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90年ぶり新種!
カメラが捉えた大型霊長類

大型の霊長類としてはおよそ90年ぶりの新種、タパヌリオランウータンがインドネシアで確認されました。NHKは、メディアがカメラに捉えたことがないとされるこのオランウータンの撮影に成功しました。
ヒトに近い大型の霊長類「類人猿」は、ゴリラやチンパンジーなどこれまで6種類でしたが、今回の発見で7種類となります。しかし、その推定生息数はおよそ800頭。ヒトの進化を探る上でも貴重な存在である新種のオランウータンはすでに、絶滅の危機にひんしています。
(ジャカルタ支局長 川島進之介)

謎に包まれた新種

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タパヌリオランウータンは、インドネシア西部のスマトラ島北部の熱帯雨林に生息しています。スマトラ島の面積は約47万4000平方キロメートル。豊かな熱帯雨林が広がる島としても知られ、スマトラオランウータンというオランウータンも生息しています。

もともとスマトラ島に生息していたタパヌリオランウータン。地元の人たちから「新種ではないか」という指摘が出てきたのは10年ほど前のことでした。スマトラオランウータンに外見上、よく似ていたこともあってか、それまでは、新種だと考える人はいなかったようです。

アメリカやスイス、それにインドネシアなどの専門家でつくるグループが研究を進めた結果、去年11月、遺伝子の解析や骨格などから新種と断定したと発表しました。300万年ほど前、スマトラオランウータンと分かれて独自の進化をとげたと考えられています。

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黄色がかった茶色の体毛に覆われ、頭蓋骨が少し小さいのが特徴です。また、スマトラオランウータンがほとんど食べない松ぼっくりや木の実も食べるといいます。しかし、詳しい生態についてはまだ多くが謎に包まれています。

これまでにメディアがこのオランウータンを撮影したことがないと聞き、私はその生の姿を取材しようと、ジャカルタ支局の西山健一カメラマンとともに現地に向かいました。

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密林の中 出血しながら捜索

取材に協力してくれたのは、野生動物の保護活動をしているレンジャーや、NGOのメンバーです。私たちは朝から、木の上にあるオランウータンの巣を手がかりに、密林の中をくまなく探しましたが、見つけることはできませんでした。

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オランウータンの巣

昼過ぎになって、別の場所にいたレンジャーからオランウータンを見つけたと連絡が入りました。強い雨の中、現場に向かいましたが、足元は泥で滑り、坂道では何度も転び、思うように前へ進めません。さらには、足をヒルに吸い付かれ出血しながら歩くことおよそ1時間。ようやくレンジャーと合流することができました。

発見の瞬間(28秒)

一息つく間もなく頭上から聞こえてきたのが、低いうなり声。タパヌリオランウータンの鳴き声です。見上げると、木の上に私たちを眺めているオランウータンの姿が。しかし、すぐに逃げ出してしまいました。

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カメラが捉えた その姿は

必死に追いかける私の前に突然、大きな木の枝が飛んできました。警戒心の強いオランウータンは、自分のいる木の真下にいる動物を追い払うために木の枝や自分のふんなどを投げてくることがあるといいます。

5分近く追いかけたところで、再び木の上にいるオランウータンを確認し、ようやくカメラを向けることができました。 その特徴である黄色がかった茶色の体毛に覆われたタパヌリオランウータンは、木の実や葉っぱを食べていました。よく見ると、メスのオランウータンのそばには子どもが寄り添っています。

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撮影時間はわずか10分ほど。食事を終えた親子は、森の奥へと消えていきました。木と木の間を軽やかに移動する様子や、木の上で悠然と食事をする様子はまさにマレー語のオランウータン=森の住人という言葉そのもので、その優雅な姿が忘れられません。

研究者が2か月かけて探しても会えないことがあるタパヌリオランウータン。私たちは幸運にも、取材を始めてから2日目に出会うことができました。

ただ、幸運だけではありません。実は経験豊富なレンジャーたちは何日も前から密林の中に入り、巣の場所や、ふんが落ちていた位置などから、森の中をどのような経路で動いているのか確認していました。
さらに静まりかえった夜中には、森のそばでオランウータンの鳴き声を聞いて、その場所の見当をつけていました。今回の撮影は、こうしたレンジャーたちの経験と勘に助けられたとも言えます。

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レンジャーと取材クルー

危機にさらされる豊かな森

新種と確認されたタパヌリオランウータンですが、その生息数は推定で800頭。すぐに保護対策をとらないと絶滅する可能性が高いと研究グループは警告しています。最大の理由は人間の活動です。開発による生息地の破壊や密猟などによって、オランウータンが追い詰められているのです。

取材に協力してくれたレンジャーが、私たちを連れて行ってくれた場所があります。およそ600頭のタパヌリオランウータンが生息しているとみられる地域です。そこでは森を切り開いて、ダムの建設現場に続く道路がつくられていました。

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さらに周辺では、パーム油のプランテーション開発のため、違法伐採が行われているほか、ドリアンなどの果物を食べてしまうオランウータンが、害獣として殺されてしまうケースもあるといいます。

新種を発見した研究グループのプジ・リアンティ博士は「今回の発見は、生物が環境の違いによって、多様な進化を遂げることを改めて示した。そのオランウータンを開発の犠牲にしてもよいのか、私たちはもう一度考え直す必要がある」と話していました。

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一方で、インドネシア政府や地元の州政府は、オランウータンの保護の重要性は認めるものの「保護と住民生活の向上を同時に進めないといけない」としています。

盛り上がる保護に向けた機運

新種のオランウータンの確認によって、その保護に向けた機運は高まっています。

インドネシアを含む世界各地に店舗を持つ化粧品メーカーでは、タパヌリオランウータンが生息する森を保護する活動をしている団体に11万6000ドル、日本円でおよそ1300万円を寄付すると発表しました。

別の環境保護団体の担当者も、国連の会議によって設立された基金から、支援を受ける方向で調整が進んでいると話していて、「今後世界各地の多くの人たちが私たちに協力してくれると確信している」と期待を寄せていました。

私たちヒトに近いオランウータンは、人間の起源、そしてその進化を探る上でも重要な存在です。オランウータンの絶滅を防ぐためにどうすればいいのか。インドネシアだけではなく、私たち自身に大きな課題として、突きつけられていると思います。

川島進之介
ジャカルタ支局長
川島進之介
平成17年入局
沖縄局、山口局岩国報道室
国際部などをへて
去年7月からジャカルタに
西山健一
ジャカルタ支局カメラマン
西山健一
平成9年入局
山口局、広島局、映像取材部
大阪局などをへて
去年7月からジャカルタに