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宇宙空間に出るってどんな感じ?

今月16日、国際宇宙ステーションに長期滞在している日本人宇宙飛行士の金井宣茂さんが宇宙服を着てステーションの外で作業する初の「船外活動」を行いました。任務は、地上から打ち上げられた宇宙輸送船のキャッチなどに欠かせないロボットアームの部品の交換作業などです。
宇宙遊泳=スペースウォークをしながら行う「船外活動」は宇宙飛行士なら誰もが経験したい花形の仕事ですが、宇宙に行った日本人宇宙飛行士12人のうち、「船外活動」を行ったのは土井隆雄さん、野口聡一さん、星出彰彦さん、そして金井さんの4人だけです。
宇宙空間は、地球周辺でも昼と夜の温度差が300度にもなる真空の世界。そこに出た時、人類はなにを感じるのでしょうか。宇宙遊泳を体験した土井隆雄さんと野口聡一さんがインタビューで語ってくれました。(科学文化部記者 古市悠)

衛星を素手でつかんだ男

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元宇宙飛行士の土井隆雄さんは、スペースシャトル「コロンビア」号に搭乗し、1997年11月25日、日本人初の船外活動を行いました。その任務は、軌道投入に失敗した人工衛星「スパルタン」を手でつかんで回収するというものです。

スペースシャトルのハッチを開け、初めて宇宙空間に出た瞬間、感じたのは太陽そのものの光だと言います。

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「ハッチから顔を出したときにまずはすごくまぶしいと感じました。太陽がほぼ真上にあったんですね。ハッチから出た瞬間は、真っ白ですごく明るい世界に飛び出したと思いました。地球の太陽は大気層で光りが結構、吸収されているんです。そのため夕焼けは赤く見えたりしますが、宇宙空間では大気がないために、本当に太陽が発した光、そのものを見ているんです。それも純粋に白。実際に太陽自体は見ることができないんですけど白い光があふれていました」(土井さん)

地球は上にある?それとも下?実は人によって違います

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スペースシャトルや国際宇宙ステーションは、地球の上空400キロの軌道をまわります。船外活動中、地球は自分の上にあるのか、それとも下なのか、人によって感じ方が違うと言います。

「宇宙空間は重力がないので、私たちの重力を感じる器官、耳石が働いていません。このため上下の感覚がなくなるんですが、人間というのは、宇宙空間を自分で作ってしまうんですね。それでどっちが上になるのか下になるのかっていうのはその人によるんです。僕の場合は地球が上に感じました」(土井さん)

人工衛星がスペースシャトルに近づくまで、土井さんはおよそ1時間、なにもすることがなく、ただ宇宙を眺めていたと言います。
宇宙空間に出て見た地球は、スペースシャトルの中から見ていた地球とは全く違うものでした。

「目の前にパノラマで、地球全体が広がって見えて、スペースシャトルの中から見るよりはるかに広い視野。視野全部が地球になります。いちばん、近いのは大草原に横たわって空を見渡している感覚。青空が見えていて、雲が見えるということは誰でも経験したことがあるんですが、空全体が地球になっている状況ですね。地球全体がゆっくりゆっくり回転している。雲は流れて、海や陸が目の前を回っていく。それが、大空全体に広がって見える。地球自体はすばらしい星だなという感動しか覚えなかった」(土井さん)

8時間ジョギングを続けたような疲労感

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そして人工衛星「スパルタン」を手でつかむことに成功した土井さん。船外活動は、体力的にも精神的にも追い詰められる作業だと言います。

「宇宙服は真空に耐えるため分厚くできているし、関節が自由に動かない。いわゆる手元にあるので、手を伸ばせばよいのかというとそうはならないんです。関節自体の動きは限られているんです。最初の30分くらいで握力は半分以下、8時間の船外活動が終わった時にはおそらく、握力がほとんどゼロになっていると思います。本当に早歩きよりもちょっと早いくらいのジョギングを8時間、続けたような肉体的にはそれくらいの疲れになります」(土井さん)

8時間近くに及んだ土井さんの船外活動。食事やトイレはどうしていたのでしょうか。

「水はヘルメットのあごの下に水パックがついて自由に飲めるんですね。食事はとりませんでした。トイレはおむつをしているんですが、8時間ジョギングしっぱなし。早足でかけている状況なので、水分は汗として出てしまうのでトイレに行きたくなったことはなかったですね」(土井さん)

昼は地球の暖かさを感じ、夜は寂しさを感じる

スペースシャトルや国際宇宙ステーションは90分で地球を1周するため、昼と夜が入れかわるのは45分ごと。土井さんは、特に昼から夜に変わる瞬間が印象的だと言います。

「地球を見ていると、地球の表面を夕焼けが『がーっ』と動いているわけですよ。そうすると明るい部分がどんどん消えていく。非常に心細い感じを受けました。怖さというよりは寂しさですね。地球が見えている時は自分が生まれた惑星で非常に暖かさを感じますが、それが消えた瞬間に孤独を感じました」(土井さん)

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経験がない暗い世界

夜になると、明かりはヘルメットの両脇についたライトしかありません。経験したことがない暗い世界だったと言います。

「夜、宇宙空間を見た時の暗黒、黒さは自分の人生のなかでそれだけ黒い世界を見たことがなかったと思います。その時、思ったのが自分は宇宙の永遠を見つめている。『ここは自分と宇宙しかない』それを感じたんです。その時の感じは永遠を見ているんだと思ったのですが、船外活動が終わって帰ってきて思い返すと自分はとんでもないところにいたという感じが強くしました。いわゆる宇宙に対する畏怖の念とか、とんでもない世界を自分は見つめていたなという思いが強いですね」(土井さん)

一般の人の船外活動はまだまだ難しい

土井さんの話を聞くと、宇宙遊泳をしてみたいと思う人もいるのではないでしょうか。しかし、一般の人が安全に宇宙遊泳できるようになるには、まだまだ時間が必要だと言います。

「(一般の人が)今の宇宙服で船外活動を行うのは非常に難しいと思います。宇宙服自体、非常に重いし、深さおよそ10メートルのプールで繰り返し訓練しないといけない。また宇宙服、宇宙環境自体やはり安全ではない。そういったところで、いわゆる宇宙服をぱっと着てすぐ外に出て、宇宙を楽しむことができるのはすばらしいんですけど、そのためには、非常に長い訓練期間が必要になります。将来的にはもっと多くの人たちが、宇宙空間で仕事をするとか、宇宙ホテルに滞在するとか、当然、船外活動ということも宇宙でのアトラクションの大きな目的になるでしょうけどまずそのためにはもっと安全な宇宙服が開発される必要があると思います」(土井さん)

野口さん3度目に向けて訓練中

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宇宙飛行士の野口聡一さんは、2005年にスペースシャトル「ディスカバリー」号に乗り込み土井さんに続く日本人2人目の船外活動を行いました。3回の船外活動で宇宙空間にいた時間は延べ20時間以上。

野口さんは、来年(2019年)に再び国際宇宙ステーションに長期滞在する予定で、現在、アメリカで訓練を行っています。取材の前日も、「船外活動」の訓練を6時間行っていました。

「さんずの川」を渡る気分

宇宙飛行士は「エアロック」と呼ばれる専用の小部屋で生命維持装置などが取り付けられた宇宙服を着ます。そして、エアロックの空気を徐々に抜いて、気圧ゼロの真空状態にしたうえで宇宙に出て行きます。

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エアロックで準備する野口さん 2005年8月

野口さんは、エアロックから宇宙空間に出て行く時の気分を「さんずの川」を渡る気分と表現しました。

「宇宙服を着て『エアロック』の中がどんどん減圧して行って、その過程で自分はこれからある意味『死の世界』、非常に生きることの厳しさがひしひしと伝わるところに行くという、その過程がまさに減圧してハッチを開けて、外に出るという所にあるので、生きる世界と死の世界の間の『さんずの川』という言い方で表現しています」(野口さん)

地球に落ちていく感覚

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エアロックのハッチが開くと、眼下に広がるのは地球。地上までは400キロもの距離がありますが自分と地球との間を遮るものは何もありません。このまま地上まで、一気に落ちていくのではないかという錯覚にとらわれショックを受けると言います。

「まさに遮るものがない、目の前にあるのはまさに地球そのものだけのところにいきなり出ます。びっくりしないように準備するんですけど、それでも実際の宇宙空間に出るときのショックは大きいです。自分と地球の間に何もないところという感覚にそれはもう生物の本能として、手を離したら落ちちゃうなという瞬間はある」(野口さん)

一度に宇宙に出られるのは2人だけ

JAXAによりますと今のルールでは、一度の船外活動で宇宙ステーションの外に出られるのは原則、2人だけです。 問題が起きてもすぐ3人目が助けに行くことにはなりません。

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「宇宙空間に出るときは3人目が出ることが、今のルールではできないので、2人ですべてを解決しないといけません。宇宙空間に出ている時、宇宙ごみ『デブリ』が当たって、その宇宙服に穴が開くと空気が漏れてしまいます。その時に当たり場所によっては重傷になるわけで、その時に動けなくなった人を残された1人が救い出せるか。動けなくなった人を抱えて、エアロックの入り口まで入り、ハッチを閉めて、仲間と合流するところまでをできるのか。1人残された時、相手の命がかかった状態で帰ってこなきゃいけない。そこが非常に、メンタル的にも体力的にも大変かなと思います」(野口さん)

劇的に変わる昼と夜

土井さんと同じように野口さんも昼から夜への変化に驚いたと言います。

「昼の世界から夜の世界への変化は劇的に起きます。さっきまで明るかったのがあっという間に見えなくなって慌ててライトをつける。船外活動中は『ここに橋桁が見えている』『ここにロシアの宇宙船が見えている』と、そういう感覚でやはり周りを見ながら動いているんですけど、そうやって目で見て場所を把握していると、まさに『カチッ』と電気を消された感じになって。訓練としてはやっているんですけど、実際に外に出てみると、わかっていても、夜の世界になると一瞬どこにいたんだっけということはあるんです」(野口さん)

船外活動は月・火星へのステップ

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船外活動を行う金井さん

日本人が船外活動を行ったのは金井さんが4人目です。
野口さんは、船外活動の経験を積むことは、将来、人類が月や火星に進出する上で最初のステップだと言います。

「宇宙ステーションでの完全な無重力での船外活動というのは、ある意味で(重力がある)月面、火星よりも難しいんじゃないかなと感じることもあります。宇宙服を着ていないとすぐに死んでしまう文字どおりの極限環境で、2人一組でさまざまな大変な作業を経験していくっていうことは、これは間違いなく、将来人類が地球以外のところに行くときの最初のステップとしては、非常に大事な経験値になっていると。宇宙遊泳の姿が将来の宇宙探査、ほかの惑星の移住につながっていくと思います」(野口さん)

今回、6時間におよんだ金井さんの船外活動。日本時間の午後9時すぎから翌日午前3時まで続いたその作業を私もずっと見守っていました。国際宇宙ステーションは、近づいてみると建設中のタワーマンションのようにさまざまな部品がむき出しになった巨大建造物です。

最初は無重力状態と分厚い宇宙服で動きがぎこちなかった金井さんですが、宇宙空間を次第に自由に移動できるようになり予定よりも大幅に早く作業を終わらせることができました。その姿は、人類が、月そして火星へと歩み出ていく日は意外に近いのではないかと感じさせるものでした。

古市 悠
科学文化部記者
古市 悠