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ギャンブル依存症対策 世界では?3か国を徹底取材

カジノを含むIR・統合型リゾート施設の整備法が成立し、日本でも近い将来カジノができるかもしれません。懸念の1つがギャンブル依存症の増加。すでにカジノがあるシンガポール、韓国、カナダの3か国で依存症をめぐる問題の実態を取材しました。
(政治部記者 喜久山顕悟・シンガポール支局長 藤田享子・国際部記者 岡野杏有子)

シンガポール ある男性の栄光と転落

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シンガポールを代表するIR「マリーナ・ベイ・サンズ」。ここでは24時間営業のカジノが人気です。

日本のIR構想はシンガポールがモデルだと言われていることから、取材を始めましたが、わかってきたのはギャンブル依存症の問題の深刻さです。

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カジノにのめり込んで自己破産した60代の男性に話を聞くことができました。男性は30年以上にわたって旅行会社を経営する資産家でしたが、5年前、不動産投資に失敗して数億円にのぼる負債を抱えました。

途方にくれた男性が向かった先はカジノ。かつては興味もありませんでしたが、大金を簡単に稼げるかもと思い、ふと入ったのです。

そこで男性が目にしたのは、わずかな元手で大金をあてる人たちの姿。男性は「これなら自分も」と思い込み、カジノに通うようになりました。

勝った時の高揚感、そして、周囲から注目される喜び。男性はとりつかれるように朝から晩まで入り浸りました。つらい現状から目をそむけたかったのだといいます。

その結果、家族との溝は深まり、ついには賭け金を用意するために借金までしました。

それでも「カジノで勝てばすぐに返せる」と歯止めはかからず、8000万円もの借金を抱え、自己破産しました。

対策は「語り合い」

シンガポールでは、自己破産した人のカジノへの立ち入りは禁止。そこで男性は、今度は外国のカジノに行くことを考え始めたといいます。

しかし、それには歯止めをかけることができました。救いの手を差し伸べてくれたのは、債務整理の支援団体でした。

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支援団体の事務所

ここでは、互いに経験を語り合い、行動を見守り合うことで、仲間の視線を意識するようになり、カジノに行きたい気持ちを抑えられるようになったといいます。

韓国 カジノホームレス

一方の韓国。取材したのは東部のカンウォン道(江原道)。町は首都ソウルから車で3時間の山あいにあります。

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かつて炭鉱業で栄えた町の活性化策として2000年に開業したのがカジノでした。年間およそ300万人が訪れています。

ただ、実際に町を歩いてみると、観光客の姿はほとんどありません。

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代わりに目につくのは24時間営業の質屋。駅前の駐車場や道路沿いには高級車がずらり。カジノでカネを失った客が質入れした車です。

家族や友人から借金して地元に帰れなくなり、安いモーテルに長期滞在する人たちは「カジノホームレス」と呼ばれていました。

一見ではわからない依存症

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取材では、ギャンブル依存症の60代の女性に話を聞きました。女性は穏やかで明るく、一見すると依存症だとはわかりません。

女性が初めてカジノに行ったのはおよそ10年前。夫を亡くして時間を持て余していた時に、すぐにのめり込んだといいます。

女性は若い頃は花札をしていたといいますが、カジノでは、高額をかけるカードゲームのスリルにはまりました。

この女性も、かつてはビルを所有するなど、シンガポールの男性と同様、豊かな生活を送っていました。

しかし、カジノにはまった結果、親戚や友人からの借金は1000万円に膨れ上がりました。

対策は「ほかの楽しみ」

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センターの太鼓の演奏プログラム

韓国政府は5年前「賭博問題管理センター」を設立。ここでは、依存症の人を対象に、太鼓の演奏や園芸、体操といったプログラムを無料で提供しています。カジノ以外に集中できることを見つけてもらうのが狙いです。

しかし、センターの責任者は「取り組みには限度がある」とも話していました。

カナダ 予防の合言葉は「RG」

カナダでは依存症になることを事前に食い止める「予防」の取り組みを取材しました。

「世界のスタンダードはRG」

ある海外のカジノ事業者の幹部から聞いた言葉です。RGとは、Responsible Gambling、日本語にすれば「責任あるギャンブル」となります。

カジノ事業者がギャンブルのリスクについて情報を客に提供することで、依存症を予防しようという考え方です。

取り組みで依存症患者3割減の州も

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RGの取り組みを取材するために行ったのが、カナダの西部、ブリティッシュ・コロンビア州のカジノ施設です。

ドレスアップして入る場所というよりは日本のパチンコ店に近い印象でした。Tシャツ姿のお年寄りが目立ちました。

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職員(右)が客の行動を監視

今回の取材で最も驚いたのは、州内のすべてのカジノ施設に、州設立の依存症対策の団体の職員が常駐していること。職員はカジノの中を見回り、客の行動に常に目を光らせていました。

店員に怒鳴ったり、食事もとらずに熱中したりしている客がいたら、「危険だよ」などと声をかけるためです。

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また、スロットマシーンは画面に触れると「最後は機械が勝つ」という警告が表示されました。いろいろな形でRGを実践しているようです。

現地の関係者は「カナダでの対策が進んでいる背景には、隣国のアメリカとは異なり、もともとはギャンブルが刑法で全面禁止されていたことがある」などと話していました。

RGの取り組みの結果、この州では依存症患者が5年で3割減ったそうです。

日本への教訓は

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IRの必要性を主張する人たちは、開業すれば大きな経済効果がもたらされるとしています。しかし、カジノができれば、ちょっとしたきっかけでのめり込み、人生の階段を転げ落ちる人は必ず出てくるというのが取材した私たち3人の共通の実感です。

「ギャンブル依存症の完治は難しい」という専門家の話も聞きました。今後、日本でも依存症対策の議論が進むことになりそうですが、慎重で丁寧な議論が必要だと改めて感じました。

喜久山 顕悟
政治部記者
喜久山 顕悟
藤田 享子
シンガポール支局長
藤田 享子
岡野 杏有子
国際部記者
岡野 杏有子