全国で起きている 性的問題行動とは
私がこの問題の当事者に初めて話を聞いたのは11月。3年前に被害を受けたいう当時、6歳の女の子の母親でした。同級生の男の子に性器の周辺を触られる被害にあったというのです。
母親は最初に話を聞いた時には、半信半疑だったようですが、その後、男の子が長女の下半身をなで回しているところを目撃し、娘の話が本当だったと確信したといいます。
しかし母親は男の子に「そこは遊びで触るところじゃないんだよっていうのをどういうふうに伝えたらいいのか分からなかった」と当時の胸の内を語ってくれました。
こうした問題は被害を受けた子ども自身が事態をよく理解できないため表面化しにくいとされています。
そこで全国にどのぐらい広がっているのか、私たちは11月、全国の児童相談所、231か所にアンケートを行い、90か所の相談所から回答を得ました。
対象にしたのは一般的に性的欲求が低いといわれる思春期前の子どもたちです。するとこの5年間で、少なくとも275件の問題が起きていることがわかりました。
「8歳の男の子が小学5年生の女の子に対して陰部を触ったり舐めたりした」とか「5歳の男の子が4歳の女の子の口に性器を含ませた」という衝撃的な内容も含まれていました。
性的問題行動 なぜ起きる?
性的な問題行動はなぜ起きるのか。取材を進めていくと、実際に問題行動をした子どもが通っていた保育園の保育士に話を聞くことができました。
保育士によりますとその子どもは家で父親がアダルトビデオを見たり、暴力的なビデオを見たりしていたといいます。
この子どものように刺激の強い性的な映像を見たことが問題行動につながる可能性を示唆した研究がアメリカの大学で行われていました。2002年に発表された研究論文には性的な問題行動を起こした3歳から7歳までの子どもを対象に調査が行われ、テレビで裸の大人を見たことがあるは46%、テレビで性行為を見たことがあるは35%という結果が報告されていました。
最近では子どもが親のスマートフォンやタブレットなどに触れる機会も増えていますし、広告のサイトなどで予期せずに性的な映像が現れ、見てしまうおそれも出てきています。
脳科学の視点からも警鐘
この問題を脳科学の視点から警鐘を鳴らす専門家がいます。医師の加藤俊徳さんによりますと、子どもの脳は善悪を判断する前頭葉がまだ発達していないため、性的な映像を見て、善悪の区別をしないまま真似をすることがあるといいます。
また、加藤医師は「ポルノ写真やそのたぐいのDVDやビデオなどをどの程度、どの時期に制御すべきか。子どもを持つ親は非常に関心を向けるべきだ」と指摘したうえで、身近に氾濫する性的な映像が子どもの目に触れないよう親が配慮すべきだと警鐘を鳴らしています。
問題行動を起こした子どもへの対応は?
一方、問題行動を起こした子どもたちへの対応はまだ日本では手探りの状態です。全国にある多くの児童相談所ではこうした問題の治療を試行錯誤しながら行っています。
このうちの1つ、高松市にある児童相談所では5年前からアメリカなどで実績をあげているテキストを使って新たなプログラムに取り組んでいます。
テキストはさまざまな項目で構成されていますが、その中の1つに、「自分がついたうそを3つ書きなさい」というのがあります。
その目的は書くことで「うそをついたことを認めたくない」と逃げる気持ちを受け止めてもらい、「自分は悪いことをした」と認識してもらうことが狙いだということです。
こうした課題がいくつもあり、最終的に「自分の感情や行動をコントロールできるようになること」を目的としています。
ただ、最大の課題はどこの相談所でも職員の専門性がなく、高松市の児童相談所でも本当に効果をあげているのか検証ができていません。プログラムを担当している児童心理司の松岡成行さんは「自分がやっている面接というのが果たして子どもさんにとって良い支援が出来ているのかと自問自答しながら支援しています。勉強をして専門性をあげていかなければ」と苦悩する胸の内を語ってくれました。
放置は危険!その先には…
この問題を放置したままでいることの危険性を指摘する専門家もいます。大阪大学の藤岡淳子教授は、性的な問題行動を起こした子どもたちには極端に偏ったモノの見方をする傾向があり、大人になってから暴力やストーカー、薬物依存などの犯罪を引き起こすおそれがあると指摘しています。
藤岡教授は「小さいころは、加害とか、被害とか関係なく、みんな被害者なので、被害を受けた人のケアと、それが加害に回らないようなケアと教育をきちんとやっていくことが責任だ」と語り、こうした子どもたちも「社会の被害者」であると捉え、社会全体で治療していく必要性があると強く訴えています。
背景に「重要視せず黙認」
問題を起こすすべての子どもたちが「犯罪に結びつく」というわけではありません。しかし、こうした問題を引き起こしている背景には多くの大人たちがこの問題を「昔からあった」としてあまり「重要視せず、黙認していた」ことが大きいのではないかと取材を通して強く感じました。
そして私自身、最も驚いたことは、例えば子どもたちがスマホやタブレットで予期しないうちに性的な映像に触れたり、リビングに性的な写真が載っているスポーツ紙や雑誌が無造作に置かれているのを見たり、コンビニなどで子どもの目の届く場所にグラビアの写真が載っている週刊誌が置いてあるのを目にしたり、風呂あがりなどに家族が部屋の中を裸で歩く姿を見たりすることで、性的な問題行動を引き起こす「可能性がある」ということでした。
私たちの日常生活で何気なくやっていることが、「子どもの性的問題行動」につながってしまうかもしれないという危険性を知り、私自身小さな子どもを持つ親として、注意しなければと思いました。そして何よりもまだ広く知られていないこの問題をより多くの人たちに関心を持ってもらえるように今後も取材を続けていきたいと思います。
- 高松放送局記者
- 馬場勇人