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“対話が成り立たない” アメリカ社会の分断

意見の異なる人を執ように攻撃するトランプ大統領のもと、アメリカでは、社会の分断がかつてないほどに深まっています。
意見は違っても、議論することでまとまり、多様で活力のある社会を作ってきたアメリカでは今、議会の中間選挙を前に「対話が成り立たなくなっている」と言われています。(アメリカ総局記者 籔内潤也)

異なる意見を攻撃する大統領

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アメリカでニュースを見ていると、異なる意見の人を攻撃するトランプ大統領の発言を耳にしない日は、ほぼありません。

「民主党は犯罪者の政党だ。ドラッグやギャングどもに国境を開け放とうとしている」
「CNNなど、フェイクニュースメディアは反対勢力だ」

これにあおられるように、異なる意見の人を拒絶する空気が広がっています。

意見合わない人に爆発物まで

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オバマ前大統領や、ヒラリー・クリントン元国務長官、それに、CNNテレビなど、トランプ大統領が激しい言葉で非難してきた人たちに爆発物が送りつけられる事件も発生。

逮捕されたのは、トランプ大統領の熱心な支持者と見られる男でした。

主要メディアは、トランプ大統領の激しい言動が事件を誘発したのではないかと指摘していますが、これに対しトランプ大統領は、メディアは事件を政治利用しようとしているなどと批判しました。
中間選挙を前に、分断が極まっているように感じます。

苦闘する科学者

こうした状況を前に、苦闘している人がいます。

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ミシシッピ大学で抗がん剤の研究をしてきたランディ・ワドキンス教授。トランプ政権が科学研究の予算を削減しようとしていることに危機感を抱き、今回の中間選挙の下院議員選挙に民主党から立候補しました。

訴えの中心は、誰もが安心して受けられる医療保険制度・教育の整備、そして、科学者の視点を生かした宇宙航空・環境産業の誘致です。

しかし、アメリカ南部に位置するミシシッピ州は、共和党のイメージカラーにちなんで「レッドステート」と呼ばれる共和党の地盤です。州の旗には、南北戦争の際に奴隷制を支持した当時の南軍の旗があしらわれているほどの保守的な地域で、陸軍上がりの共和党の現職議員は、前回、ダブルスコアで圧勝しています。

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私たちはワドキンスさんとともに、街を歩きました。

ワドキンスさんは、保守・リベラルを問わず有権者に話しかけます。しかし、目立つのは保守的な人との議論が難しいことです。「健康保険の整備についてどう思いますか?」と話しかけると「経済と国の防衛が第一」「妊娠中絶の権利を認めないことが最も大事」といった答えが返ってきました。

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地域では、地球温暖化はウソだ、と考えている人も少なくなく、話がかみ合わないこともあるといいます。

ワドキンスさんは、「議論の土台となる事実さえ伝わらない人がいる。30年近く、がんの研究をして人々を助けてきた経験を有権者が知って、自分が真実を語る人間だと分かってもらいたい」と、自分と考えが異なる人が多い地域で、訴えを伝える難しさについて語っていました。

トランプ支持者との間の深い溝

街の保守的な人たちの考えをよく知りたいと考えていたところ、トランプ大統領の支持者と出会いました。

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この地域に住むジム・ヘンドリックスさん(76)。
自宅の前には、星条旗と共和党候補のプラカードを掲げています。ヘンドリックスさんがいつも見ているのは、トランプ政権寄りの報道が目立つFOXニュース。
リベラルなメディアの報道は偏向していると感じています。

トランプ大統領については「経済は絶好調だし、北朝鮮ともうまくやっていて、多くの成果を上げている。もっと仕事をさせてやるべきだ」と評価しています。

民主党から立候補しているワドキンスさんについては、話を聞く必要もないと言い切りました。

「民主党は左に寄りすぎだ。民主党から誰が出たって考慮はしない」

政治的な立場が違うと、最初から拒絶してしまう、分断された状況がありました。

分断はSNSで加速

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こうした分断は、SNSによって加速しています。
デューク大学のクリス・ベイル准教授の研究グループは、SNSで自分と異なる党派の意見を聞くと、かえって自分の意見に固執するようになるという研究結果をまとめました。

分断はトランプ大統領の登場以降、さらに広がったといいます。

ベイル准教授は、「アメリカでは、政治家たちは有権者よりもさらに両極化していて、分断を加速させている。残念ながら中間選挙でも分断の流れは変わらず、しばらく続くだろう。政治的な立場をいったん離れて議論できるようにする仕組みを整えていく必要がある」と話しています。

失われた対話を取り戻す

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では、実際に失われた対話を取り戻すにはどうすればよいのか。「Let’s Depolarize America!」(アメリカの分断をなくそう!)というキャッチフレーズをかかげ、活動しているNPOがあります。

トランプ大統領が当選した直後、2016年末に設立されたNPO「Better Angels」は、共和党と民主党、それぞれの支持者を集めて、議論する集会を開いています。

10月13日に、南部バージニア州で開かれた集会を取材しました。
参加したのは、共和党支持者・民主党支持者合わせて10人。

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そのうちの1人、共和党支持者のマイク・ジョーンズさんは、民主党支持者とはほとんど言葉を交わしたことがなく、「民主党支持者はメディアの流すウソを信じ込んでいる」と考えていました。

相手の意見を黙って聞く 生じた変化

集会では、それぞれのグループが自分たちの主張について話し合う様子を、反対側の人たちが見つめます。
反論したくなっても何も言わない、というのがルール。

ジョーンズさんは、民主党支持者たちの議論を黙って見つめました。

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民主党支持者の間では
「民主党は、アメリカの強みである多様性を受け入れている」
「銃規制は大事で社会を安全にすることにつながる。自分の2人の娘が学校で襲撃されないか、毎日、心配している」
といった話が出てきました。

続いて、議論の進行役が民主党支持者たちに「改めるべき点」などについて話すよう促しました。

すると、
「私たちは健康保険制度を時間をかけて作ったけど、完璧ではなかった」
「民主党にはリーダーシップがなく、極端な意見を持つ人の意見が取り沙汰される」
「取り残されてきたと感じる人もいるのではないか」
といった意見が出されました。

こうした議論を聞いて、ジョーンズさんは民主党への印象が変わり始めました。ジョーンズさんは最後に「民主党支持者はウソに惑わされていると思っていたが、知識があるとわかった。銃規制は子どもの安全の問題だと話していたけれど、私はそう考えたことはなかった。自分たちとはプロセスが違うだけで、彼らも解決を求めているということがわかった」と告白しました。

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多くの参加者が、ジョーンズさんと同様、相手に対する意見が変わったと語り、立場や意見が異なっても理解しようと努力すれば、対話が成り立つことを確認していました。

自分の支持層にだけ訴えかけ、「Us vs.Them」、すなわち味方と敵、という構図を作り出すトランプ大統領とは異なる姿がありました。

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「Better Angels」のオーガナイザー、ドナ・マーフィーさんは、「立場や意見が違っても、よく聞くことで、相手は敵ではなく自分と同じような人間だと理解できるようになる。立場にとらわれて自分の主張を声高にするだけでなく、落としどころを見つけるのが、本来のアメリカの民主主義の在り方だ」と話していました。

対話が成り立たない状況での中間選挙 そして日本は

私は、トランプ支持者と反トランプの人たちがいがみ合う様子を見て、この人たちはまともに話をしないのだろうかと、いつも疑問に感じていました。

私はふだん、ニューヨークを拠点に、科学や文化を中心に取材しています。告白すると、トランプ支持者と話す機会はほとんどありません。

今回の取材では、南部ミシシッピ州や「Better Angels」の集会で会った共和党支持者の人たちから「自分たちの生活を守りたい」とか、「自分のことは自分で決めるということを重んじている。政府にとやかく決められるのはアメリカの精神に反する」という意見を多く聞きました。
共和党支持者には、自分で決めることを重んじる自律の精神がより強く根付いていることに、改めて気づかされました。
実際に落ち着いて話すといろいろと発見があり、対話の糸口を見つけることも可能なように感じました。

意見は違っていても、議論をしっかりして落としどころを探るというのは、アメリカが培ってきた民主主義の形のはずでした。

対話が成り立たない状況で迎える中間選挙で、アメリカの有権者はどのような判断をするのでしょうか。そして、翻って日本でも対話は成り立っているでしょうか。

SNSなどで自分の知りたい情報だけ目にして、凝り固まってしまいやすい時代。アメリカの状況をよく知って考えてみる必要があるように感じました。

籔内 潤也
アメリカ総局記者
籔内 潤也