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「運転やめて」の前に 親の運転、大丈夫?

「車の鍵を隠した」「廃車にした」。運転をやめさせようと、高齢者に対して家族がとった行動の一端です。いつ事故を起こすか分からないと悩みに悩んだ末の行動。この問題をネットニュースアップで取り上げたところ、大きな反響がありました。高齢ドライバーが引き起こす悲惨な事故をどうしたら減らせるのか、またどうしたら安全に運転を続けてもらえるのか、大きな課題となっています。
(ネットワーク報道部記者 郡義之)

実力行使で「運転止めた」

高齢ドライバーの事故は相次いで起きています。

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1月30日には岡山県赤磐市で車5台が絡む事故が起き、乗用車に追突された軽トラックが児童の列に突っ込み、女子児童が死亡。乗用車を運転していた70歳の女が逮捕されました。

1月9日には前橋市で85歳の男が運転する乗用車が女子高校生2人をはね、1人が死亡しました。

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男はそれまで何度も事故を起こしていたため、家族が事故当日の朝も運転しないよう止めたものの、それを聞かずに車で出かけたということです。

ネットには「どうしたら運転をやめてもらえるか悩んでいる」と高齢者を抱える家族の書き込みが相次いでいます。

一方で、運転を実力行使でやめさせた家族の声も見られます。

「ハンドルロックをかけた」「車の鍵を隠した」「廃車にした」

中にはヒューズを抜いて、エンジンがかからないようにした人もいました。

実は記者の祖父も生前、家族が事故を起こすことを心配して、無断で車を売ったという話を最近聞きました。ただネット上では「こうした強硬手段は逆効果では?」という意見も見られます。

「運転やめろ」は禁句と専門家

こうした行為を専門家はどう見ているのでしょうか。精神医学が専門で、高齢ドライバー対策の研究を続けている大阪大学大学院医学系研究科の池田学教授は「明らかに事故を起こしそうだと予見できる場合は、体を張ってでも運転を止める必要がある」と時には実力行使もやむをえないと話しています。

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ただ本人が納得したうえで運転をやめてもらうことがいちばん大事だとしていて、その場合「いきなり運転をやめろと言っても反発するだけなので、早いうちから時間をかけて、説得することが大事だ」と池田教授は話しています。

高齢者の運転を、親子のコミュニケーションの視点から考えている元自動車雑誌編集長で、NPO法人「高齢者安全運転支援研究会」の岩越和紀理事長は、家族の高齢者に対する接し方に疑問を投げかけています。「お盆と正月にしか実家に来ない子どもが、いきなり運転やめろと言ってきても、親は反発するだけ。だから『運転やめろ』は禁句」と言います。

岩越さんは親の立場に立って運転を考えることが必要だと強調します。

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「鍵を隠したり、バッテリーを外したりの実力行使はやむをえないにしてもさみしい話。親に注意するにしても、運転の何が危ないのか、客観的なデータを示す必要がある」と話しています。

客観的なデータで

高齢者の運転を危険かどうかを見極めるための方法はないのか。

東京・江東区のカー用品店では、高齢ドライバー対策の商品の売り場面積を去年より増やしています。 商品の中ではドライブレコーダーが注目されているということで、店によると高齢の親の運転を心配して、買い求める人も少なくないそうです。

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さらに最近、レンタカー会社や保険会社が取り組んでいるのが「運転の見守りサービス」です。
このうち東京に本社がある大手レンタカー会社が始めたサービスは、速度などを読み取る専用機器を車に取り付けて、急ブレーキや急加速などをすると、パソコンの地図上に、いつどこで行ったかが表示されるというものです。

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スマートフォンに情報を随時送ることも可能で、高齢の親の運転を見守るために家族が利用するケースもあるということです。利用料は1か月およそ3000円ですが、この会社によると、申し込みは徐々に増えているということです。

親の異変がわかった

このシステムで親の異変に気づき、事故の危険性を未然に防いだ人もいます。

茨城県に住む50代の女性は、東京に住む80代の父親の運転を把握したいと、このシステムを利用しています。

女性はこれまでも高齢を理由に運転をやめるよう、父親を説得してきましたが、衝突が絶えませんでした。女性は「父は自分の運転に自信があり、子どもに運転をやめろと言われたくないと思っている。言えば言うほどかたくなになる」と話します。

そんな中で父の車に設置したシステム。利用から数か月後の去年秋、女性は父の運転のある「異変」に気づきました。女性のスマートフォンに立て続けに急加速や急ブレーキをしたという情報が送られてきたのです。

その数、1か月間で45回。女性はその原因を父親が腰を痛め、座席の背中部分に置き始めたクッションにあると考えました。座る位置が前にずれたため、ブレーキやアクセルを踏む足に力が入ったのではと思ったのです。

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女性は実家を訪ね、父親に具合を聞きながら座席位置を調節。その結果、急加速や急ブレーキは大幅に減り、最近は父親もより注意して運転するようになったということです。

女性は「ぐっと父親との距離が近くなった。会話して相手のことを考え始めるというのは、大事なことだと感じます」と話していました。

○○のひと言で…

仮に高齢者に運転をやめるよう説得をするにしても、大事なのは誰が諭すかです。

先ほど登場した池田教授も実は80代の父親の運転をやめさせるため、非常に苦労した1人です。

池田教授の場合は免許返納について話し合ってきましたが、父親はなかなか耳を貸そうとはしなかったと言います。
そこで大きな役割を果たしたのが「孫」です。池田教授は免許を取得したばかりの自分の息子に(父親にとっては孫)、父親に車を譲るよう持ちかけさせたところ、素直に応じて、免許も返納したということです。

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池田教授は「本人のプライドを傷つけない方法を家族みんなで考えることも大切だ」とアドバイスしています。

実際、同世代のアドバイスなら聞いてもらいやすいだろうと前橋市では「免許返納アドバイザー」という制度を導入して、免許返納後の生活の様子や返納後に受けられるバスやタクシーの優遇制度などを、ほかの高齢者に伝える取り組みを行っていて、返納にもつながっているということです。

運転できる社会を

運転するのが高齢者というだけで「危険」「不安」というイメージが持たれやすくなっているのも事実です。

ただ車が無ければどこに行くこともできないという地方も多い中、免許返納だけが最終手段なのでしょうか。

NPO法人「高齢者安全運転支援研究会」の岩越和紀理事長は「事故を起こした人を高齢者の代表格と見てほしくない」と話します。「何が何でも免許を取り上げるのではなく、医療機関との連携も深め、安心して自信を持って運転できる仕組みを作るべきだ」と岩越さんは言います。

また各地で今、高齢者向けの運転相談窓口も整備されてきています。家族だけで抱え込まずに、こうした制度を活用しながら、早めの対策をしていくことが解決への足がかりになるのではないでしょうか。

郡義之
ネットワーク報道部記者
郡義之