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“最後の巨大市場”アフリカ~中国の進出で何が起きているのか?~

「こんなに増えたのか!」5年ぶりに訪れたケニアの首都ナイロビで、空港から街に向かう途中で、中国語で書かれた多くの看板を目にして抱いた最初の感想です。その日の夜、さっそく、地元の中国料理店に入ってみると、中国人の客であふれていました。「これじゃ、まるで中国だな」と思わずにはいられませんでした。「中国化するアフリカ」で何が起きているのか。その取材は、皿いっぱいの水餃子をほおばりながら、始まりました。(ヨハネスブルク支局長・別府正一郎)

なぜ今、アフリカなのか?

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それにしても、中国をはじめ、各国はなぜ今、アフリカへの激しい進出競争を繰り広げているのでしょうか?

それはとりもなおさず、アフリカが、この地球で最後に残された巨大市場になり、国際政治での発言力も高まることが確実視されているからです。

大きな要因が、爆発的に増える人口です。

去年のアフリカの人口は、世界全体のおよそ16%でしたが、国連の推計では、2050年にはおよそ25億人にのぼり、世界全体の4分の1を占めるまでになります。わずか30年後には、世界の4人に1人がアフリカの人になると予想されているのです。

しかも、その人口は若く、消費意欲が旺盛です。また、アフリカは、金やダイヤモンド、それに石油やレアメタルといった天然資源の宝庫で、いわば「宝の山」です。

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各地で経済成長が続いていて、ナイロビでも、高層ビルの建設ラッシュが起きていました。もちろん、こうした経済成長が格差を生み、犯罪やテロ、それに紛争といった深刻な問題にもつながっています。

それでも、おしゃれをしてさっそうと行き交う若者たちを見ていると、豊かさを手に入れようとする人々のエネルギーを、もはや誰も止めることはできないように感じました。

100万人の中国人

進出競争で存在感が際立っているのが、中国です。アフリカには続々と中国人がやってきていて、南アフリカやアンゴラにはそれぞれ20万人以上暮らし、アフリカ全体では100万人を超えたと言われています。

日本人は1万人にも満たないということです。

また、中国は、政治家もアフリカの重要性を理解しています。習近平国家主席は、就任以来4回もアフリカを訪問しています。

ことし7月にも、西のセネガル、東のルワンダ、南の南アフリカ、島国のモーリシャスと、まんべんなく回りました。

経済でも、今や中国はアフリカの最大の貿易相手国です。

中国メディアも力を入れていて、ナイロビにある中国国営、中国中央テレビのアフリカ取材の拠点は100人体制だということです。

さらには、巨額の資金の拠出と巨大なインフラ整備でアフリカ各国に食い込み、その影響力を確固たるものにしようとしています。

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巨大インフラ建設の功罪・ケニア

その一方で、各地で、さまざまなあつれきや問題も出てきています。

ケニアの建国以来、最大規模の公共事業となった長距離鉄道。首都ナイロビと、インド洋に面した港湾都市モンバサとの全長470キロ余りを結ぶもので、去年5月に開通しました。

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総工費3200億円以上の9割を中国政府が融資したうえ、中国企業が建設しました。運営なども中国企業が中心になっていて、ケニアにおける中国の存在を象徴するビッグプロジェクトです。

しかし、ことし7月、地元の有力紙が掲載した写真が、国民に衝撃を与えました。写真には、線路に横たわる、列車にひかれて死んだメスのライオンの姿がありました。

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動物保護団体は、ほかにも野生動物がひかれて死んでいるのに対策が不十分だと批判しています。また、別の有力紙は、建設現場でケニア人の労働者が中国人の雇い主から人種差別的な扱いを受けていると告発し、ケニア政府が中国企業に説明を求める事態になっています。

こうした中で、ナイロビから内陸に向けて線路を延伸する2期工事が始まりましたが、あろうことか、新たな路線は、ナイロビに隣接する「ナイロビ国立公園」の中を通ることになったのです。

サイやライオンなど400種以上の貴重な野生動物の宝庫である国立公園の中で、ことし2月に工事が始まり、あっというまに100本を超えるコンクリートの柱が建てられました。

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ケニア政府と中国の建設会社は、国立公園内では、線路は高架の上に敷かれ、柱はキリンも下をくぐれるだけの高さがあるので、動物への影響はないとしています。

しかし、多くの国民が詭弁(きべん)だとして反発し、自然保護団体は中国大使館に対しても抗議デモを行っています。

しかも、ここに来て、中国の巨額の融資によって、ケニアの対外債務が増え続けている問題が注目を集めています。

すでに開通した1期目の路線は運営コストを回収できず、国庫から補填(ほてん)が行われているにもかかわわらず、2期目の延伸工事ではさらなる借金が必要になっています。

そのうえ、ケニアの対外債務は500億ドルを超え、20年前の10倍以上に膨れあがったと指摘されています。

市民にマイクを向けると、中国の進出について厳しい意見が飛び出し、当初は歓迎一辺倒だった人々の受け止めは、潮目が変わっているようです。

打撃受ける地元産業・セネガル

しかし、経済成長を進めるため、インフラの整備が急がれているアフリカ各国では、巨額の融資が必要なのも事実です。

アフリカ大陸の最も西に位置するセネガルでも、中国の存在が目につきます。首都ダカールでは、巨大なスポーツスタジアムに、博物館、北京にある人民大会堂をほうふつとさせるデザインの劇場と、中国が無償で建設した建物があちらこちらにあります。

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しかし、“贈り物”の背後には、より大きな利益を得ようという計算も見て取れます。

セネガルでも、基幹となる、ダカールと内陸を結ぶ115キロの高速道路の建設は中国企業が担っていました。総工費8億ドル、その85%は中国から年間2%の金利で借りたものです。

ここでも、中国が融資し、その金は中国企業に支払われ、そしてアフリカ側の政府が利息を含めて中国に返済するという仕組みで、インフラ建設が進められているのです。

この点について、セネガル政府の当局者はインタビューで、「高速道路は国の発展のためには欠かせない。中国の融資の決断のスピードは速く、助かっている」と話していました。

一方で、中国人の商人が、靴やかばんなどの大量生産した製品を中国から持ち込んで、セネガルで安い値段で売りさばいている結果、地元の零細な産業が打撃を受けています。

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ダカールで靴職人が集まる地区を訪れると、「何をしに来たんだ」とすごまれてしまいました。「中国人は、俺たちの靴のデザインをまねするために、写真を撮っていく」と怒っているのです。

私が、日本の記者だと説明しても、なかなか信用してもらえません。

こうした中、ようやく1人の職人が取材に応じてくれました。

ママス・チャムさんは、15歳から靴づくりを始めて20年。ひとつひとつ手作りして販売していますが、およそ5分の1の100円ほどの値段で売られる中国製の靴にはとても太刀打ちできないといいます。

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「何人もの仲間が立ちゆかなくなり、やめていった」と話しました。そして、遠慮がちながらも、はっきりと言いました。

「申し訳ないけど、中国の人たちには、頼むから国に帰ってほしいんだ」

「新たな植民地主義」との批判も

とどまるところを知らない中国の進出。

アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究グループでは、中国政府や政府系の金融機関が、2000年から2017年にかけて、アフリカ各国の政府や国営企業に対して、合わせて1360億ドルを融資したとする調査結果をまとめています。

こうした融資について、アメリカの当時のティラーソン国務長官は、ことし3月、透明性に欠け、いわば借金づけにしているなどと批判しました。

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また、ケニアの経済の専門家であるアリカン・サチュ氏は、インタビューで、鉄道のようなインフラ建設の重要性を指摘したうえで、「アフリカを『債務のわな』に落とし込めようとしていて、これでは、『新たな植民地主義』だ」と批判しました。

批判の中で開かれた北京のサミット

こうした中、今月3日から4日にかけて、中国・北京で、アフリカ53か国の首脳らが一堂に会するサミット、「中国アフリカ協力フォーラム」が開かれました。ことし、中国で開催される最大規模の国際会議です。

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サミットに先立って開かれた記者会見では、毎回、記者団から、アフリカの債務の問題についての質問が出て、中国政府の当局者は、「融資は経済成長に役立っていて、アフリカ各国の指導者から高く評価されている」と反論しました。

中には、声を張り上げて、感情的に反論する幹部もいたほどで、この問題を中国政府が強く意識していることがうかがえたということです。

サミットで習主席は、中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」にアフリカを取り込むことも念頭に、「アフリカとの間で運命共同体を築く」と述べて、融資などの名目で、今後3年間で総額600億ドルの資金を拠出すると表明しました。

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その一方で、重い債務を抱える国などに対して年末までに償還期限を迎える無利子の債務について、返済を免除する考えを示しました。

やはり、債務問題への批判を意識せざるを得なかったのではないかとみられています。

アフリカ側も黙ってはいませんでした。

習主席とともに共同議長を務めた南アフリカのラマポーザ大統領は、演説の中で、「アフリカが1次産品(天然資源など)を輸出し、加工品を輸入する貿易の構図は改める必要がある」として、技術やノウハウの移転を進めるよう求める場面もありました。

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アフリカは、強権的な指導者も目立ちますが、選挙を実施し、政権交代を経験している国も少なくなく、こうした国では、メディアも活発な政権批判をします。

英語かフランス語が公用語の国がほとんどです。そうした民主主義の土壌があるアフリカで、中国の発展モデルが浸透するのか、それとも、反発を生むのか、注目されます。

ほかの国はどうしている?

世界のほかの国はどうしているのでしょうか?

アメリカは、かつての奴隷制度という非人道的な負の歴史もあって、アフリカ系の国民が多く、伝統的にアフリカと深く関与してきました。前のオバマ大統領にしても、父親はケニア人です。

今のトランプ大統領が、アフリカを侮蔑する発言をしたと報じられるなど、アフリカへの無理解と無関心が表面化していますが、依然、アメリカはアフリカにとって重要な貿易相手国です。

イギリスやフランスといった、かつての宗主国は、以前ほどの勢いはありませんが、イギリスのメイ首相は、先月、アフリカを歴訪し、アフリカへの投資を増やす考えを示しました。

フランスにしても、イスラム過激派への軍事作戦のため、部隊を派遣するなど、アフリカを重視する姿勢にぶれはありません。

このほか、最近はインドやトルコも進出を強めています。

日本は?

日本では、アフリカの開発や支援について協議するTICAD=アフリカ開発会議の会合が来年8月に横浜市で開かれることになっています。

前回、2016年の会合で日本が表明した支援の規模はおよそ3兆円で、中国の半分以下です。

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アフリカで活動する日本の援助関係者に話を聞いても、中国のような巨大なインフラ整備は、もはやできないだろうと言います。

しかし、農村開発や人材育成など、アフリカの人々の成長につながる支援を強めることはできます。南アフリカの大学で政治学を教えるウィリアム・グメデ教授は、「日本は、民主的な社会のあり方を示すことで存在感を示せる」と話していました。

TICADの横浜会合まで1年を切りました。「アフリカは遠いから」と訳知り顔で無関心を決め込むのは簡単なことかもしれません。

しかし、「地上最後の巨大市場」は、そうした姿勢で食い込めるほど甘くはありません。

日本として、どのようにアフリカと関与するのか、何が日本の強みなのか、その一方で、何が弱点なのか、幅広い議論が急がれています。

別府 正一郎
ヨハネスブルク支局長
別府 正一郎