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忍び寄るオーバーツーリズム 日本も危機に?

旅好きの皆さん!「オーバーツーリズム」という言葉をご存じですか? 今、世界の有名観光地の多くがこの問題に直面しています。そもそも、観光地は、お客さんに1人でも多く来てもらえればうれしいはず。でも、もし期待よりもはるかに大勢の観光客が押し寄せてきたらどうなるでしょうか…。増えすぎる観光客でさまざまな弊害が起きる事態。それが「オーバーツーリズム」です。(国際放送局記者 望月麻美)

急浮上してきた問題

この「オーバーツーリズム」、2年ほど前から世界で使われ始めた造語ですが、今や世界の観光を語るうえで、業界でも学術界でも欠かせない言葉になっています。

観光地に人があふれると、まず、街の混雑、交通渋滞、夜間の騒音、ゴミ問題、トイレ問題、環境破壊…さまざまな問題が起き、地元の人たちの日常生活に大きな影響を与えます。

さらに、こうした問題の発生で、観光地が魅力そのものを失ってしまうこともあります。オーバーツーリズムはこうした状態の総称と言えます。

世界では深刻な事態も

このオーバーツーリズム、世界各地で深刻な事態を生み出しています。

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人であふれるベネチア中心部

イタリアのベネチアでは、増えすぎた観光客に地元住民が「激怒」。怒りの矛先は、一度に大量の観光客を運び込む大型豪華客船に向かい、港に近づく船の周辺をボートで取り囲み「ベネチアに来るな」と海上デモを展開するまでになりました。

これを受けて政府も、観光船のルート変更を決めたほか、ピーク時には路上にもゲートを設置、地元住民を優先して通行させる措置を取らざるをえませんでした。

オランダのアムステルダムでは、去年、街の中心部から名物が消えました。一度に10人前後の人たちがビール片手にペダルをこいで進む観光用の乗り物「ビアバイク」です。観光客が増える中、交通渋滞や酔っ払って騒ぐなどマナーの悪化が頻発。とうとう裁判所も、「無秩序な振る舞いはまかりならん」と、営業禁止にゴーサインを出しました。

フィリピンのボラカイ島は、環境破壊が深刻化。観光客激増によるゴミや排水の汚染で海の水質が悪化したとして、政府はことし4月、観光客の立ち入り禁止措置を取りました。

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島に向かう船乗り場「観光客は禁止」

改善が見られたとして10月、一部立ち入りを認めることになりましたが、私たちの取材に応じたフィリピン観光相は、観光による発展と環境保全の両立がいかに難しいかを切々と語っていたのが印象的でした。

日本では?

いずれの観光地も「増えすぎた観光客」によって、その地域の持つ本来の良さを失ってしまっていることが分かります。

そして、日本にもこの「オーバーツーリズム」、じわじわと忍び寄っています。日本を代表する観光地、京都を取材してそのことを痛感しました。

バスに乗れない京都の住民

国内外から年間5000万人以上が訪れる京都。私たちは9月中旬の連休に、まず世界遺産の清水寺近くの大通りに向かいました。

そこには、観光客によるバス待ちの長い列。京都のあちこちで、もうすっかりおなじみの風景になってしまったそうです。

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バスを待っていた京都在住の女性は「すごく混んで乗れないときもありますし、普通でも1、2台は待たないと乗れません。秋の紅葉シーズンはこれに渋滞が重なってバスが動かなくなります」と諦め顔。

また男性住民は「この辺りは観光で食べてますから、観光客が来ないほうが良いとは言えませんが、いろいろ弊害も出ています」と複雑な心境をのぞかせました。

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また近くの住宅地で取材した別の女性住民は民泊の増加をあげ、「この辺りは住宅密集地ですが、民泊が増えて、夜中すぎても騒がしくなりました」と戸惑った様子でした。

私は2008年まで奈良放送局に赴任していて、ここ京都にもよく足を運びましたが、確かに10年前と比べ、今の外国人観光客の増加ぶりには目を見張ります。それだけ、地元住民の方々には、切実な問題が迫っていると感じました。

京都は「3つの分散化」で対応

京都は、日本がオーバーツーリズムの問題に取り組むモデルケースになる。そう感じた私は、門川大作京都市長を取材しました。

市長は9月、東京で開かれた観光関連の国際的な展示会に出席、オーバーツーリズムに対する市の取り組みを紹介しています。

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市長の取り組みの鍵は「分散」です。やって来る観光客の量を「制限」するのではなく、その量を「散らばらせる」ことで、混雑や渋滞などの問題を解消しようというものです。

門川市長は「混んでる時間に、混んでる場所に行ったら、混んでいるのは当たり前。これをどう分散させるかが勝負」と語ります。

分散その1 時間の分散 ~朝観光の推進~

ことし、京都を代表する世界遺産 二条城は、夏季、オープン時間を、通常よりおよそ1時間早い8時に設定、観光客の分散を図りました。

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8時の開城とともに訪れたアメリカから来たカップルは、「混んでなくて良いです。朝早くに来られてよかったです」と満足そうでした。

また二条城では、オープンをただ早くしただけではなく、城内の「香雲亭」を特別公開、そこで予約制の朝食を提供しました。連日満席の盛況ぶりで、「朝観光」は成果を上げていたようです。

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分散その2 場所の分散 ~新たな魅力開拓~

京都市南部の伏見区は伏見稲荷大社が混雑スポット。つまりそこ以外は比較的すいていて、観光客をどう呼び込むかが課題だったため、混雑が激しい場所から観光客を「分散」させようというのです。

私が取材した地元の商店街や観光業者らの組合が考え出したのは、まだ認知度の低い「酒どころ伏見」をアピールするツアー。酒蔵の見学と利き酒体験がセットになっています。人気も上々とのことで、取材した日には、アメリカやノルウェーなどから12人が参加していました。

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イスラエル人の男性は「市の中心部とは一味違った体験でした」。また、イギリス人女性は「すいていて良いです。また来たいです」と、「人混みのない京都」を堪能していました。

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分散その3 季節の分散 ~桜と紅葉以外も楽しんで~

京都は桜の春、紅葉の秋が混雑のピークです。このため、この2つのピーク以外の季節に観光客を呼び込めないかと生まれたアイデアが、「青もみじ」です。

要するに初夏の若々しい青葉のもみじを取り上げ、「美しいのは春と秋だけではありませんよ」とアピールしているのです。

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京都市は市内の寺社とも連携し、SNSによる写真の拡散につながるはたらきかけを積極的に行い、今やネットで「京都・青もみじ」と検索すれば、インスタ映えしそうな鮮やかな緑の風景がずらりと並びます。認知度も徐々に上がってきているということです。

日本の未来とオーバーツーリズム

今、日本は、文字どおり国を挙げてインバウンド(訪日外国人旅行)の増加を狙っています。東京オリンピック・パラリンピックの2020年には、外国人旅行者を今より1000万人以上多い、4000万人に増やすことも目標としています。

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観光客が増えれば当然、地域の経済効果は大いに期待できるでしょう。しかし、それはとりもなおさず、日本各地の観光地が今後、程度の差こそあれ、オーバーツーリズムの問題に直面する危険性が増すことも意味しています。

私が取材した国連世界観光機関のポロリカシュヴィリ事務局長は「世界の観光客は、ここ5年の間、毎年3%から4%の割合で伸びている」と語り、格安航空会社の進出や途上国の経済発展が、世界の「旅行ブーム」に拍車をかけている現状を指摘し、「持続可能な観光の発展」が国際社会にとって急務であることを強調していました。

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国連は2017年を「持続可能な観光国際年」と定め、各国で会合を開いて問題の解決策を議論しています。そして、国連世界観光機関は先月末、提言書をまとめ、11項目の解決策を提示しました。閑散期に、観光客をひきつけるイベントを作るなど、やはり、時間や場所の「分散化」、観光関連の仕事を増やすなど「地元にメリットを感じてもらう」、混雑時のう回路などインフラを整える「まちづくりの改善」などを挙げています。
観光は地域や国の発展には欠かせない重要な要素です。観光と地域の共生のためには、なすべきことが多くあります。そして、旅を愛するひとりとして、地元の方の生活や文化を尊重する、環境や文化財を守るためにできることをもっとする、穴場のスポットを積極的に探してみるなど、訪れる観光客の側にもできることが多くあるのではと感じています。

望月 麻美
国際放送局記者
望月 麻美