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“高専”アジア進出!~人材獲得の新たな挑戦~

従業員を確保できずに経営破綻に追い込まれるなど、深刻な人手不足に陥っている日本の製造業界。高度経済成長期からものづくりを担う人材を輩出してきた「高等専門学校=高専」が、いまアジア各国に進出して優秀な若者を育て人材獲得につなげようという、新たな取り組みに乗り出しています。(国際部記者 木村隆介)

徹底した“実践主義”

「何かものをつくるように言うと、まず図書館に走るのが大学生、まず100円ショップに走るのが高専生です」

高専の関係者が取材の中で、大学と高専の違いをわかりやすく説明してくれました。中学卒業後の5年間、実践的な授業で、製造現場の即戦力となる若者たちを育成する高専。高度経済成長期の1962年、産業界の要望で国が設置し、現在は全国に57校あります。理論を重視する大学に対し、徹底した「実践主義」が特徴です。

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高専の実習風景

「まずつくってみて、学びながら修正していく」精神は、全国の高専がしのぎを削る「ロボコン」でも遺憾なく発揮されてきました。ITや先端技術を担う人材が常に不足する中、実践力を身につけた高専生は、これまで以上に企業から引っ張りだこの状態です。

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谷口 理事長

「卒業生には平均で20から30の求人が集まっています。卒業生が足りないのは、わかっているんです」(国立高専機構 谷口功理事長)

そこで高専が乗り出したのが、独自の教育システムの海外展開です。中学卒業後から5年一貫で実践力を鍛える教育手法は、実は世界的に見てもほかに例がありません。この教育システムをアジアの国々に持ち込み、現地で優秀な若者を育成することで、その国のものづくりを支援するとともに、日本の企業の人手不足の解消にも一役買ってもらおうというのです。

タイで始動“高専コース”

先月3日、東南アジアのタイの教育省で、初めて日本式の「高専コース」の入学式が行われました。開講したのは、「電子工学」と「メカトロニクス(機械電子工学)」の2つのコース。初年度にもかかわらず、入学競争率が6倍から9倍となり、激戦を勝ち抜いた男女40人の学生が入学しました。

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5000社を超える日系企業が進出する東南アジアの製造業のハブ、タイ。日系企業からは、早速高専コースに熱いまなざしが向けられています。

私たちが取材した日系の金属加工メーカーは、およそ1300人のタイ人従業員に対して、日本人は18人しかいません。現地に駐在する日本人の高専卒の主任は、現場の管理からシステム開発まで、幅広い業務を担っていました。日本人の駐在員を増やすには高い経費がかかるため、これ以上の人員増は期待できないとしていて、将来は地元の高専を卒業した優秀な人材を採用したいと考えています。

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「業務を管理する人材もタイ人が担うことができたら、かなりいいと思います」(日系企業の日本人社員)

モンゴル高専 第一期生への期待

一方で、すでに日本式の高専で学生が育っているのがモンゴルです。日本の高専に留学経験のあるモンゴルの教育関係者などが、4年前、首都ウランバートルに3つの高専を開校しました。現在は、およそ700人が学んでいます。

「Welcome to Mongol Kosen(ようこそモンゴル高専へ)」

モンゴル高専の校舎に入ると、こんな文字が目に入りました。校舎内にはいたるところに、日本語の日常表現を紹介する張り紙が見られ、廊下ですれ違う学生たちからは「こんにちは」と日本語であいさつされました。

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カリキュラムや教科書は日本のものが導入され、日本の高専さながらの授業や実習が行われていました。将来、日本に関連する仕事や研究につくことに備えて、実践的な日本語の授業も行われています。

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電気電子学科で学ぶ4年生のウランゼブさん。モンゴルで開かれた「ロボコン」の大会でプログラマーを務め、チームのエースとして、4位入賞を果たしました。エンジニアを夢みて、大学よりも実践的な勉強ができると、高専で学んできたといいます。

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右から2人目がウランゼブさん

「高専で勉強すれば日本人と同じ技術が身につくと思っています。高専は私たちの夢を実現してくれると信じています。もしチャンスがあるなら、日本でも働きたい」(ウランゼブさん)

日本企業が“青田買い”

先月中旬、首都ウランバートルでは来年高専を卒業する学生を対象に、日本企業による説明会も開かれました。

参加した多くは国内で人材の確保に苦戦している地方の中小企業で、この夏にインターンシップで日本を訪れてもらい、有望な学生は正式に採用することも視野に入れています。

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説明会に参加したウランゼブさん(右)

説明会に参加した東京の電機メーカーの社長は、早速ロボコンで優秀な成績を収めたウランゼブさんに目をつけました。面接では、研究の内容やロボコンでの実績、それに日本語の能力について質問しました。ウランゼブさんをはじめ、モンゴルの高専生たちの水準の高さや、日本で働くことへの熱意に、感心したといいます。電機メーカーの社長は、「すぐに対応できる、対応力があると感じました。一緒に働いてみたいという気持ちは当然あります」と話していました。

人材獲得にライバルも

こうした人材を獲得する取り組みは、実は人手不足に悩むほかの先進国も乗り出しています。モンゴルでは、高専の開校と同時期に、日本と並ぶものづくり大国のドイツが「ドイツ・モンゴル工科大学」を設立。本国ドイツにつながりのあるモンゴル人エンジニアの育成に取り組んでいます。

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ドイツ・モンゴル工科大学

ドイツとモンゴルは2011年に資源協定を結び、ドイツが高い水準の技術教育を提供する見返りに、モンゴルが資源を安定的に供給することを約束しました。大学の実験室には、ヨーロッパの大学に劣らない最先端の設備がそろっています。学生たちは、アメリカやヨーロッパから派遣される講師たちのもとで、英語によるハイレベルの教育を受けていました。国家ぐるみで人材育成に取り組むドイツなどのライバルを前に、日本もどうやって優秀な人材を引きつけていくのか、知恵を絞っていかなければならないと感じました。

海外高専生 受け入れに課題も

さらに、海外の高専で学んだ学生たちを日本に呼び寄せるための課題も残っています。海外の技術者が日本で働くには、大学卒と同等の教育を受けたことが条件とされています。受け入れの実績がない海外の高専生がどのような扱いになるのかは、まだ決まっていません。

国立高専機構はいま、法務省に対して海外の高専卒業生にもスムーズに就労ビザを出すよう、働きかけを行っています。日本式の教育を受けた海外の高専生たちにもビザが発給されず、日本で働くことができなければ、これまで積み重ねた努力が水の泡になってしまうからです。

国立高専機構は、モンゴル、タイに続いてベトナムでも、高専の設置を目指しています。50年以上にわたって日本のものづくりを支えてきた高専が乗り出した海外展開。人手不足に苦しむ製造業の現場を救う切り札とするには、国を挙げた取り組みが求められていると強く感じました。

木村 隆介
国際部記者
木村 隆介