ニュース画像

WEB
特集
倒壊のおそれ1700棟の衝撃
そのビルは大丈夫?

若者に人気の「渋谷109」。
仕事帰りのサラリーマンが集まる「ニュー新橋ビル」。
サブカルの聖地「中野ブロードウェイ」。

東京都内にあるこれらの建物、いずれも耐震性が足りず、震度6強以上の地震で建物が倒壊・崩壊する危険性が「高い」または「ある」と判定されました。

東京都が公表した結果で明らかになったこの事実。
記者が、建物の所有者などに耐震化が進まない理由を聞くと、意見の集約が難しいといった理由に加え、東京オリンピック・パラリンピックも関係していました。
(社会部記者 藤島新也)

耐震不足 全国1700棟

東京都は、不特定多数の人が集まる大規模な建物の耐震診断結果を平成30年3月末に公表しました。(NHKサイトを離れ、「東京都耐震ポータルサイト」へ

ニュース画像

都内で震度6強以上の地震で倒壊・崩壊の危険性が「高い」建物は15棟。渋谷109が入る「道玄坂共同ビル」に加え、紀伊國屋書店が入る新宿の「紀伊國屋ビルディング」など有名な建物のほか、目黒区の「東京共済病院2号館(西館)」といった病院も含まれます。

また、危険性が「ある」とされたのは「中野ブロードウェイ」といった商業施設に加え、東京の「北区役所第一庁舎」などの公共施設を含む27棟に上ります。

こうした状況は東京都内だけの話なのでしょうか?
全国的な状況が気になった私は国土交通省に取材しました。

すると、公表済みの46都道府県の自治体の資料をもとに集計した結果、対象の全国1万棟余りのうち、約1700棟が震度6強以上の地震で倒壊・崩壊の危険性が「高い」または「ある」と判定されたことがわかったのです。

この中には、すでに耐震改修を終えた建物もある一方、取材を進めると、いまだ工事計画すら立てられないケースもあることが見えてきました。

一刻も早く耐震化が求められる中、なぜ計画が進まないのでしょうか?
私は、危険性が高い・あるとされた都内42棟の建物の所有者などに直接理由を尋ねることにしました。

耐震化が進まぬ理由は

(1)関係者が多すぎて…

ニュース画像

東京・中野区、サブカルの聖地と呼ばれる「中野ブロードウェイ」。
中野ブロードウェイ商店街振興組合の理事長、青木武さんは、関係者が多く意見がまとめられないと言います。

このビルは1階~4階が商業スペース、5階~10階が住居スペースで、区分所有者は約520人にのぼります。
費用がかかるため工事に消極的な人や、海外に居て簡単に連絡が取れない人などもいるそうです。耐震工事を始めるのに欠かせない所有者の意見の集約が進まないのです。

同じ理由は「ニュー新橋ビル」も挙げていて、多くの施設が関係者の意見の集約に悩んでいる実態が見えてきました。

(2)業務と工事の両立困難

ふだんの業務を続けながら工事を行うのが難しいという回答も多くありました。

ニュース画像

「北区役所」は東側棟と中央棟の耐震性が不足していますが、通常の業務に使われています。区の担当者は「機能を別の場所に移すのも簡単でなく、業務を継続しながらどう対策するのかに頭を悩ませている」と話していました。

このほか「東京共済病院2号館(西館)」「東邦大学医療センター大森病院1号館」「日本大学医学部付属板橋病院」も、入院患者への対応や診療など病院の機能を維持しながら、どう対応するのかが大きな課題だと回答しました。

(3)オリンピックも遠因に?

思わぬ理由を挙げたところもありました。

「アブアブ赤札堂 上野店」は「2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた建設ラッシュによる建設資材の高騰や人手不足で、具体的な耐震改修工事の計画づくりが思うように進んでいない」と答えました。

また、新宿の「紀伊國屋ビルディング」は、建築家の前川國男氏の設計で都の歴史的建造物に選定されています。担当者は「歴史的な価値があるため、外観を損ねずに対策ができないか、具体的な方法を検討している」としています。

ニュース画像

耐震化 どう促進?

耐震化について、国はどのような取り組みを進めてきたのでしょうか。
今回、大規模な建物の耐震診断の結果が公表されたのは、平成25年の「耐震改修促進法」の改正に伴うものです。

ニュース画像
震災で崩壊したビル(1995年1月17日 神戸市兵庫区)

阪神・淡路大震災で昭和56年以前の古い耐震基準で建てられた建物の倒壊が相次いだことから、国は「耐震改修促進法」を作ったものの、思ったように耐震改修は進みませんでした。

このため法改正では、旧耐震基準で建てられた大規模建物のうち、不特定多数が利用する商業施設や病院、ホテルなどに耐震診断を義務づけ、自治体に公表するよう求めました。

あわせて耐震化促進の支援策も強化し、工事費用の補助率を引き上げたほか、所有者が多い建物では、過半数の同意(従来は4分の3)で工事ができるよう要件を緩和したのです。

しかし、今回の取材で見えてきたのは、ビルの所有者などが耐震工事の必要性を感じつつも、思うように着手できない実態でした。将来想定される首都直下地震や南海トラフ巨大地震への備えが求められる中、どうすれば耐震化は進むのでしょうか。

解決策のアドバイスを

耐震化の問題に詳しい名古屋大学の福和伸夫教授は「問題に直面しているオーナーには国や自治体が積極的にアドバイスすべき」と指摘します。

福和教授が例として挙げるのが、
(1)建物の区分所有者が多い場合に意見を調整する「コーディネーター役」の派遣。
(2)業務継続への影響を抑えるための技術的なアドバイスができる業者・専門家の紹介制度の創設。
(3)自治体による補助では費用が足りないケースで、銀行などから不足分を低利で融資を受けられるような仕組みづくりなどです。

ニュース画像

一方で福和教授は、建物を利用する私たちの側にもこう注文します。

「一般の方々に『耐震性』に興味を持ってほしい。多くの人が関心を持っているとなれば、建物の所有者は『直していかなくっちゃ』という気分になります。それが何より一番大事なんです」

公表の在り方に課題も…

私たちが情報を知りたくても、行政側の情報公開は決して積極的とは言えません。

全国の都道府県のうち、和歌山県では依然として未公表の状態が続いています。県の担当者は「公表の予定は決まっていない。耐震性が足りない建物を公表することで、事業者に影響が出ないか見極めている段階だ」と理由を説明します。

このほか、全国各地の公表結果を一覧できるサイトはないうえ、公表された建物の位置が、一般的な住居表示ではなく登記上の地番のケースもあります。
私も、建物の所有者に取材をする際に、登記簿を確認して建物を特定しなければならないケースがありました。公表されている資料だけでは、どの建物か簡単にわからない場合があるのです。

福和教授は「行政側は建物の所有者に遠慮があり、わかりやすい公表を妨げているのではないか。大規模建物は多くの人が利用しているので、わかりやすい公表のしかたをするのが行政の役割だ」と話します。

具体的には、公表結果を一覧できるウェブサイトを国が作ったうえで、該当する建物をプロットした地図を掲載し、耐震化の有無で色分けすることを提案しています。

まずリスクを知ること

法改正により耐震性が不足する建物が公表されるようになったことは、耐震改修の促進に一定の効果があると思います。

4月に入り、国土交通省は耐震診断が義務づけられた大規模建物の耐震化を2025年に終えることを目標にする方針も固めました。

しかし、あす大地震が起きるかもしれない中、耐震性が不足するビルを多くの人が利用する状態が続くことには、不安を感じずにいられません。

発生が懸念される首都直下地震や南海トラフ巨大地震に加え、2年後に迫る東京オリンピック・パラリンピックを考えると、一刻も早い対策が必要なことは明らかです。リスクに備えるためには「どこにどのようなリスクがあるのか」を知ることが第一です。

一般の私たちも耐震化に関心を持つことが必要ですし、行政にはそれに応えるわかりやすい情報提供を行う責任を果たしてもらいたいと思います。

藤島 新也
社会部記者
藤島 新也
平成21年入局
盛岡局をへて
現在は災害と国土交通省を担当