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デマから殺人犯に “ネットリンチ”と闘う

インターネット上でのひぼう中傷が深刻になり、実生活にまで被害を及ぼす″ネットリンチ″と18年間闘い続けている人がいます。お笑いタレントのスマイリーキクチさん(45)です。ネットのデマから殺人犯にされ、今でも殺害予告を受けるなどの嫌がらせを受けています。被害者を1人でも減らしたいと、全国を巡って、ネットやSNSへの接し方について、若者に啓発活動を続けているスマイリーさんにインタビューしました。(経済社会情報番組部ディレクター 景山直樹)

きっかけはいたずら投稿

スマイリーさんへのひぼう中傷が始まったのは1999年。ちょうど、お笑いタレントとして人気が出始めたころでした。

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きっかけは、インターネット上の掲示板「2ちゃんねる」に書きこまれたいたずら投稿。

スマイリーさんが、女子高校生を殺害してコンクリート詰めにした実際に起きた凶悪事件の共犯者だという内容でした。犯人グループと同じ東京都足立区出身で、年齢が近かったということだけが、その理由でした。

「掲示板には、『人殺しは死刑』『白状して楽になれよ』など書き込まれていて、何が何だかわからず、びっくりしましたが、あまりにくだらなさすぎて取りあう気がしませんでした。当時インターネットを利用しておらず、自分の知らないところで生まれたつまらぬうわさは自然に消えると思っていました。今思えば完全に侮っていました」

デマが″事実″に化けた

当初は軽く考えていましたが、瞬く間に事態は悪化、被害はネットの世界から現実の世界にまで飛び火しました。スマイリーさんがテレビに出演するたびに、テレビ局や番組のスポンサーに苦情の電話が殺到するようになったのです。

「『殺人犯をテレビに出すな』『そんな番組のスポンサーをするな』という内容でした。たった1つのいたずらから生まれたデマがミルフィーユのように重なりあい、いつのまにか″事実″になってしまった。それを信じた人が苦情の電話をかけたり、メールを送ってきたりする。お笑いライブのステージに立っても、観客の『あの人殺人犯らしいよ』という声が聞こえてくる。仕事は減り、精神的にもまいってしまい、神経性の胃炎になったこともありました」

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相手にしてくれない警察

警察にも相談しましたが、当時警察にはインターネットに詳しい人が少なく、何度通っても取り合ってもらえなかったと言います。

「『実害がないと捜査できない。殺されたら捜査します』とか、『誰もあなたのことを殺人犯だなんて思ってませんよ』とあしらわれる。ひぼう中傷を受けている立場なのに、自分が間違っているのかと自問自答しました。脅迫や中傷よりも、助けを求めた警察に相手にされないことが一番怖かったです」

それでも根気強く警察に通い続け、最初の書き込みから9年がたった2008年、ついに真剣にとりあってくれる刑事と出会います。

「本当に30~40人ぐらいに当たって、みんなに断られ、バカにされ、その中で初めて対応してくれた人でした。その刑事さんは、デマを流された凶悪事件の捜査にも関わっていたこともあり、そこからは捜査が一気に進みました。運がよかったんだと思います」

消えない″デジタルタトゥー″

2009年、スマイリーさんに対して殺害予告をした19人が特定され、うち7人が書類送検されました。しかし、その後も、嫌がらせは絶えることはありませんでした。

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「報道で加害者たちの名前が表に出ることはありませんでした。さんざん匿名でひきょうなことをしていたのに、最後の最後まで匿名なんだというのは、悔しい思いがしました。彼らの多くは、デマを信じて『正義感からやった』と言っていたそうです。本当に正義感がある人なら、匿名で誰かつるし上げてネットでたたくようなことはしないと思います」

そして、最初の書き込みから18年たった今でも、殺害予告を受けるなど、仕事にも支障が出る状態は変わっていません。

「ことしの3月も、殺害予告によってNHKの生出演を見送りました。外からの生中継で、子どもがたくさんいる現場だったので、どうしようもなかった。中傷の数は減りましたが、今でもネットで僕の名前を検索すれば、殺人犯だと出てくる。消えない″デジタルタトゥー″ですね」

みずからの経験を若者に訴え

スマイリーさんはいま、自身の″ネットリンチ″の経験を語る活動を全国で続けています。自分のような被害者をもう出したくないという思いからです。

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全国の学校、自治体、企業などを回って、年間50回ほど講演を行っていて、9月下旬、神奈川県の私立高校で行った講演に、同行取材させてもらいました。

スマイリーさんは、多くの高校生たちを前に、若い人たちが多く利用しているツイッターで、どのようにデマが拡散するのか話しました。熊本地震の直後、ライオンが動物園から逃げたという、うその投稿が数多くリツイートされた例を出しながら、ネットでは、無意識のうちに、デマを拡散させる加害者になり、場合によっては、ネットリンチに加担してしまうこともあると、危険性を訴えていました。

「情報というのはある意味借金です。リツイートというのは連帯保証人になったようなことになるので、『俺リツイートしただけだから』っていうのは、『借金の保証人になっただけだから』というのと同じなので、同じ責任が問われます」

また、インターネットにあふれるデマ情報について、スマイリーさん流の見分けかたを伝授しました。

「まずそのサイトにいくつ広告があるかを見てください。広告が多いものは、情報の真偽よりも、アクセス数を増やしてもうけようとしているケースがよくある。「儲」という字は、「信じる者」と書く。信じる者を増やせば、もうかるのです。でもだまされないでください」

ネットの言葉 責任を持って

インターネット上での個人情報の無断掲示や差別的な書き込みなどの人権侵犯事件は、この10年でおよそ7倍になっています。

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スマイリーさんが、最後に力強く語ってくれたのが、ネット上の言葉の暴力についてでした。

「自分のストレスから、他人を攻撃する人が増えている気がします。そういった人たちを『憎しみ依存』『モラルに反する人を許さない病』と呼んでいます。言論の自由を振りかざす人もいますが、それは自由をはきちがえている。デマを流したり、ひぼう中傷することは、自由ではなくて、″言論の無法″。自由の前にまず、″言論の責任″があるべきです」

誰もが被害者に だから加害者を減らしたい

スマイリーさんはその名のとおり、にこやかに笑いを交えて自身の体験を話しますが、専門家とは違う当事者ならではの言葉の重みや説得力がありました。

取材中に、何度も言っていたのが、「誰もがいつ被害者になるかわからない、だから加害者を減らしたい」という言葉でした。

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うれしいことも楽しいことも大勢と簡単にシェアできる一方、悪口やデマも一瞬で拡散してしまう今の世の中。改めてネットやSNSへの向き合い方を考え直したいと思いました。

景山直樹
経済社会情報番組部ディレクター
景山直樹