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悪役の“美学”!?

アニメや演劇などの物語に欠かせないものは何でしょうか。ヒーロー?もちろんそうですが“悪役”もその一つです。いま、全国のご当地ヒーローから引っ張りだこの悪役たち。彼らがこだわる“美学”に迫ります。(福岡放送局 廣瀬建人)

潜入取材!悪役専門の会社

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福岡市内にある雑居ビル。

看板に書かれた文字は「株式会社 悪の秘密結社」。

いったい何の会社なのか、私がまず通されたのは社長室でした。

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「俺が社長のヤバイ仮面だ!よく来たなNHK」

こう語るのは、メタリックなボディーと変化する目が特徴的なキャラクター、自称社長の“ヤバイ仮面”です。

実はこの会社、日本で唯一悪役だけで組織されたヒーローショーの制作会社、30体以上いるというキャラクターはすべて悪役です。

「生命保険を解約して、その資金で起業しました」

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満面の笑みで話すのは、2年前に会社を立ち上げた笹井浩生さん(28)。

なぜそこまで?と尋ねると…

「高校生の頃、ヒーローショーのスーツアクターのアルバイトをしていたんです。そのときに子どもたちの『頑張れー』という声を受けて感極まってマスクの中で号泣してしまったんですよ。ここまで子どもの喜びにつながる仕事はないなと」

悪役専門には訳が…

なぜ悪役専門なのか。

そこには近年増加するご当地ヒーローたちが抱える問題がありました。“悪役不足”です。

彼らの多くは戦う相手となる悪役がいなかったのです。

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「衣装代だけで百万円単位の費用がかかるので、どこもヒーローを作るだけで精いっぱいなんです。でも悪役がいればヒーローもより輝くことができる。だったら自分たちが悪役になろうと」(笹井さん)

地域を盛り上げたい!

“必要悪”となることで、全国のご当地ヒーローを助け、ひいては地域を盛り上げたい。

その思いどおりに、笹井さんの会社には依頼が次々に舞い込みました。

九州各県や、東京・大阪などの大都市で、これまでに400回もの公演を行ってきました。

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出演だけでなく、台本作成や舞台演出、アクションの振り付けなど、裏方仕事もすべて担います。

ヒーローショーのノウハウがないご当地ヒーローたちでも子どもたちにカッコいいと思ってもらえるために。

舞台を盛り上げる秘密は!

舞台を盛り上げる秘密を探るため、彼らの出演するヒーローショーに同行しました。

キーワードは“悪役の美学”。

会場は多くの親子連れでにぎわう福岡市のショッピングモール。

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この日の主役は、北九州市の観光大使も務める“キタキュウマン”です。

舞台が始まると、早速悪役の立ち姿に目がとまりました。

もしやこれが、うわさの!?

悪役の“美学”

<美学その1>
『ヒーローをより大きく見せるために、悪役は常に猫背の姿勢』

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さらに、ヒーローが自己紹介したり、必殺技を叫ぶときには…

<美学その2>
『ヒーローに視線を集めるため、ヒーローが名乗るときは微動だにしない』

そして、もっとも大切なのがヒーローを追い詰めたときです。

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<美学その3>
『応援を受けるのはヒーロー、しかし声援を出させるのは悪役』

「ヒーローが負けるかもしれない!子どもたちが心から応援することで、会場の盛り上がり具合が変わってくるんです」(笹井さん)

必死に声援を送る子どもたち、声援を受けたヒーローが逆転勝利し、舞台は大成功です。

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終了後、子どもたちに聞いてみると…。
「かっこよかったのは?」
「キタキュウマン!」

やっぱり悪役たちの名前が出ることはありませんでした。

それでも笹井さんは胸を張ります。

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「どんなヒーローも際立たせるというのが僕たち悪役の美学です。子どもたちに楽しんでもらえてよかったです」

取材を終えて

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リック・フレアー(右)対アントニオ猪木(1995年4月)

私はプロレス好きなのですが、今回の取材を通してリック・フレアーという名悪役レスラーのことを思い出しました。

彼は、「ほうき」相手でも試合ができると言われたほど、試合を組み立てるのが上手な選手でした。

実は私たちはヒーローを応援しているのではなく、悪役によって応援させられているのかもしれません。

みずからの夢に向かって笹井さんが1人で始めた「株式会社 悪の秘密結社」、この2年間でスタッフを含めて従業員も40人に増え、ビジネスとしても順調です。

笹井さんは、将来的に、ご当地ヒーローだけでなく、くまモンのようなご当地キャラクターとも戦い、地域を盛り上げていきたいと意気込んでいます。

廣瀬 建人
福岡放送局
廣瀬 建人