についてお伝えします。(社会部記者 福田和郎)

この施設は?

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東京 足立区には、「ラスベガス」という名前のデイサービスがあります。
名前のイメージどおり、バカラ台やパチンコ、それにマージャン卓が並んでいます。カジノ店と言われても全く疑問に思わないような内装です。

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朝訪ねてみると、車いすに乗ったお年寄りなどが、黒塗りのワンボックスカーに送迎されてやってきました。
利用者は到着して体操を終えると「ベガス」という疑似通貨を渡され、自分の好きなゲームを楽しみます。

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バカラ台ではディーラー役の施設職員が、手慣れた様子でカードを配り、ポーカーやブラックジャックなどを行います。
ゲームが始まって1時間後、バカラ台を囲む女性が歓声をあげました。「フルハウスが2度も出た」と興奮していました。

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そのそばでは、パチンコを打ち、大当たりを待っているお年寄りもいます。施設内は熱気と興奮に包まれていました。

2年前からこの施設に通う徳永佳朗さん(82)。
足を骨折して歩くことが不自由になり、介護が必要となりました。いちばんの楽しみは仲間とのマージャンです。

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以前は自宅にこもりがちでしたが、今ではデイサービスに通う日を心待ちにしています。

徳永さんは「時間がたつのを忘れるくらい楽しい」と話し、徳永さんの妻も「自宅にいたら寝てばかり。施設に通い始めて元気になり、とてもありがたい」と話していました。

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なぜカジノを導入?

ラスベガスを運営する会社がカジノゲームを取り入れたのは5年前です。以前は、折り紙や塗り絵などをするデイサービスを運営していましたが、足を運ぶのを嫌がる利用者がいたといいます。

どうしたら利用者が施設に来たくなるのか考えていたところ、研修で訪れたアメリカ・ラスベガスでの光景をヒントに、今のような施設に改装しました。

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今、多くのデイサービスは厳しい経営を迫られています。高齢化で利用者が増加したのに伴って、デイサービスの施設も急増。全国で4万3000か所余りと、この10年で2倍に増えました。

その一方で、国は増加し続ける介護費用を抑えるため、3年前にデイサービスの施設に支払う介護報酬を大幅に引き下げました。これによって、利用者を増やそうと施設間の競争が激しくなっています。

カジノを取り入れたあとは急成長を遂げ、今では全国20か所に展開し、1200人余りが利用しています。施設では、換金や商品との交換はせず、ベガスをどれだけ増やしたか順位を競います。

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運営会社の森薫社長は「現金も資産も賭けないので、ギャンブルではない。利用者が元気になるなら、それで良いと思う」と話しています。

カジノの介護導入を疑問視する声も

一方で、カジノゲームやパチンコなどをデイサービスで提供することを疑問視する声もあがっています。

そもそもデイサービスは、
(1)体操などで体や心の機能を維持すること
(2)人と触れあうことで社会的な孤立を解消すること
(3)家族の負担を軽減することの3つが、主な目的となっています。

そして、事業者に支払われる介護報酬は、40歳以上の人たちが支払う保険料や税金が財源となっています。

兵庫県は3年前、多くの時間をカジノゲームやパチンコなどをして過ごす介護施設を規制する条例を作りました。保険料などの公費で賄う介護としては、ふさわしくないというのが理由です。

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兵庫県高齢政策課の津曲共和課長は「保険料や税を負担している県民の納得が得られるかどうかが1つの大事なポイントだった。それにふさわしいものか考えた時に、一定の歯止めが必要だと判断した」と話しています。

こうした条例は、兵庫県尼崎市や東京都荒川区でも制定されています。

さらに「ギャンブル依存症」につながるおそれも指摘されています。
介護に詳しい東洋大学の早坂聡久准教授は、高齢者が施設でカジノなどを経験することで、実生活でギャンブルなどに手を出し、依存症になるおそれがあると指摘しています。

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早坂准教授は「ゲームをやりたいルーレットを回したいという方向に日々の生活の思いがいってしまうおそれがある。ギャンブル依存を広めてしまうと懸念する自治体や批判は多くある」と話しています。

カジノやパチンコは介護サービスとして、ありなのか無しなのか。厚生労働省は「サービスの内容は事業者が決めるもので、国として規制するものではない」として賛否を示していません。

カジノを中止し、別の工夫も

カジノを取りやめ、ほかのサービスに力をいれる施設もあります。

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兵庫県姫路市の住宅街に、豪華客船の形をしたひときわ目立つ建物があります。
毎朝、船員の姿にふんした職員がお年寄りを出迎えます。この施設もまたデイサービスです。

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お年寄りたちは到着すると2階のベランダから紙テープを投げて出港式を行います。もちろん、住宅街の真ん中にあるので航海は出来ません。
内装はシャンデリアにステンドグラスと、まさにクルーズ船そのもの。ウエルカムドリンクで乾杯し、気分は完全に旅気分です。

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ここでは以前、施設内でカジノルームを設けていましたが、規制を受けて中止しました。それでも利用者に足を運んでもらうため、さまざまなサービスを準備しています。

パターゴルフ、料理教室、プール、ストレッチなど、その数は200種類。どのサービスに参加するかは、みずから選んでもらいます。

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このうち料理教室を取材すると、脳梗塞を患い左半身にまひが残る75歳の男性がいました。身寄りがおらず、食事は宅配の弁当かカップめんを食べているそうです。

施設は、男性のために右手だけで料理が作れる方法を考えました。片手で卵を割り、専用カップに移して電子レンジで温めると目玉焼きができました。男性は「まあまあかな」と謙遜していました。

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「デイサービス杏の里」の石橋正子理事は「カジノゲームじゃなくても、工夫をすればお年寄りが施設に足を運ぶ動機づけはできる」と話しています。

効果を検証することが必要

デイサービスは多様化し、今後もカジノに限らず、さまざまなサービスが出てくると思います。

お年寄りを引きつける魅力的なものであることが望ましいとされる一方で、介護保険制度で運営する以上、保険料を支払っている人たちが納得する内容でなくてはなりません。

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高齢化が進む中、2025年には「団塊の世代」全員が75歳以上となり、介護が必要なお年寄りはどんどん増えていきます。これに伴い、介護費用は膨らみ続けていて、限られた財源の中で、制度を維持していかなければなりません。

お年寄りが楽しいなら、何をしても良いというわけにはいきません。介護の目的をきちんと果たしているかが重要となります。
カジノなどの新しいサービスを介護として提供することで、どんな効果があるのかを、国や自治体はきちんと検証する必要があると思います。

福田 和郎
社会部記者
福田 和郎