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「身元保証人」がいないと…入院・手術もできない?

あなたには、「身元保証人」になってくれる人がいますか?保証人といえば、就職や、賃貸住宅を借りる際、家族や親戚にお願いしたという人も多いと思いますが、病気になって治療を受けるときも「身元保証人」が欠かせないという事態が起きているんです。そして今や、命に関わる重大な場面で、身元保証サービスを行う団体が、家族に代わって大事な役割を担うようになっているのです。
(ネットワーク報道部記者 飯田耕太・社会番組部(ニュースウオッチ9)ディレクター 三隅吾朗)

頼める人がいない

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身元保証人をめぐって対応に苦慮したという男性を取材しました。福岡市に住む山之上巌さん(78)。ことし、がんの症状が悪化し、入院して治療を受けようとした際、病院から「身元保証人が必要だ」と言われました。

山之上さんはかつて家族3人で暮らしていましたが、息子の友一さんはのどのがんを患い、おととし、47歳の若さで亡くなりました。妻の幹子さん(74)は重い認知症で入院しています。

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ほかに身元保証人を頼める人はおらず、山之上さんは病院側に「保証人は立てられない」と答えましたが、「できるかぎり用意してほしい」と迫られました。

「『決まりだから保証人になってくれる人を探してほしい』の一点張り。頼める人が本当にいないんだといくら言っても分かってもらえず、どうしようもなかった」

当時の状況をこう振り返ります。

“団体”が代わりに

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このままでは治療が受けられない…。困った山之上さんが最後の頼みの綱としたのが、福岡市に本部を置き、身元保証サービスを行う一般社団法人「えにしの会」です。介護関係者からの紹介でその存在を知りました。

入院時の身元保証のほか、見守りや買い物などの生活支援、それに亡くなったあとの引き取りや葬儀などの対応を行っていて、山之上さんは、死後に備えた預託金を含むおよそ60万円を支払ってサービスを受けることになり、ようやく入院できました。

高まる「身元保証」のニーズ

この団体の前身は、高齢者を対象に訪問サービスなどを行ってきましたが、お年寄り本人や福祉関係者から「身元保証人がいなくて困っている」という相談が相次ぎ、6年前から「身元保証サービス」を始めました。

「えにしの会」福岡事業所の笠井久仁彦所長はこう話しています。

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「『保証人のことで困った』『身寄りがなくてどうすることもできない』…そんな声を聞き、少しずつ支援していく中で事業として定着しました。最近は介護や病院の関係者から紹介されることも多く、毎年、前の年の1.5倍ほどのペースで会員が増えています」

病院の多くが「身元保証人」求める

では、そもそも病院は入院患者を受け入れる際、身元保証人を求めるものなのでしょうか。去年、第二東京弁護士会が行った調査があります。東京都内の140余りの病院のうち実に92%が、入院の際、「身元保証人を求める」と答えていました。

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理由として挙げられたのは、「医療費の支払いの保証」や「亡くなったあとの対応」などでした。一方で少子高齢化が進み、1人暮らし世帯が増加。親戚や近隣との関係も希薄になり、身元保証サービスへの需要は伸びているのです。サービスを行う団体は、全国でおよそ100あるとみられています。

生活支援も

山之上さんは生活支援のサービスも受けています。取材した日は、団体の支援員の廣渡智実さんが入院先の病院を訪れ、必要な書類を取るため、車いすを押して山之上さんの自宅に向かいました。

このとき、家族の古いアルバムが目にとまった山之上さん。
「やっぱりつらいですね。妻が入院してからまだ1度も見舞いに行けていません。体の自由がきかなくなってきたからしょうがないですが、こんなにいろんなことが急に来るとは思わなかった…」
涙ながらに話す姿を、支援員の廣渡さんはそっと見守っていました。

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「手術が必要」そのとき…

その後、山之上さんは、さらに「身元保証人」が必要になる場面に直面しました。足の骨に転移が見つかって手術が必要だと診断され、今度は手術前の説明の際、保証人に同席してもらうよう求められたのです。

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支援員に来てもらい、医師からは手術の内容のほか、感染症のリスクなどについて説明がありました。支援員は、説明を聞いたことを示す書類に身元保証人として署名しました。さらに、全身麻酔を伴う手術当日も立ち会うよう求められました。

その理由について、福岡大学病院のソーシャルワーカー、田村賢二さんは次のように説明します。

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「容体が急変するおそれはゼロではない。本人の意識がなかったり正しく判断できなかったりする場合、患者を支援する人が誰もいないと治療方針が決められない。一緒に考えてくれる人がどうしても必要になる」

一方の身元保証を行う団体は、生死に関わる重大な場面に立ち会うことに、戸惑いを感じています。

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「えにしの会」では、本人の意向をできるだけ反映させようと、延命措置への考え方などについて、あらかじめ綿密に確認することにしています。しかし笠井所長は、対応はまだ不十分だと言います。
「延命措置をどれほど希望するかなどを尋ね、署名してもらっていますが、まだまだ万全ではないと思っています。本人の意向や尊厳をしっかりと守れるよう、設問を増やした新たな書式を作成しているところです」

手術当日の立ち会い

そして迎えた手術当日。支援員の廣渡さんが立ち会うことになり、手術室に入るのを見送ったあと、近くでじっと待機していました。

「『血圧が急に下がった』とか『輸血が必要になった』という連絡が突然来ることには少し心構えをしています。責任はすごく重いですよね。とにかく無事、終わってくれることを願っています」

約2時間後、手術は無事終わり、容体も安定しています。廣渡さんもほっとした表情でした。

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手術を受けることができた山之上さん。
「入院の手続きのときも、手術のときも、身近にいてもらえるので助かります。今後もよく付き合ってもらいたい」
身元保証人はなくてはならない存在になりつつあります。

課題も…

山之上さんは必要な治療を受けられましたが、日本医科大学大学院の横田裕行教授(救急医学)は現状の課題を指摘しています。

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「病院が治療内容を説明し、同意をもらう対象は原則として本人で、それができない場合に限り、家族などと話すことになる。いつも寄り添う家族は、おそらく本人の考えを代弁できると思うが、そうでない事業者が意向をどれだけ正確に代弁できるか、それを保証する仕組みが必要だ」

安心できる仕組みを

取材をして、入院にも手術にも「身元保証人」が必要で、第三者の団体が大きな役割を担っている実態に驚かされました。この身元保証サービス、現状では指導監督する行政機関が必ずしも明確でなく、契約や支援の内容は、事実上、事業者任せになっています。治療方針の考え方についても、本人の意向を詳しく確認しているとはかぎりません。

おととしには、身元保証を行うなどとして身寄りのない高齢者から合わせておよそ9億円を預かった公益財団法人「日本ライフ協会」が、預託金の一部を不正に流用し破綻するという問題も起きました。厚生労働省などは、サービスを行う団体の実態調査などに乗り出し、対策の検討を始めています。

これまで、家族や親戚に頼ってきた身元保証の制度は、社会の変化とともにその姿を変えなければならない時期に来ているように思います。

保証人が立てられないことを理由に必要な医療が受けられないという事態は、何としても避けなければなりません。病院側が求める理由や、団体が守るべきルールなどを精査し、誰もが安心して必要な医療を受けられる仕組みを社会全体で作っていくことが急務だと感じました。

飯田 耕太
ネットワーク報道部記者
飯田 耕太
三隅 吾朗
社会番組部(ニュースウオッチ9)ディレクター
三隅 吾朗