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ゴビ砂漠 夢のエネルギーめぐる攻防

モンゴル南部のゴビ砂漠に、世界のエネルギー関係者が今、熱いまなざしを向けています。風力などの再生可能エネルギーの分野で、世界有数のポテンシャルを秘めているとみられるためです。この「夢のエネルギー」をめぐり、各国の攻防が始まろうとしています。(国際部記者 木村隆介)

偏西風の通り道で風力発電

モンゴルの首都ウランバートルから南へ車で6時間。果てしなく広がるゴビ砂漠の中に姿を現したのは、巨大な風車の一群です。

偏西風の通り道にあり、年間を通じて強い風が吹き抜けるゴビ砂漠。取材のために発電所の敷地に入ると、まっすぐに歩けないほどの強い風が吹いていました。

現在、合わせて25基の風車が、モンゴルの電力需要の5%にあたる50メガワットの電力を生み出しています。

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発電事業が本格的に動き出したのは2年前。大型トラックで、砂漠の中に部品を運び込み、高さ130メートルの巨大な風車が組み立てられました。

日本のソフトバンクの子会社と地元の企業が、広さ32万ヘクタール、東京都の1.5倍に及ぶ広大な土地の使用権を獲得。日本のJICAの融資も受けて、去年10月、運転開始にこぎ着けたのです。

このプロジェクト、実はまだ始まりにすぎません。企業グループは、風車を今後さらに増設し、将来的には2ギガワット、現在の40倍まで出力を伸ばしたい考えです。

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発電所運営会社の社長は「モンゴルのできるだけ多くの電力を再生可能エネルギーで賄うのが当面の目標だ」と話していました。

砂漠の太陽光で発電

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モンゴルが秘めた可能性は、風力発電だけではありません。去年11月に完成した、首都ウランバートル近郊のメガソーラー発電所は、現在、6500世帯分の電力を賄っています。モンゴルは、夏場の日照時間が長いうえに雨も少ないため、安定した発電が期待できます。

さらに、発電以外にこんな効用も。太陽光パネルの陰で野菜を育てているのです。強すぎる日ざしを遮ることで、さまざまな作物を栽培できるようになりました。

この発電所も、日本の国際協力銀行の融資を受け、群馬県の企業と地元企業が共同で設立しました。

世界有数のポテンシャル

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年間を通じて、強い風と日照が期待できるゴビ砂漠。国際的なエネルギー機関・IRENAの調査によりますと、ゴビ砂漠を中心とするモンゴルの一帯で、風力発電と太陽光発電の開発を最大限進めれば、中国や日本、インドなどを含めた、アジア全体の需要を大きく上回る電力を生み出せるといいます。

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この調査結果に、モンゴルでは大きな期待が寄せられています。モンゴルはこれまで、エネルギー源のほぼすべてを、国内で産出される豊富な石炭に頼ってきました。

しかし、人口が密集する首都ウランバートルでは、中国の北京を上回る、深刻な大気汚染に悩まされるようになりました。

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このためモンゴル政府は、膨大なポテンシャルを秘めた再生可能エネルギーの利用に力を入れるようになったのです。モンゴルのエネルギー相は、今後できるだけ火力発電をやめ、風力や太陽光発電を増やす方針だと強調していました。

ゴビ砂漠からアジアへ電力輸出

ゴビ砂漠での再生可能エネルギーの導入が進めば、モンゴルだけでは到底使い切れないほどの大量の電力が生み出されます。

このため余剰生産される電力を、大陸を横断する送電線を通じてアジアを中心とする各国に輸出する、壮大な構想も持ち上がっています。「スーパーグリッド」と呼ばれる電力ロスが極めて少ない最新型の送電線を使い、各国に電力を供給しようというものです。

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この構想には、モンゴルの隣国である中国やロシア、それに韓国が強い関心を寄せています。

去年11月、韓国で開かれた国際シンポジウム。出席した各国の政府や電力の関係者からは「北東アジアで、エネルギーをめぐる多国間の対話を進めるべき」とか、「モンゴル、中国、韓国、日本を送電網で結びたい」といった期待の声が相次ぎました。

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アジアで電力融通 出遅れる日本

一方で、この構想に消極的な姿勢を示しているのが日本政府です。海底ケーブルを使った海外からの電力の輸入は、技術やコストの面の課題があると指摘しています。また、中国やロシアなど、外国を経由して電力を調達することに対し、根強い慎重論もあります。

「習近平主席、プーチン大統領、ムン大統領がみな、計画に前向きなのに、唯一日本だけが否定的だ」。シンポジウムの出席者からは、日本の消極的な姿勢への失望の声も聞かれました。

日本の電力輸入は可能か?

すべての電力を国内で発電している日本。電力の“自給”を続けているのは、実は世界的に見ると異例です。

ヨーロッパやアメリカでは、電力を安く安定して供給するため、国境をまたぐ送電網を使って電力を輸出入するのは、すでに常識となっているからです。

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このほど日本のエネルギーの専門家や電力会社の幹部などで作る研究グループは、将来アジア各国の間で電力の輸出入が活発化した場合、日本も輸入することができるかについて、初めての調査結果をまとめました。

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それよりますと、ヨーロッパですでに長さ500キロ以上の海底ケーブルが実用化されているのに対し、ロシアのサハリンと北海道を結ぶには160キロ余り、韓国南部のプサン(釜山)と九州を結ぶには220キロ余りの海底ケーブルの設置で済み、技術的に実用化は可能だとしています。

また、建設費用は2000億円から6000億円にとどまり、コスト面でも送電網の使用料などで十分に回収できるとしています。

モンゴルの風力発電運営会社が私たちの取材に、「日本の電気料金の水準よりもはるかに安く、クリーンな電気を日本に届けることができる」と話していたように、ゴビ砂漠から日本への送電は“夢物語”ではなくなっています。

電力輸入 日本も検討すべき時代へ

一方、電力を外国に依存することへの慎重論についても、こんな意見があります。スーパーグリッドの構想を主導する、ソフトバンク・グループの幹部は「最初から電力の輸入を国の根幹を揺るがすような規模で行わないことがポイントだ」と指摘します。

例えば、まずは日本の電力の総需要のおよそ1%に当たる2ギガワットの輸入からスタートすれば、何かの理由で送電が止まったとしても、国のエネルギーの安全保障を根本から揺るがすような問題にはなりません。むしろ多様な電力の調達方法を確保することにつながり、リスクではなく、安全性が担保されるというのです。

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インターネットがグローバルにつながっている現代、通信だけでなく電力も、今後は世界でより長く太くつながっていくことになるのは間違いありません。

実際、中国と韓国はすでに電力の輸出入に向けて、両国間の海底ケーブルの敷設に向けた協議に入っています。これが実現すれば、世界の主要国の中で、国際送電網から孤立しているのは、日本だけということになります。

ゴビ砂漠を舞台にした「夢のエネルギー」開発と、その取り込みを狙う周辺の国々。アジアで進むエネルギー変革に向けた動きを、日本も注視すべき時が来ていると感じました。

木村 隆介
国際部記者
木村 隆介