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青波がトランプ大統領を飲み込む?
~台頭するプログレッシブ~

トランプ大統領の審判となるアメリカの中間選挙まで1か月。野党・民主党が連邦議会の上院、下院で多数派を奪還できるかどうかが最大の焦点です。その民主党の中で、存在感を増しているのが「プログレッシブ=進歩派」と呼ばれる左派の勢力です。都市部の若者たちを中心に支持を広げていて台風の目となるのか注目されています。(ワシントン支局 石井勇作)

押し寄せる「ブルーウェーブ」

アメリカで選挙が近づくと関係者が頻繁にチェックするウェブサイトがいくつかあります。

よく知られたところでは、バージニア大学政治センターのラリー・サバト所長が責任者を務める選挙情報サイト「サバトのクリスタルボール」(クリスタルボール=水晶玉、のように未来を見通すという意味)、統計分析による議席予測に定評のある「ファイブサーティエイト」(「538」は大統領選挙で各州に配分される選挙人の数で、アメリカでは選挙を象徴する数字です)、それに選挙情報をまとめた「リアルクリアポリティクス」(各社の世論調査の平均値など膨大なデータが特徴)などです。

今、どのサイトを開いても掲載されているのは「民主党優勢」という情報。

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FiveThirtyEightのHPより

例えば、先ほど紹介した「ファイブサーティエイト」は、現時点で、議会下院では民主党が40議席近くも躍進し、80%以上の可能性で多数派を奪還する勢いだと分析しています。
民主党のイメージカラーの「青」を取って「ブルーウェーブ」、青い波が起きているなどとも言われています。

バーテンダー女性が起こした大金星

その民主党。党内の候補者を選ぶ予備選挙で、この夏、全米を驚かせる番狂わせがありました。

下院議員のニューヨーク選挙区の予備選挙で、次の下院議長候補とも言われていた党の重鎮が、28歳の新人女性、オカシオコルテス氏に敗れたのです。

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オカシオコルテス氏は、ニューヨークのレストランでバーテンダーを務め、政治家としての経験はありません。政治家の中では少数派の女性、さらにマイノリティー(少数派)のヒスパニックです。

何が彼女を候補に押し上げたのでしょうか。

プログレッシブの波

オカシオコルテス氏の訴えの中心は格差の解消、平等な社会の実現です。
公約として掲げているのが国民皆保険や高等教育の無償化などの実現。さらに、すべての人に仕事や住む場所を保証するといった社会主義的な政策なども訴え、民主党の中でもかなりリベラル、左寄りの立ち位置で「プログレッシブ=進歩派」と呼ばれています。

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このプログレッシブがいわゆるリーマンショックの後、「努力をしても成功できない」とか「機会に恵まれていない」などと現状に不満を感じている若者たちを中心に急速に支持を広げています。

その源流は「サンダース旋風」

それが選挙に大きく現れたのがトランプ氏とクリントン氏が争った2年前の大統領選挙です。

当時、国務長官、上院議員を歴任し、元ファーストレディーでもあったクリントン氏は、民主党内の候補者選びで最有力と言われましたが、そのクリントン氏をぎりぎりまで追い詰めたのが、左派のサンダース氏でした。

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格差の是正を強調し「既得権」に反発する若者たちの支持を得て、予想を超える善戦を見せ「サンダース旋風」を巻き起こしたのです。

民主党内でもエスタブリッシュメント、既得権者と見られたクリントン氏への反発もサンダース氏への支持につながったと言われています。

当時、私はロサンゼルス支局に勤務していて、サンダース氏の集会を何度か取材する機会がありましたが、とにかくどの演説会場も若者たちが多く熱気や勢いを感じました。

また多くの若者たちが、その辺にいそうな普通の若者たちで、政治に冷めていると言われる日本の若者たちとだいぶ様子が違うなぁという印象を受けた記憶があります。

オカシオコルテス氏は、その、サンダース氏の選挙運動に携わっていた1人です。こうしたサンダース氏を支持した若者たちが、今回、中間選挙に候補として出てきているのです。

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民主党内のプログレッシブの台頭は数字にも表れています。
ことし8月の時点でのまとめですが、アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所は中間選挙に立候補した民主党の新人候補に占めるプログレッシブの割合が全体の41%に上り、4年前の17%を大きく上回っているという報告をまとめています。

「顔」がない民主党

ただ、課題もあります。

引退した大統領は政治の表舞台にはかかわらないという慣例を破って、民主党のオバマ前大統領が先月から異例の選挙運動を始めました。

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各地の演説会場はどこも満員、テレビのニュースも生中継で取り上げ、オバマ氏の人気の根強さを印象づけました。

しかし民主党の選挙運動で、いわば「過去の人」であるオバマ前大統領が今も人気を集めるということは、裏を返せば、今の民主党を代表し、引っ張っていく顔が存在しないということでもあります。

民主党執行部がしっかりとしたリーダーシップを発揮できていないことも、主流派とは一線を画す左派の台頭につながっている背景にあるのかもしれません。

台風の目となるか

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そして、もう1つの課題が、保守的な地方でどこまでプログレッシブの主張が支持を得られるのかです。
比較的リベラルな人たちが多く暮らすニューヨークやロサンゼルス、シカゴなどの大都市はアメリカの一部でしかありません。

取材で南部や中西部に行くと改めて実感するのが、「また別のアメリカ」が広がっているということです。
保守的で信心深い古き良きアメリカ人とでもいう人たちが多い地域で、銃の徹底的な規制や人工妊娠中絶の拡大など左派的な主張がどこまで支持を広げることができるかは未知数です。

プログレッシブの台頭が民主党全体を勢いづけ巨大な「ブルーウェーブ」となり、トランプ大統領を追い詰めることになるのか、中間選挙の結果も左右するポイントとなりそうです。

石井 勇作
ワシントン支局記者
石井 勇作
国際部、ロサンゼルス支局などを経て今年6月からワシントン支局。移民や人種問題、食文化・芸能なども取材。