ニュース画像

WEB
特集
東京五輪“前哨戦”アジア大会 主役は自分だ

4年に一度のアジアのスポーツの総合大会、アジア大会がインドネシアのジャカルタで18日に開幕します。
「アジアだけの大会でしょ」
「オリンピックと比べたら競技レベルが低いんでしょ」
「見どころなんてあるの?」
いえいえ、違うんです。大会は2年後の夏のオリンピックの「前哨戦」ともとらえられ、多くのトップアスリートが出場。特に東京オリンピックを前にした今大会は多くの競技団体が「本腰」なんです。暑い現地からの熱い戦い。その主役は「オレだ、私だ」と臨む3人のトップ選手たちの決意は?取材を続けてきた記者たちによる報告です。(ネットワーク報道部記者 松井晋太郎/スポーツニュース部記者 安留秀幸 酒井紀之)

陸上 山縣亮太 26歳

13日に行われたアジア大会の結団式。選手団主将の大役を任された陸上の山縣選手は「競技より緊張する」という独特の雰囲気のなか壇上で決意表明を行いました。

「東京オリンピック・パラリンピックを前に、未来へつながるバトンを届けられるよう全力で戦い抜くことを誓います」

ニュース画像

男子100メートル代表の山縣選手。持ち味は抜群のスタートからの加速です。中盤から終盤にかけて体の軸がぶれずにスピードを維持したままフィニッシュします。

ニュース画像

アジア大会での金メダル候補、大会の主役になりうる1人です。

ニュース画像

最も意識する、あの選手

私(松井)が山縣選手に初めて会ったのは2年余り前の国内大会の記者会見。腰痛に悩まされた前年から復活をかけたシーズンの序盤でした。

優勝したあと口にしたのは、その場にはいなかったライバルへの思いでした。「これで桐生選手と戦える」

桐生祥秀選手。山縣選手が最も意識する選手です。

「誰が最初に9秒台を出すのか、そこに対するこだわりはものすごいものがある」(山縣選手)

“日本選手初の9秒台”という快挙は誰が果たすのか。期待と注目は当時、特にこの2人に集まっていました。

ニュース画像
去年1月放送

先を越された その先に

9秒台という悲願。先に達成したのは桐生選手でした。去年9月9日の9秒98。

ニュース画像

現場での取材を終えた私は、山縣選手の様子が気になっていました。それから3日後、練習場を訪ねました。「さぞかし落ち込んでいるのだろう」と思い込んでいた私は練習場に入って1分もしないうちに自分の考えの甘さを痛感しました。

いつもどおり1人、神経を研ぎ澄ませて集中力を高めたスタート。ビデオを見つめて走りを細かくチェック。私が何度も見てきた光景でした。「周りがどんな状況でも自分がやるべき事をやる」 常日頃、山縣選手が発することばのとおりでした。

練習後、山縣選手と話をすることができました。必死にみずからを奮い立たせているようにしているその姿が今も、忘れられません。

「悔しいです。ずっと目指していたので。ただ次は、日本新記録という目標ができました。見ていてください」

0秒01の世界で

山縣選手にとってアジア大会は東京オリンピックのファイナリスト(決勝進出者)を目指す道のりの中で、重要な位置にあります。

ニュース画像

あの日、私に誓ってくれた日本新記録への決意。桐生選手に先を越されても簡単にはくじけない、あきらめない、強い気持ち。山縣選手が勝負をかけるのは私たちがふだん意識することもない「0秒01」というわずか一瞬です。その一瞬にかけるアジア大会の男子100メートル、山縣選手の走りをまばたきせずに見届けてほしいと思います。

競泳 池江璃花子 18歳

競泳女子の若きエース、池江選手。

ニュース画像

私(安留)は許可を得て去年の秋から密着取材を進めています。「“日本のスプリンターが弱い”と思われるのは悔しい」 ふと漏らしたその短いことばは「根っからの負けず嫌い」という彼女の性格を表しているのはもちろんです。ただ、それ以上に彼女の「覚悟」の表れ、そして「成長の源」でもあると感じてきました。

あなたが引っ張りなさい

「池江、またも日本新記録!」 大会のたびにアナウンサーがそう実況で繰り返します。高校3年生の池江選手はバタフライと自由形の短距離種目を専門とする“スプリンター”。国内では今、圧倒的な強さです。

ニュース画像

冒頭のことばを発したきっかけとなる大会があります。おととしのリオデジャネイロオリンピックです。池江選手にとっては初のオリンピックでした。ただ、この大会、池江選手をはじめとする日本女子は短距離種目でメダルを獲得できませんでした。

ニュース画像

大会後には、ともに戦い妹のようにかわいがってくれた先輩たちが引退。かけられたひと言が胸に響きました。「日本のスプリントはあなたが引っ張っていくのよ」 涙を隠せなかった池江選手、当時16歳の彼女は覚悟を決めました。「自分が、やる」

“乙女心”を押し込めて

池江選手が取り組む短距離=スプリント種目で日本はこれまで体格やパワーで勝る海外勢の後じんを拝してきました。

「この服なら肩幅が狭く見えませんか」 広い肩幅を少しでも隠したい、買ったばかりの私服を私に見せてくれた時にのぞかせた「乙女心」です。

ニュース画像

その反面、池江選手を取材していて目をみはるのが、体格の変化です。去年秋からウエイトトレーニングに本格的に取り組み、胸の前でバーベルを上げ下げするベンチプレスの重量は当初の2倍に。

ニュース画像

さらに懸垂も重ね、力強く腕を「かく」ために重要な広背筋を鍛え上げています。「背中が大きくなったねとよく言われるんです…」 そう話す池江選手からは、アスリートとして着実に成長していることへの自信を感じました。

“大人”への階段

アジア大会を前に、池江選手は今、絶好調です。12日まで東京で行われたパンパシフィック選手権。もっとも得意とする100メートルバタフライでは主要な国際大会で自身初の金メダルを獲得。今シーズンの世界最速タイムをマークしました。

ニュース画像

「アジア大会ではたくさん金メダルを持って帰ってきたい」 東京オリンピックを20歳で迎える池江選手にとってアジア大会は“大人”のスイマーへの階段を上る、その過程にあります。

バドミントン 桃田賢斗 23歳

誰よりも早くコートに入り、少年のような笑顔でシャトルを追い続ける姿。ことし1月、日本代表に復帰したあとの桃田選手のそんな様子が、担当記者の私(酒井)には強く印象に残っています。

「“今の自分”のほうがバドミントンを楽しめていると思う。“今の自分”のほうが強いと思います」(桃田選手)

ニュース画像

自分を変えた

“今の自分”と“過去の自分”。桃田選手の中では全く違います。おととし明らかになった不祥事。処分を受けてから1年間、競技の第一線から遠ざかっていました。

この1年間が、桃田選手を変えました。バドミントンができる喜びを誰よりもかみしめて。目の前のシャトル、一つ一つに全力で向き合う楽しさを取り戻したのです。

ニュース画像

「(過去の自分は)勝つことが使命感になっていた。楽しさは一切なかったんです」

桃田フィーバーに!?

今回のアジア大会の舞台、インドネシアでバドミントンは「国技」と言われるほど人気があります。そのインドネシアでも桃田選手のプレーは多くの人の心をつかんでいます。

桃田選手のインスタグラムにはインドネシアのファンからのコメントが次々と寄せられています。
「ジャカルタで私たちは君を待っているよ」「アジア大会で会おうね」「インドネシアから愛を込めて」

ニュース画像

新たな武器も身につけた

競技を離れた1年間が変えたのはバドミントンへの向き合い方だけではありません。徹底したトレーニングで持久力が格段に上がりました。「世界トップレベル」と言われる技術に、体力という新たな「武器」が加わりました。

ニュース画像

今月の世界選手権。実は、開幕直前に腹筋を痛め、持ち味の強力なスマッシュが打てない状態で迎えていました。しかし、現地で私が見たのは「ディフェンス」を重視するこれまでにないプレースタイルでした。我慢と粘りで相手のショットを封じる、そこで生きたのが持久力でした。

ニュース画像

「攻撃ができない分、いろいろと考え視野を広く持てた」(桃田選手)

「日本男子初の世界選手権優勝」という快挙は、“変わった自分”を世界に示した瞬間でもありました。

ニュース画像

アジア大会は、どんな姿で

まもなく始まるアジア大会。世界一の称号を手にしても、手を緩めることはありません。

守備で手応えをつかんで迎える今回のテーマは「アタック」。積極的に攻撃を仕掛けるスタイルです。

「“決め球”の精度をどれだけあげられるかが大事になる」 こう話す桃田選手、新たな自分を模索し続ける飽くなき姿勢は「目の肥えた」インドネシアのファンたちもうならせるはず、そう信じています。

 松井 晋太郎
ネットワーク報道部記者
松井 晋太郎
安留 秀幸
スポーツニュース部記者
安留 秀幸
酒井 紀之
スポーツニュース部記者
酒井 紀之