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“ガテン系女子” 働き続けるには?

“ガテン系女子”“けんせつ小町”“ドボジョ”。建設・土木の現場で働く女性を称する言葉を目にする機会が増えてきています。女性の活躍の場が広がる一方、“男社会”のイメージが強い職場で、長く働き続けるには何が必要なのか。同じようにハードな現場に臨むこともある、女性カメラマンの私が本音に迫りました。
(映像取材部カメラマン 小出悠希乃)

ヘルメットにも工夫 “女性目線”の現場グッズ

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私が出会った現場監督の女性がかぶっていたヘルメット。あごひもが透明になっていました。日焼けをしてもあとが目立たないようにする“女性目線”で作られたグッズとのこと。

このほかにも、女性の小さな手でも握りやすく力が入りやすいよう持ち手部分に樹脂を使ったモンキーレンチ。留め具の素材をアルミに変えて軽くした安全帯もあります。

女性の体にあった作業服も広まり、もう男性用のSサイズを着なくてもすむようになりました。

現場から女子会へ キッズルームも

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女性に配慮した職場づくりも進んでいます。現場に設けられた女性専用のトイレ。専用のシャワールームが作られたところもあり、仕事のあと汗を流して、そのまま女子会に参加できると好評とのこと。

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さらに、仕事と子育ての両立に向けた取り組みも。東京・新宿区の建設現場の一角に設けられたプレハブ。大手ゼネコンが設けた「キッズルーム」です。遊具や絵本が並び、現場で働く人が、子どもを遊ばせておくことができます。保育士はいませんが、すぐ横に警備員室があって安心だということです。会社としては、こうした取り組みをアピールして女性の採用につなげるのがねらいです。

女性採用増も将来の不安は

女性を1人でも多く呼び込みたい建設・土木の現場。背景には、担い手の減少や、東京オリンピック・パラリンピックに向けた建設工事などによる深刻な人手不足があります。

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業界団体を中心に女性を受け入れる体制を整えてきた結果、大手の建設会社の技術職に占める女性の割合は、おととし4.2%と、統計をとり始めた24年前の2倍以上になりました。(国土交通省「建設業活動実態調査」)

しかし、まだ女性の採用実績が少ないため、ロールモデルとなる先輩の女性が周りにいないケースも多いのが現状です。このため、将来のキャリアはどうなるのか、特に、結婚・出産を経ても働き続けられるのか、不安を抱える若手は少なくありません。

将来の結婚・出産…若手の悩み

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その1人、大手ゼネコンで働く下田未来さん(27)。幼い頃、自宅の新築工事で職人たちを間近で見て「かっこいい!」と思い、建設の道に進みました。入社5年目で、おととしから現場監督を任されています。

朝6時前に起床、夜12時に就寝することもあるという体力勝負の毎日。日曜日はマッサージで体を癒やすのが習慣になりました。それでも「自分の想いが形になって目に見える」仕事に大きなやりがいを感じています。

その下田さん、ことしは同じ建設業の男性との結婚という節目を迎える予定です。将来の出産についても考えるようになりました。しかし、周りには育児をしながら現場復帰した先輩の女性がいません。長い工期の途中で妊娠したら現場はどうなるのか、子育てと両立しながら仕事を続けられるのか。仕事への責任感があるからこその悩みを抱えています。

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“ハードよりハート”

そんな若手の悩みに答えられる人はいないか。結婚・出産を経験、いまも現場で活躍する“パイオニア”に話を聞くことができました。

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大手ゼネコンで現場監督を務める張若平さん(32)。入社3年目で男の子を出産しました。当時、張さんの会社では、現場職の女性の出産は前例がなかったことから、「クビを覚悟」で妊娠を報告しました。その時、上司から、ひと言目に返ってきたのは「おめでとう!」の言葉。さらに、シングルマザーになる張さんを「現場に復帰して一人前の技術者になってくれ。君ができたら誰もができるという証明になる」と励ましてくれました。妊娠中も、体の負担が少なく、かつ、やりがいのある難しい業務を任せてくれたといいます。

張さんは「上司にとってはコピー係にするほうが楽なはず。教育という手間をかけて成長させようとしてくれた思いがうれしかった」と当時を振り返ります。

期待に応えようと、育休中も勉強を重ねて一級建築士の資格を取得。その後、フルタイムで職場復帰を果たしました。復帰後、子どもが急な病気になった時、職人から「早く帰ってあげなよ」と声をかけてもらうこともありました。自分も子どもも仲間に育ててもらったという思いから家族のように感じていると言い、こう語りました。

「自分を支えてくれているのは、設備などのハード面よりも仲間のハートです」

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出産経験いかし現場改革

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みずからの結婚・出産の経験を生かし、現場の改革に挑戦している人もいます。大手マンション建設会社で働く早坂淳子さん(53)。入社したのは、男女雇用機会均等法の施行から3年後の平成元年。女性第2期生としての採用でした。

「男性と同じ総合職で現場で働けること」を魅力に感じました。入社4年目で結婚し、よくとし女の子を出産。2か月間の産後休暇のあと職場に復帰し、その後、初の女性所長になりました。

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早坂さんが行った改革、その1つが「朝礼」の見直しです。朝8時の朝礼はその日の作業工程の確認や安全管理のため参加が欠かせないとされてきました。しかし、これが子育て中の女性にとって、職場復帰する際の壁になっていると自分の経験から強く感じていました。

そこで、3年前、子育て中の人に限って、朝礼の参加を免除する制度を試行。それぞれの出勤時間に合わせて必要な内容を伝達、引き継ぎする仕組みを作りました。

さらに、現場監督を全員女性にする、「現場から直接デートにいこう」を合言葉にパウダールームを設置して、プライベートの時間を大切にしてもらう、といった取り組みも始めています。

いま、早坂さんが、出産した当時の自分にかけてあげたい言葉は、「そんなに焦らなくても大丈夫だよ」。長い目で見れば1~2年の休みは“ブランク”ではなく、子育てを通じて社会とつながり、より視野が広がる“メリット”のほうが大きいと確信しているからです。

早坂さんの背中を見続けてきた長女は、いま大学院で建築を研究し、建設業への就職をめざしています。

“ガテン系女子” 輝き続けるには

今回取材した方々のような“スーパーウーマン”が誕生した背景には彼女たち自身の意志と努力、そしてそれを励まし支えた上司や職場の仲間の存在がありました。しかし、現場で話を聞くと、こうしたロールモデルがいるのはまだ、大手ゼネコンなどのほんの一部に限られるという声も聞こえてきます。ただ、建設・土木の業界で“前例”を打ち破る職場の改革が進むことは、同じように“男社会”のイメージの強いほかの業界でも、女性の活躍の場が広がるヒントになるのではないかと感じました。

小出悠希乃
映像取材部カメラマン
小出悠希乃