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来るかも?極寒地で日本の木造住宅ブーム

ことし6月、サッカーワールドカップで盛り上がるロシアの都市で、日本人によるもう1つの熱い戦いが始まっていました。日本の伝統的な木造住宅を極寒の地・ロシアで売り込もうという企業の挑戦です。日本チームがキャンプを行っていたロシア中部タタルスタン共和国の中心都市、カザニを取材で訪れ、その「熱」を感じてきました。
(千葉放送局記者 山本未果)

木造住宅の展示場がオープン

ロシア・カザニの中心部から車でおよそ30分ほど走ると見えてくるのがぽつぽつと並ぶ戸建て住宅の街並みです。

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そこでことし6月、季節外れの雪が舞う中で行われたのが日本の木造住宅展示場のオープンを祝うセレモニーです。現地の政府関係者のほか、多くのメディアも取材に訪れました。

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ロシア中部タタルスタン共和国の中心都市、カザニはモスクワからおよそ800キロ。近年、IT産業の集積が進むなど、経済発展がめざましいロシア有数の都市です。

展示場を作ったのは東京の大手住宅メーカーです。精巧に加工された木材を組み合わせる日本伝統の工法で戸建て住宅を作り、現在、国内での分譲住宅の3割までシェアを伸ばしています。

しかし人口減少に伴い将来的な日本国内の新築着工総数は伸び悩みが懸念されています。そうした中で企業の新たな展開の1つとしてビジネスチャンスを見いだしたのがロシアでした。

人口のボリュームゾーンとして若い世代が多く、半径1000キロ以内にロシアの人口の半分が住んでいるカザニ。ここで戸建て住宅ブームを起こすことができれば、将来的に大きな需要も生まれるかもしれない。

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兼井副社長

進出した飯田グループホールディングスの兼井雅史副社長は「ロシアには一戸建ての家がほしいというニーズが限りなくある。潜在的な可能性が果てしなく広がっていると思います」と話していました。

若い家族の住まいが足りない!

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ロシアの都市部では、多くの人々がソビエト時代から続く集合住宅に暮らしています。

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ラレチンさん家族

ミハイル・ラレチンさん(31)も、去年子どもが産まれ、郊外へ引っ越ししたいと考えています。

今の住まいは50平米の1DKで、ロシアでは家族が暮らす一般的な広さです。

そんな中、カザニとその近郊ではいま、経済成長に伴い若い世代の間で広い戸建て住宅の需要が急速に高まっているのです。国も、若者世帯への住宅供給は喫緊の課題だとしていて、住宅購入の助成金を出すなど、支援策を次々と打ち出しています。

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タリヤ・ミヌリナ投資庁長官

ロシア・タタルスタン共和国のタリヤ・ミヌリナ投資庁長官は「国民が幸せな生活を送るために快適な住居が必要だと考えています」と行政として住宅施策の充実をはかっていく考えを強調していました。

木造住宅で大丈夫?

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こうした状況に商機を見いだし、カザニに完成した最初のモデルハウスにはオープンから3日間で120組もの見学者が訪れました。

私が取材で訪れている間にも「以前から前を通って気になっていたんだ」という男性などが訪れ、暮らしやすいよう考えられた部屋の配置や工夫された収納、全自動のトイレなど日本の家ならではの特徴を驚きながら見学する姿が見られました。

しかし、見学した多くの人から聞かれたのが木造に対する不安の声だったといいます。カザニの冬はマイナス30度にもなるため、「木造で寒さに耐えられるのか」という疑問です。

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現在、ロシアの都市の郊外にある戸建て住宅は多くがレンガ造りの家です。耐寒性を重視するロシアで住宅を求める人たちは「壁の厚さ」に非常にこだわります。50センチ以上もある、ぶ厚いレンガ、ブロックなどで断熱性を確保しているためです。

事業の担当者、大河龍也さんはモデルハウスを訪れた人に対して、コンクリートなどに比べて、木は熱を逃がしにくいことや断熱材を従来の木製パネルの間だけでなく、外壁側にもう1枚加えるなどして、高い断熱性を実現したことをアピールしていました。

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外壁側(右側)に断熱材を加えるなど高い断熱性を実現

説明を受けた男性は「木の家は暖かくて快適なことがわかった。日本の技術はすばらしいですね」と話していました。

木造住宅への懸念を払拭(ふっしょく)しても、販売するうえで、さらに高いハードルとなったのは、やはり「価格」でした。

最初に完成したモデルハウスは材料を日本から運び、日本人が建設したため、住宅の価格はおよそ1400万円。

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一方、ロシアで次々売り出されているレンガ造りの家は内装は施さずに引き渡しするのが一般的です。キッチン、バス、トイレ、階段などは、自分たち家族や、知り合いの業者などに別で依頼して、長い時間をかけて家を作り上げていきます。そのため価格は半分以下になります。

「完成住宅」という概念自体がロシア人にとっては新しく、その利点を知ってもらわないと価格の納得には結びつきません。

コンセプトは「MADE WITH JAPAN」

そこで価格をなんとか抑えるためにこだわったのが「MADE WITH JAPAN」というコンセプトです。

日本製の家をそのまま持ち込む「MADE IN JAPAN」ではなく、在来工法で完成度の高い「日本の住宅」のよさにはこだわりながら、資材はなるべく現地の物を使い、現地の人と協力して住宅の「地産地消」を実現しようという試みです。

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木材は現地に豊富にある森林で調達し、建材への加工も現地の企業で行うことにしました。

求めるのは高い加工の精度です。高い気密性を確保するために、建材の加工のずれは0.5ミリ以下の誤差におさめないといけません。

最初、協力してくれる木材加工会社を見つけて話をしても、その精密さの必要性がなかなか伝わらなかったといいます。

そこで日本の技術者が機械の改良やきめ細かな指導を重ね、日本と同等の木材加工ができるようになりました。

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木材加工会社オーナー セルゲイ・ママーエフさん

木材加工会社のオーナー、セルゲイ・ママーエフさんは「このような高度な要望は私たちを奮い立たせてくれますし、自社製品でも同じ高品質を達成できるようになりました」と話していました。

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そして、大工職人も現地で確保しようと、ロシア人大工の育成にも取り組みました。日本人の大工がロシアに出向き、日本式の技術を教え込んできました。こうした数々の努力が実り1000万円を切る販売価格の住宅が完成しました。

住宅販売 出だしは好調

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引っ越しを検討していたラレチンさん一家ですが、およそ140平米の広さや、木造ならではの断熱性が気に入り日本式の木造住宅を購入することを決めました。

戸建て住宅に住むことが夢だったというラレチンさんの妻は「生活動線もよく考えられていて、とても使いやすいわ」と話していました。これから友人を招いて食事会を開くなど新しい家での生活を満喫したいと考えているそうです。

このほかモデルハウスを訪れた人たちから問い合わせも相次いでいて、契約もまとまってきているということでした。

さらにメーカーでは、ロシアの人たちがより日本の住宅を購入しやすくしようと、現地の制度を変えることにも取り組んでいました。

それは、住宅ローンの金利の引き下げです。ロシアでは住宅ローンの金利が高く、一般の人にはまだまだ使いづらいのが現状です。

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そのため、メーカーでは大手銀行を訪れて、第三者の専門機関が住宅の性能評価をしている日本の仕組みも紹介しながら、住宅の質の高さを訴え、高い金利を下げるよう粘り強く交渉を続けました。

その結果、今後新たな住宅ローンの金融商品を作って行く方向で話が進みました。

メーカーでは今後、量産体制を作ってさらなる値下げを実現し、ロシアで木造住宅の市場を確立したいと考えています。

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事業責任者の大河龍也さんは「ロシアではこんなに木があるのに当たり前に木造住宅が建てられていない現状を変えていきたい。たくさん、いろんな方に木造住宅のよさ、すばらしさを理解してもらいたい」と話していました。

今後の夢は日本の美しい住宅が建ち並ぶニュータウンを作ることだといいます。

起こせるか 戸建てブーム

この会社がロシアに現地法人を立ち上げたのが平成28年11月。最初はオフィスの場所を探すところから始まりました。

気候や文化、生活様式をその国に合わせ、人々に受け入れられる住宅を提供するのはたやすいことではなく、多くの住宅メーカーにとっても海外への進出が必ずしも成功しているわけではないといいます。

すでに現地で人気の家を作っている企業を買収すれば事業的には成功といえるかもしれません。

そうした中であえてそうはせず、ロシアの人たちと協力しながら「日本の家」を売り込んでいる姿に、侍JAPANの心意気を見た気がしました。

カザニには市場拡大を狙うドイツなどヨーロッパメーカーも多く進出してきています。ロシアに戸建てブームを起こしたうえで、「家」が海外での新たな日本の看板商品になる日を期待したいと思いました。

山本 未果
千葉放送局記者
山本 未果