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特捜部 VS スーパーゼネコン ~“談合”の深層は~

リニア中央新幹線の建設工事をめぐる談合事件で東京地検特捜部は3月23日、大手ゼネコン4社と「大成建設」と「鹿島建設」の幹部を独占禁止法違反の罪で起訴した。しかし起訴された2人は一貫して談合を否定。事件は特捜部と日本を代表するスーパーゼネコン2社が真っ向から対立する構図になった。「今世紀最大の難工事」とも言われるリニア中央新幹線の建設工事。今回の捜査についてゼネコン関係者の間では「そもそもスーパーゼネコンにしかできない工事で談合と言えるのか」という懐疑的な見方もある。なぜ両者は対立したのか。3か月以上に及ぶ関係者への徹底取材で事件の深層に迫ったシリーズ第2弾。
(社会部司法クラブ 永田知之 橋本佳名美 田中常隆 守屋裕樹)

検察「公共性高く悪質」

「リニアは巨額の国費が投入された公共性の高い事業だ。“民間工事だから”という言い訳は許されない」 複数の検察幹部は今回の事件を摘発した意義についてこう語る。

リニア中央新幹線の総工費は9兆300億円に上るが、JR東海はその3分の1の3兆円を低金利で資金を貸し出す国の「財政投融資」で賄っている。民間工事とはいえ極めて公共性の高い国家的なプロジェクトだ。その工事で談合が行われ、受注額がつり上げられることになれば、そのツケは結局、私たち利用者に跳ね返ってくることになる。

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さらに特捜部は「脱談合」を宣言したはずの大手ゼネコンが再び談合に手を染めた疑いがあることも重く見ていた。

実はゼネコン関係者の間では以前から「東日本大震災を契機に談合が復活した」といううわさがささやかれていた。実際におととし2月には、震災後の高速道路の復旧工事をめぐり大手ゼネコン系列の道路舗装会社など10社が談合を繰り返していたとして独占禁止法違反の罪で起訴され有罪判決を受けた。

また去年9月にも「東京外かく環状道路」=「外環道」のトンネル拡幅工事で大手ゼネコン4社による談合の疑いが指摘された。

検察幹部は「大手ゼネコンが談合によって利益を確保しようとしていたのは間違いない」と立証に自信を見せる。

キーマンは大成元常務

特捜部はどのような構図を描いているのか。

事件のキーマンとみられているのが起訴された大成建設の大川孝元常務執行役員だ。

元常務はリニア関連の工事などを長年にわたって担当し、JR東海の当時のリニア担当の幹部(故人)と親密な関係を築いたとされる。

そしてその幹部らから価格などの入札の内部情報を聞き出し4社の談合で中心的な役割を果たしていたと特捜部は見ている。

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事件の舞台は品川・名古屋の新駅工事

事件の舞台となったのは地下数十メートルにリニア専用の駅を作る「品川駅」と「名古屋駅」の新設工事だ。

リニア関連の中でも難工事で発注額も大きいとされ、平成27年から28年にかけてJR東海があらかじめ業者を指名して施工方法や見積価格などを総合的に評価する「指名競争見積方式」で業者の選定が行われた。

各社の幹部らは入札前に都内の飲食店などで協議。そして品川駅の「北工区」を「清水建設」、「南工区」を「大林組」。名古屋駅の「中央工区」を「大成建設」、今後発注予定の工区を「鹿島建設」がそれぞれ受注することで合意していたと見られている。

JR予算の3倍を提示!

中でも特捜部が悪質なケースと見ているのが「大成建設」が受注を希望していた名古屋駅の当初の入札だ。

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「大成建設」はJR東海が想定していた予算のおよそ3倍、1800億円前後の見積価格を提示していたのだ。関係者によるとこの際、各社は大成建設が作成した工事の技術資料を共有。同じ入札に参加した「清水建設」と「鹿島建設」はこうした資料をもとにさらに高い見積価格をJR側に提示したほか、「大林組」は入札への参加を見送り、高値での受注に協力していた。

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「大成建設」がJRの予算の3倍もの価格で受注を狙ったのはなぜなのか。

この入札の前にJR東海から受注した名古屋駅前の高層ビル「JRゲートタワー」の工事で多額の損失を出していたのだ。

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このため特捜部は「大成建設」が名古屋駅の新設工事を高値で受注し損失を取り戻そうとしていたと見ている。

大成建設「談合成立していない」

談合を否定する「大成建設」は名古屋駅の新設工事について特捜部とは全く逆の主張をしている。

実はこの工事、JR東海が「大成建設が提示した価格は高すぎる」として入札を仕切り直していた。JR側はその後、工区を2つに分けて発注し直し、「大林組」とJR東海の子会社の共同企業体がそれぞれ受注する結果になったのだ。

大成建設の関係者は「談合が成立していたのであれば希望どおりに工事を受注できたはず。4社の協議が拘束力をもたないことの何よりの証拠だ」と語気を強める。

JRの意向も影響

さらに「大成建設」と「鹿島建設」が談合を否定する理由として挙げているのが、JR東海の意向だ。

「今世紀最大の難工事」とも言われるリニア工事。世界トップレベルの技術力を持つスーパーゼネコンの協力がなければ実現は難しいとされていた。複数の関係者によるとJR東海側は工事の入札を行う前の段階で特定の大手ゼネコンを工事ごとに選び適切な施工方法を検討するよう非公式な形で技術協力を求めていた。

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協力した会社は、数億円の費用を負担する場合もあるが、将来的な受注を見越してJR側の調査に協力する。こうした技術協力はゼネコン業界で“汗かきルール”と呼ばれ、発注元に協力した業者に優先的に工事が割りふられる仕組みになっているという。

山岳トンネルの技術力に定評がある「鹿島建設」は難工事とされる「南アルプストンネル」などで、名古屋駅前の高層ビルを手がけた「大成建設」はその地下に建設される名古屋駅の新設工事などでそれぞれJR側に協力したとされている。

鹿島建設の幹部は「リニアの難工事は資金力があり技術力も高いスーパーゼネコンにしかできない。どのゼネコンがどの工事の受注を目指しているのかはみんな分かっていたし談合などしなくても結果は同じだったはずだ」と特捜部の捜査に反論する。

大成建設の関係者も「受注業者は事実上、JR東海の意向で決められていた。JRが工事を割りふっているのだから業者間の談合など成立しない」と話した。

“汗かきルール”が談合の温床に

一方、特捜部はこの「汗かきルール」こそが談合のきっかけになったとみている。

各社は“汗かき”した工事を確実に受注できるようJR側に競争入札ではなく随意契約での発注を求めたがこれを拒否されたため、各社が不正な受注調整を始めた疑いがあるというのだ。

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入札制度や独占禁止法に詳しい上智大学法科大学院の楠 茂樹 教授は「12年前、大手ゼネコン各社が行った『談合決別宣言』は“汗かき”のような発注者への非公式な協力は今後、行わないという宣言でもあったはずだ。アメリカなどでは日本の“汗かき”のような技術協力自体も入札にかけ、対価を払う仕組みがある。今回の事件を教訓に国内でも入札の仕組み自体を変えていく必要がある」と指摘している。

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捜査手法めぐっても対立

特捜部とスーパーゼネコン2社の全面対決となった今回の事件。両者は捜査手法をめぐっても激しく対立した。

大成建設は元常務が逮捕された3月2日、以下のコメントを発表した。
「当局の取り調べに対し12月8日以降、25回、約3か月にわたり任意で応じているにも関わらず逮捕されたものであり、到底、承服いたしかねるものです」

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大成建設は特捜部の2度目の捜索を受けた2月にも弁護士が作成した役職員へのヒアリング記録が押収されたとして抗議書を提出。「弁護活動のために作成した資料を捜査当局が押収することは極めてアンフェアーだ」と主張していた。

起訴された鹿島建設の大澤一郎専任部長も20回以上にわたって特捜部の事情聴取を受けていた。大成建設の関係者は「否認している社の人間だけを逮捕するのは“容疑を認めろ”という脅しのようなものだ」と憤る。

なぜ特捜部は否認した2社の幹部のみ逮捕・起訴し、談合を認めた「大林組」と「清水建設」の当時の幹部の起訴を見送ったのか。

今回の事件では公正取引委員会に不正を自主申告すれば課徴金の減額などの見返りを受けられる「課徴金減免制度」に基づき「大林組」と「清水建設」が“自白”。その供述に基づき捜査が大きく進展したことも考慮され、起訴が見送られたと見られている。

ことし6月からは「課徴金減免制度」に似た「司法取引」が日本で初めて導入される。「司法取引」は容疑者や被告が他人の犯罪を明らかにするなど捜査に協力した場合、見返りに起訴を見送られたりする制度で“刑事司法の大変革“と言われる。

談合や脱税、汚職事件などで関与が疑われた当事者が見返りを求めて全面的に捜査に協力するのか、それとも徹底抗戦か、司法取引の導入で、難しい判断を迫られるケースは今後も増えるとみられている。

攻防の舞台は法廷へ

今回の事件を受けて東京都は「大成建設」と「鹿島建設」について都が発注する工事の入札に参加できなくなる指名停止処分にしたほか、国土交通省も指名停止を検討するなど影響が広がっている。

検察VSゼネコンの攻防の舞台は今後、法廷に移る。両者が裁判でどのような主張を展開するのか私たちは引き続き取材を続けていく。

永田知之
社会部司法クラブ
永田 知之
橋本佳名美
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田中常隆
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守屋裕樹
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