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「産まなくても家族」不妊治療の先に

およそ4万5000人。日本国内で、経済的な理由や虐待などで生みの親と暮らせない子どもの数です。一方、子どもを望み不妊治療を受けるカップルは6組に1組にのぼると言われ、治療で子どもに恵まれるカップルがいる一方、治療をどこまで続けるのか、“やめどき”が難しいとも言われています。こうした夫婦と子どもが新たな親子関係を結ぶことができる「特別養子縁組」。どのように家族を築いていくのでしょうか。(首都圏放送センター記者 中川早織)

“産んでも育てられない親”と“育てたい夫婦”を結ぶ

都内で開かれた特別養子縁組についての説明会です。
支援する民間団体が毎月開いていて、この日は6組の夫婦が参加していました。

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参加した夫婦に話を聞いてみると、「不妊治療を終わらせようかと考えていて、次に何ができるか考えその第一歩として来ました」と胸の内を明かしてくれました。

実際に、説明会に参加する夫婦のほとんどが、不妊治療を経たのちに訪れるということです。

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この一方で、説明会を開いた「ベビーライフ」代表の篠塚康智さんによると、毎日のように「産んでも育てられない」という相談が5、6件寄せられていて、団体が設けた保育施設では生まれたばかりの赤ちゃんが育ての親が迎えにくるのを待っているという状況が生まれているそうです。

不妊治療の先にあった選択

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茨城県に住む高橋さん夫婦は、ことし7月、経済的な理由から生みの親が育てられないという生後間もない赤ちゃんを迎えました。高橋さん夫婦は4年前に結婚しましたが、自然に妊娠しなかったため、医療機関を訪ねたところ夫の昌紀さんが「無精子症」であることがわかりました。

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2度手術を受けたものの成功しなかったという昌紀さん。夫婦で毎晩話し合った末、共通していたのは、「2人で子どもを育てたい」という思いでした。
そんな時に知ったのが、特別養子縁組の制度だったのです。

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妻の佳奈さんは、「私は産むことにはこだわりはなく、夫と子育てをしたいということが、話し合う中でわかった」と夫婦で向き合うことの大切さを教えてくれました。

また、昌紀さんは、「妻には申し訳ない思いで、つらい気持ちがありましたが、先の治療に進みその可能性にかけるより、特別養子縁組をする道を選びました」と決断した思いを話してくれました。

制度開始30年で課題も

「特別養子縁組」は、後継ぎなどを求め養子を迎える「普通養子縁組」と違い、「子どもの福祉」を目的にした制度で、昭和62年に法律が成立しました。

原則6歳未満の子どもが対象で、縁組が成立すると、生みの親との法的な関係はなくなり、育ての親と新たな親子関係が結ばれます。

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特別養子縁組をめぐっては、東京や千葉のあっせん団体が営利目的などで高額の金を受け取っていたことが明らかになるなど、過去にはトラブルも起きていて、国はことしから、あっせん事業を許可制にしました。

一方で、国は、特別養子縁組の利用を進めたいと考える中で、“原則6歳未満”という対象年齢が縁組の壁になっているとして、年齢の引き上げなど制度そのものをどう変えていくかの議論を現在、進めています。

増える特別養子縁組家族

制度が始まった当初から特別養子縁組を支援してきたのが都内のNPO「環の会」です。子どもを迎えたいと望む夫婦に、これまで360人以上の子どもを託す橋渡しをしてきました。

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毎年、育ての親から届く年賀状には、迎えた子どもの進学など近況が寄せられ、最近は子どもが結婚し、孫ができたという報告もあるそうです。

設立当初は、子どもにどう接していいかわからなくなったり、親子でぶつかりあったりという悩みに直面する育ての親もいたそうですが、最近は特別養子縁組で子どもを迎えることが、選択肢の1つとしてとらえられてきたと感じています。

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代表で産婦人科医の星野寛美さんは、「それぞれの夫婦が、頑張って家族を作っています。本当に子どもを大切にしていただいて、普通の家族になっています」と話していました。

「愛され生まれた」子どもに伝える

不妊治療を経たあと、NPO「環の会」を通じて2人の子どもと特別養子縁組をした埼玉県の40代の夫婦です。6歳と3歳の女の子を育てています。

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自宅のリビングには、事情があって自分たちではどうしても育てることができなかったという子どもたちの生みの親や、その家族の写真が飾られています。

NPOが設立当初から大切にしてきたのが、子どもたちに愛されて生まれ、そして望まれて育ての親の元に迎えられたと伝え続けていくことです。夫婦もこうした事実をふだんの生活の中で子どもたちに伝えてきました。

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そして、生みのお母さんは、毎年、子どもたちの誕生日にお祝いのカードやプレゼントを送ってくれて、夫婦は子どもたちの1年間の成長をアルバムにして送り、交流を続けているそうです。

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妻は、「産まなくても本当に自分の子どもとして大事だし、本当に自分の娘として育てている一方で、生みのお母さんという存在がある。それを伝えながらこうして家族にもなれるんだなと思いました」と話し、

夫は、「血がつながっていることが大事なのではなく、一緒に家族になっていくということの過程がすごく大事で、自分たちのもとにきてくれてありがとうというのが1番強い気持ちです」と、わが子への愛情あふれる思いを語ってくれました。

“特別”ではない世の中に

2組の夫婦は、自分たちのように不妊に悩む夫婦や、予期しない妊娠に悩む方にこうした制度があることを知ってもらいたいという思いから顔を出しての取材に応じてくれました。

取材の中で特に印象に残ったのは、「子どもたちが大きくなったときには特別養子縁組が“特別”なことではない世の中になっていてほしい」という言葉です。
すべての子どもが家族のもとで愛され育っていけるように、誰も苦しまないでいられるように、この制度は活用されていくべきだと思います。

さまざまな家族の形がある中で、血のつながりがあること、一緒に住むこと、同じ戸籍に入ること、男女の夫婦であることだけが“家族”の条件ではないのだと感じさせられた取材でした。

中川 早織
首都圏放送センター記者
中川 早織