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制服「女子も男子もスカートOK」

4月、千葉県柏市に新たに開校する中学校の制服が注目を集めています。高級ブランドが手がけたから?いいえ、違います。LGBT=性的マイノリティーへの関心の高まりを受けて、性別の差を極力なくすことを目指した制服なんです。その名も“ジェンダーレス制服”。ことし1月にNHKが放送したところ、大きな反響があり、市の教育委員会には、全国から問い合わせが来ているそうです。放送ではお伝えできなかった、この新しい制服導入の背景なども含めて報告します。(千葉放送局記者 田村銀河)

選べる制服

“ジェンダーレス制服”を導入するのは、来月、千葉県柏市に新たに開校する「柏市立柏の葉中学校」です。現在、市内に20ある市立中学校の制服は、すべて「男子=学ラン、女子=セーラー服」で統一されていますが、新しい中学校では、ブレザータイプを採用したうえで、性別に関係なく「選べる制服」となっています。

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選べるのは、襟元の「ネクタイかリボン」と、「スラックスかスカート」で、写真のとおり、合わせて4種類の着こなしが可能となっています。ブレザーやスラックスは、男子の体型と女子の体型にあわせた2つのタイプを用意していますが、こちらも選択は自由です。

制服に苦しめられた

柏市が“ジェンダーレス制服”に注目するきっかけとなったのは、かつて、制服で苦しんだ生徒の存在でした。心と体の性が一致しないトランスジェンダーの人たちにとって、心の性と異なる制服を着ることには強い抵抗感があります。

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柏市内に住む、現在24歳のKさん。戸籍上は女性ですが、心は男性です。
幼いころから、スカートをはくのが嫌いで、中学校に入って、制服のセーラー服で登校することに大きな違和感を感じたと言います。
Kさんは、「セーラー服を着ていると、なぜか周囲の目線も気になり始め、自分が着ぐるみを着ているような気がしました。『なんで自分は女の子の服を着ているんだ』と感じました」と話していました。
違和感はやがて嫌悪感に変わり、ついには、学校に行くこと自体に耐えられなくなって、毎朝、学校を出る前に家で暴れるようになりました。

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この写真は、Kさんの自宅のリビングテーブルに残っている傷です。当時のKさんは台所から包丁を持ち出して、このテーブルに何度も突き立てて、学校に行くことを拒んだということです。

病院にかかったところ、「性同一性障害」と診断を受け、うつ病を患っていました。母親が学校に相談した結果、Kさんは、ジャージでの通学が認められ、3年生になるときには学ランを着られるようになりました。

Kさんは、「学ランを初めて着たとき、『やっと普通の男子の仲間入りができる』とうれしくてたまらなかった。ずっと鏡の前で自分の姿を見ていました」と振り返りますが、周りの目はやはり気になったと言います。今回の“ジェンダーレス制服”のニュースの感想を尋ねると、「他人の目が気になってカミングアウトできない生徒も、ストレスを感じずに好きな制服を着られるのでいいと思う。自分の時にもあったらなと思う」と話していました。

児童や保護者らが発案

柏市の新しい中学校で“ジェンダーレス制服”の導入を決めたのは、入学予定の児童や保護者もメンバーに加わった検討委員会です。

近年、「私服にすれば問題は起きない」と制服そのものを廃止する学校も出ていますが、市の教育委員会の事前のアンケートでは、「制服は必要」と回答する保護者が9割近くに達しました。

これを受けて、検討委員会では、どのような制服が望ましいか話し合いを重ね、その結果、「LGBTの人たちに限らず、誰でも自由に選べる制服がいい」という保護者らの発案で、今回の決定に至ったということです。

開発進む

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制服メーカーの間では、LGBTへの関心が高まっていることを受けて、“ジェンダーレス制服”を模索する動きが徐々に広がっています。柏市の中学校の「選べる制服」を担当した岡山市の大手制服メーカーのトンボでは、2年ほど前から担当の社員をおいて、開発に力を入れています。

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写真は、「ジェンダーレス」を徹底して追求したジャケットです。
柏市の「選べる制服」では、男女の体型にあわせた2つのパターンのジャケットを用意しましたが、こちらは、1つのパターンのみで、体型の違いにかかわらず着られるよう、型の幅や胸のラインに工夫が施されています。「男らしさ」、「女らしさ」をなくしたデザインです。ボタンも工夫し、左右どちらを前にしてもとめられるようになっています。

写真は社員の女性とNHKの撮影スタッフの男性に試着してもらったものですが、どちらが着ても違和感がない仕上がりになっていました。

このメーカーでは、トランスジェンダーの人たちから実際に意見を聞くなどして、制服の開発を進めているということで、担当の奥野あゆみさんは、「選べるバリエーションが増えれば、よりいろんなかたが自由に制服を着られると思う。『着たい』と思ってもらえる制服を作ることで、制服で悩んでいる生徒たちに応えていきたい」と話していました。

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イギリスでは“ジェンダーニュートラル”

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学校のホームページより

海外にも同様の取り組みを進めているところがありました。
イギリス南東部のイーストサセックス州にある、日本の中学校にあたる学校では、「制服のスカートを禁止し、男女ともに同じスラックスを着ることになった」と公共放送BBCが報じていました。
この学校のトニー・スミス校長に取材したところ、「保護者や生徒の要望を受けて、去年9月から新入生は男女ともに同じ制服を着ています。私たちはこれを“ジェンダーニュートラル(性に対して中立)”と呼んでいます。制服はすべての生徒に対して平等であるべきで、多くの人が賛同しています」と話していました。
スミス校長によりますと、イギリスでは男女で制服を統一した学校は他にもあるということでした。

性の多様性学ぶきっかけに

NHKが、ことし1月に柏市の中学校の“ジェンダーレス制服”のニュースを放送してから2か月近くになります。柏市には、全国の教育委員会から問い合わせが来ているほか、市民からも、電話やメールで賛同の声が届いてるということです。

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教育現場のLGBTの問題に詳しい千葉大学の片岡洋子教授は、「学校現場では、制服だけでなく、体育の男女別の授業や男女別の名簿など、いまだに性による区別が多く残っている。まずは、制服問題への対応を皮切りに、現場の意識が変わっていくことを期待している。また、子どもたちが思春期の時期から性の多様性について学ぶことも大事で、ジェンダーレス制服は、そのきっかけになると思う」と話していました。

ジェンダーレス制服が、今後どのように広がっていくか取材を続けるとともに、こうした取り組みによって、人々の「性別」に対する価値観が変わっていくのかどうかにも注目したいと思います。

田村 銀河
千葉放送局記者
田村 銀河