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不登校『隠れた病気』の治療で克服

『不登校の陰に隠れた病気がある』それを治療することで不登校を克服できる可能性が指摘されています。学校に行けなくなった子どもたちの中には、腹痛や吐き気などの体調不良を訴えて病院に行っても「思春期特有の悩み」や「ストレス」が原因とされるケースがほとんどです。病院を転々として悩む親子。そうした親子を救うことができないかと、埼玉県の病院で新たな取り組みが始まっています。「病気を確定診断してきちんと治療する」という取り組みです。(さいたま放送局記者 山下由起子)

増え続ける不登校の子ども

不登校の子どもが増加しています。文部科学省のデータによりますと平成28年度の小学校と中学校の不登校の子どもの数は全国で13万人余り。この5年間で2万人以上増えました。中学校では、各学年ごとに不登校の子どもがいても珍しくない状態です。

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SNSトラブルで体調崩した少年

中学3年生の男子生徒のA君。SNSでのトラブルがきっかけで学校の中の人間関係に悩み精神的に落ち込むようになりました。

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去年の春ごろからはおう吐や下痢などを繰り返し学校に通えなくなりました。おなかが痛い状態が続くため、ベッドから起き上がることも難しい状態でした。A君と母親は内科など複数の病院を受診しましたが、「思春期に見られる『心の問題』」などとされ、いずれも本格的な検査や治療は行われませんでした。

いっこうに症状がよくならない息子の様子に、母親は大きな不安を抱きました。
「日常生活が送れない状態になっているのに、学校に聞いても理由は分からず、病院では思春期はこういうものだと言われ、ネットの情報に頼るしかない状況でした。息子はこのまま外に出られない子になってしまうのではないかととても不安でした」

隠れていた病気

そうした中、A君親子が行き着いたのは、さいたま市中央区にある埼玉県立小児医療センターでした。

消化器・肝臓科の南部隆亮医師は消化器系の不調を訴える不登校の子どもを内視鏡を使って診察する取り組みを行っています。

南部医師はA君に内視鏡検査など消化器系の検査を徹底的に行いました。

その結果、A君は「機能性消化管障害」という病気だと診断されました。この病気は、ストレスが原因の一つとされ、南部医師は腹痛や吐き気を訴えて学校を休みがちになっている子どもたちの多くがこの病気の可能性があると見ています。

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「機能性消化管障害」に有効とされる治療を行い、さらに病院に併設されている特別支援学校の教員らの協力を得て精神面でもサポートしました。

すると、A君は症状が改善し、治療開始から4か月後には学校に通えるようになりました。

内視鏡を使って徹底的に検査

南部医師がこの取り組みを行うにはこれまでの体験があります。

消化器系の病気の子どもの中にはきちんと診断されずに見過ごされているケースが少なくないと感じているのです。

南部医師は2年ほど前から「病気を確定診断してきちんと治療をする」という取り組みを始めました。内視鏡検査は大人では、一般的に行われますが、子どもの場合は麻酔を使うなど体への負担があるとしてほとんど行われていないのが現状です。

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南部医師は、大人では鼻から入れる細い内視鏡を使うほか、子どもは動きが予想できないので麻酔科と連携して検査でも全身麻酔を使うことができる態勢をとるなどして症状を引き起こしている原因を内視鏡を使って徹底的に調べるのです。

「気持ちの問題」実は感染症

この取り組みの中で、深刻な事態も見えてきました。心の問題とは無関係な重篤な病気が見過ごされているケースがあったのです。

埼玉県内の高校1年生のB君は、中学1年のころからおう吐や腹痛に悩まされるようになりました。

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2年生の3学期には、遅刻や早退もなく登校できたのは10日ほど。複数の病院を受診しましたが、原因は分からず、「本人のやる気など気持ちの問題ではないか」などとされました。

症状は悪化する一方で体調を崩して1年半たったころ、南部医師にたどりつきました。

内視鏡による詳しい検査を受けると胃の粘膜に炎症があることが確認されました。

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「ピロリ菌」に感染し胃炎を起こしていたのです。除菌する治療を行うと症状はすぐに改善し、1か月後には学校生活に戻ることができました。

難病も見過ごされていた

さらに、難病が見つかったケースもありました。さいたま市の小学6年生のCさん。ひどい腹痛に悩まされ、学校に通ってもトイレや保健室に行く回数が増え、複数の病院を受診しました。

しかし、原因は特定できず、医師からは「おそらくストレスだろう」と言われました。Cさんに悩みやトラブルなどの心当たりはありません。

しかし、親子でストレスを減らす生活を心がけようと、通っていた学習塾を辞め、さらに母親は子どもとの時間をもっと作るために仕事も辞めました。症状がでたり、治まったりしながら5か月が経過。

ようやくたどりついた南部医師の元で詳しい検査を受けると腸の粘膜が赤くただれていることがわかりました。「潰瘍性大腸炎」と診断されました。難病に指定されている深刻な病気でした。

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Cさんは、「潰瘍性大腸炎」の症状を安定させる投薬治療を受け、いまでは普通に学校に通えるようになりました。

「確定診断」と「治療」が大切

埼玉県立小児医療センターのまとめによると、この2年間で胃腸に不調を訴えて学校を休みがちになっていた27人の子どもについて詳しい検査を行ったところ、▽「機能性消化管障害」が23人、▽潰瘍性大腸炎が2人、▽ピロリ菌の感染が2人と全員が病気と診断できることがわかりました。

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さらに、その病気にあった治療をし、必要な子どもには心療内科などと並行して対応したところ、▽機能性消化管障害と診断された子ども23人のうち16人、▽潰瘍性大腸炎の2人と▽ピロリ菌に感染した2人の合わせて20人が再び学校に通えるようになったということです。

数多くの不登校の子どもたちの治療を担当してきた埼玉県立小児医療センターの南部医師。子どもたちの不調をきちんと病気と捉えて診断することが、子どもたちの将来を救うことにつながるとの信念をもっています。

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南部医師の言葉です。
「腹痛を訴える子どもは軽いものも含めるとすごく多いのですが、あいまいなまま経過観察になっている子どもが実際にはとても多いと感じています。医者がきちんと診断を下し治療を施すことが、不登校から抜け出すきっかけになると2年間の取り組みを通して感じています」

不登校対策の一つとして期待も

病院の新たな取り組みについて不登校の問題に詳しい東京理科大学大学院の八並光俊教授はこうした取り組みは全国的にまだ少ないとしたうえで、新たな取り組みとして期待を寄せています。

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「不登校になる子どもはおなかの症状を訴えることが多いのですが、それが病気か病気じゃないかというのがはっきりするだけでも本人は助かると思います。医学的な診断を早い段階で受けるというのが不登校を深刻化させないための重要な要因です」

一度不登校に陥ってしまうと、親子で問題を抱えがちになる上に長期化して学校に戻るにも時間がかかると言われています。

子どもの大切な時間を失わせないためにも、教育現場と医療などが垣根を越えて連携して、子どもたちを支えていく仕組みづくりが必要だと感じました。

山下由起子
さいたま放送局記者
山下 由起子