ニュース画像

WEB
特集
名護市長選 結果を予感させたのは?

激戦の末、自民・公明両党などの支援を受けた、新人の渡具知武豊氏が初当選した名護市長選挙から1週間。渡具知氏は、13日、選挙後初めて東京を訪れ、安倍総理大臣や与党の幹部へのあいさつ回りを行うなど、「渡具知市政」はスタートを切りました。
「大接戦」あるいは「現職・稲嶺進氏先行」と言われた中、大差をつけて当選した渡具知氏。実は、取材の中で、結果を予感させるいくつかのことに気づいていました。
(報道局選挙プロジェクト記者 久保隆、沖縄放送局記者 堀之内公彦 谷川浩太朗)

「移設容認」とは答えにくい?!

1月28日に始まった選挙戦。どんな選挙でも、勝敗を見通す上で重要なのが出口調査ですが、アメリカ軍普天間基地返還合意後の名護市長選挙の出口調査は独特です。
「基地移設容認派に投票した」と答える人の割合が、実際よりも少なく出る傾向があります。

期日前投票の投票所は1か所。出口調査を行う報道各社も殺到し、有権者の方々には、いわば「衆人環視」のもとで回答をお願いすることになります。

ニュース画像

しかし、半数以上は回答を拒否。市長選挙のたびに、市が二分されてきたこともあってか、「移設容認」と答えにくい雰囲気もあるのかもしれません。

激戦が予想された今回は、調査を拒んだ人たちが、どちらに投票したのかをつかむ必要がありました。選挙戦序盤、待ち構える調査員の脇を足早に通り過ぎた人たちに声をかけました。答えてくれた人全員が、新人の渡具知氏に投票したと話しました。別の日も、答えた8割~9割が同じ回答。

このため、「稲嶺氏先行」という見方が少なくない中で、「渡具知氏にも勝機あり」という、ふわっとした感触を持ちながら、取材を進めました。

6割が期日前投票に

過去10年間の主な選挙の名護市の投票率と期日前投票者数です。

ニュース画像

投票率をみると、国政選挙は50%台、知事選挙は60%台、黄色の枠で囲った市長選挙は70%台と、生活に身近な選挙ほど投票率が高くなっています。

しかも、市長選挙はほかの選挙に比べて″投票期間″が短いにもかかわらず、期日前投票者が多くなっていて、今回は2万人を超え、過去最多となりました。
投票した人のなんと6割近くが期日前投票をした計算になり、投票結果に大きな影響を与えたことがわかります。この期日前投票は、どんな内容だったのでしょうか。

誰が期日前投票に行ったの?

期日前投票の出口調査は、情勢取材の一環として実施しています。投票日当日の出口調査とは異なり、統計学的な手法が取りにくいため必ずしも統計的な正しさは担保できませんが、今回は、4年前の前回同様、期日前投票の全日程、ほぼ全時間で出口調査を実施しました。いずれの調査も、2500人前後の有権者から回答を得ました。

まず、どんな人たちが期日前投票に行ったのか、前回との比較で見てみます。最も多いのは、いずれもいわゆる「無党派層」。次いで自民党の支持層でした。

ニュース画像
(回答者のみ)

ここで目を引くのは、公明党の支持層です。
およそ2倍に増えています。日々の調査を見ても、選挙戦序盤から公明党を支持する人たちの割合は、ほかの選挙に比べて多くなっていました。渡具知氏推薦の効果がうかがえます。

肝心の投票先は?

では、肝心の投票先はどうだったのか。各党の支持層の投票先を前回と比較してみます。

ニュース画像
(回答者のみ)

今回は、渡具知氏を自民党、公明党、日本維新の会が推薦、稲嶺氏を民進党、共産党、自由党、社民党、沖縄社会大衆党が推薦し、立憲民主党が支持しました。前回は、稲嶺氏を共産党、生活の党、社民党が、末松文信氏を自民党が推薦しました。

各党の支持層が、それぞれ支援した候補に投票している様子がわかりますが、大きく異なるのは、公明党支持層と「無党派層」(図の「特になし」)です。

公明党は、前回は「自主投票」で、投票先が2分していますが、今回は、渡具知氏にほぼ一本化されています。公明党・創価学会のお家芸とも言える「組織投票」が、渡具知氏に有利に働いたのは言うまでもありません。

「無党派層」を前回と比べても、稲嶺氏が取りこぼしている様子が見て取れます。

公明・学会の『本気』

名護市内に2000~2500票の基礎票を持つとされる公明党。
今回は、自民党が推す渡具知氏を去年12月に推薦。公明党沖縄県本部は、辺野古への移設には反対ですが、今回は、名護市を覆う「閉塞感」を速やかに打破するため、市政を刷新する必要があるなどの理由からでした。

「一つの市長選挙でこれほど力を入れてやったことはかつてない」と話すのは公明党幹部。推薦を決めた公明党は、名護市長選挙で初めて事務所を構え、国会議員や県議会議員らが、連日、渡具知氏とともに街頭演説を行うなど、『本気』で運動を展開。「期日前投票」も含めて、必ず投票に行くように促しました。

また、支持母体の創価学会も、原田稔会長が早々に沖縄入りしたほか、幹部も泊まり込んでげきを飛ばすなど、異例の対応をとり、会員も電話で徹底して支持を呼びかけました。

公明党幹部は、「最後は、こちらが支持を呼びかけると、『自民党さんからもお願いされてますから』と返ってきた。勢いを感じた」と振り返りました。

ニュース画像
公明党の遠山衆議院議員と渡具知氏

年代別の違いも明確に

渡具知氏と稲嶺氏の勢いの差は、年代別の投票行動にも現れていました。前回は、あらゆる年代で、稲嶺氏が相手候補を上回っていました。

しかし、今回は、「50代」を境に、若い世代は渡具知氏、上の世代は稲嶺氏といった具合に、年代によって傾向が明確に分かれていました。

これは、自民党が進めた運動とも符号します。自民党は、今回いわゆる「現役世代」をターゲットに支持を呼びかける作戦を徹底。青年会などの地域のネットワークや、通っていた中学や高校のつながりなどを足がかりに、有権者に接触し、渡具知氏の訴えの浸透を図ったのです。

たとえば、渡具知氏を支援する企業で働く30代くらいまでの従業員に、中学・高校時代の先輩・後輩などに声をかけて集まってもらい、ミニ集会を開くといった具合です。

極めつけは、知名度抜群の小泉進次郎筆頭副幹事長の2度の応援でした。

ニュース画像

“基地問題もあるけれど”

期日前投票の出口調査では、辺野古への移設をめぐっても聞きました。

ニュース画像

選択肢を「賛成」「やや賛成」「やや反対」「反対」の4つにわけたところ、「反対」と「やや反対」を合わせた回答が、「賛成」と「やや賛成」を合わせた回答を上回りました。

このうち、投票先の結果をみると、「賛成」「やや賛成」と答えた人は、ほとんどが渡具知氏に、逆に「反対」と答えた人は、ほとんどが稲嶺氏に投票していることがうかがえました。しかし、これは想定の範囲内。

一方で、「やや反対」と答えた人は、8割近くが、渡具知氏に投票。稲嶺氏に投票したのは、およそ2割にとどまっていることがわかりました。

有権者の1人は、「基地問題もあるけど、自分たちの生活も大事だから。渡具知さんの政策なら今よりも景気も良くなるんじゃないかなあ」と話してくれました。こうした意識が、渡具知さんに味方したのかもしれません。

「渡具知氏にも勝機あり」というふわっとした感触が、十分な手応えとなって、2月4日の投票日を迎えました。当日の出口調査でも、こうした有権者の動向は、期日前投票の調査とほぼ同じ傾向を示していました。

『複雑な民意』

今回の名護市長選挙の結果は、普天間基地の移設計画だけでなく、秋に予定される沖縄県知事選挙に影響を与えることは間違いなさそうです。

また、どんな選挙でも、いろいろな思惑や見方が錯そうしますが、今回の選挙で与党内には「安倍総理大臣が憲法改正を目指す中で、改憲に慎重な公明党としては、選挙で結果を出すことで、自民党に『貸し』を作る狙いもあったのではないか」という見方も出ています。

そんな中、渡具知氏は「今回の選挙で、移設容認の民意が示されたとは思っていない。私の支持者にも移設反対の人はいるので、複雑な民意だ」と話しています。

今回、取材を通じて多くの有権者の声を聞きました。前回は稲嶺氏に投票したという人は「工事が進む状況を見て、基地反対を諦めた」と、目に涙を浮かべながら話しました。
「住宅密集地にあるよりは、辺野古のほうがまだましだ」という人もいました。
また、「一時的であれ、生活がよくなると期待して、渡具知氏に投票した」という人は「将来後悔するかもしれないけど」と続けました。

移設問題に対する名護市民の感情は複雑です。投票にあたって、苦悩を重ねた有権者がいることを忘れてはならないと感じています。

久保隆
報道局選挙プロジェクト記者
久保隆
堀之内公彦
沖縄放送局記者
堀之内公彦
谷川浩太朗
沖縄放送局記者
谷川浩太朗