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“フラリーマン” あなたは夫を許せますか?

いま、働き方改革が広がる中で、仕事が早く終わってもまっすぐ家に帰らない人たちが増えているといいます。人呼んで“フラリーマン”。書店や、家電量販店、ゲームセンター…。「自分の時間が欲しい」「仕事のストレスを解消したい」それぞれの思いを抱えながら、夜の街をふらふらと漂う男性たち。NHKでは9月、この“フラリーマン”の姿を「おはよう日本」で放送し、このWEB特集でも記事を掲載しました。ネット上には、多くの書き込みがあり、新聞や民放でも特集が組まれるなど、大きな反響を呼びました。ネットの書き込みをよく見ると、目につくのは、女性からの“怒りの声”。そこで今回、われわれ取材班は、徹底的に女性の意見を聞いてみることにしました。(映像取材部カメラマン 富野要太 社会番組部ディレクター 石川祥次郎)

“フラリーマン”は男性目線

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正直に言います。“フラリーマン”取材班のスタッフは、ディレクター、カメラマン、音声、編集など関わる人すべてが男性でした。しかも皆、いわゆる子育て世代。休日は、自分の時間より家庭を優先し、育児にも積極的に関わっているつもりのパパたちです。そんな私たちは、“フラリーマン”という存在にある種の共感を覚え、男性たちの本音を伝えたいと前回のリポートを制作しました。

憤る子育て中のママ

しかし、多くの女性の厳しい声に、“このままでは終われない”と女性の本音を聞きに、再び街に出ることにしました。

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休日の銀座は、子どもを連れた家族連れで大にぎわい。意を決して女性たちに話を聞いてみると、いきなり「フラリーマンなんてけしからん!」との声。特に憤っていたのは、小さな子どもを持つお母さんたちでした。

子育て中の主婦に“フラリ”する自由はない!

話を聞く中で、赤ちゃんをだっこしながら、幼児の手を引いて歩く女性に出会いました。0歳と3歳の子どもを育てるこの30代の女性は、テレビで“フラリーマン”を見て、「そんな人がいるのか」と憤りを感じたと言います。

「こっちは自分の時間もなく育児しているので、小さな子どもがいるなら帰ってきてほしい」

さらに、世の“フラリーマン”たちに、子育て中の主婦がいかに大変か、知ってほしいとのこと。 ということで、早速、その様子を取材させてもらいました。

自宅へお邪魔した取材班。家事や育児の妨げにならないようにしながらじっくりと観察です。

女性は、IT企業で働いていますが、2か月前に出産。現在は育児休業中です。日中、3歳の長男は保育園へ預けていますが、まだ首も据わっていない赤ちゃんは、3時間おきの授乳が欠かせません。育児をしながらの家事です。世の男性が“フラリーマン”に変身する夕方から夜にかけての時間帯が特に大変なんだそうです。

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午後5時。夕食の仕込みをしつつ、合間にお風呂場掃除。その後、洗濯物を取り込みに2階へと駆け上がります。

すると突然、赤ちゃんの鳴き声。手早くおむつを替えると、あっという間に午後6時。長男の保育園のお迎えの時間です。抱っこひもで赤ちゃんを抱え、徒歩10分。長男を引き取り、すぐに家事の待つ自宅へと戻りますが、長男は雨の中、屈託のない笑顔でわざわざ水たまりを歩きます。当然、靴はびしょぬれです。

午後7時、夕食の時間。この日のメニューは、魚のムニエルと肉じゃが、カボチャのスープ。デザートにリンゴも。栄養バランスをしっかり考えられた食事ですが、長男はリンゴに夢中。なかなか思うようには食べてくれません。

夕食のあとはお遊びの時間です。電車のおもちゃを部屋いっぱいに広げ、ご機嫌に遊び始めました。しかし、そう思ったのもつかの間。突然おもちゃを投げ始めてしまいました。 「投げちゃダメでしょ!」 ここは、しっかり言い聞かせます。機嫌を直してかくれんぼをしようと柱に顔をつけたそのとき、「おしっこ!」。慌ててトイレへと駆け込みますが、時すでに遅し。部屋には、黄色い水たまりが。

そして午後8時。お風呂タイムです。子ども2人を1人で入れるのは至難の業。赤ちゃんを脱衣所で待たせ、手早く長男の体を洗い、一気に自分も済ませてから赤ちゃんをお風呂へ入れるんだそうです。

午後9時。なんとか子どもたちをパジャマに着替えさせたとき。ようやく、夫が帰ってきました。待ちに待った援軍の到着に、女性の笑顔がこぼれます。

赤ちゃんを夫に預け、長男を寝かしつけたのは、午後10時。すべてが終わって、ほっと一息したところで質問してみました。

もしも夫が“フラリーマン”をしていたら? 女性は鋭い視線でこう答えました。

「仕事だったらしかたがないと思えるけど…ありえない」

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女性にも賛否両論!

NHKが9月の放送後に行ったアンケートには計965件の、実にさまざまな意見が寄せられました。女性からの厳しい意見や、共感する声もありました。

30代女性「子どもが小さいうちは一刻も早く帰宅して欲しかったが、現在は、家にいられると逆にわずらわしい」

60代女性「早く帰宅されても対応に困る」

子どもの年齢、夫婦の世代によって捉え方が違うようです。

30代女性「いいと思うけど、家族を寂しがらせない程度にして欲しい」

50代女性「連絡してくれれば構わない。夕飯がむだになるのがイヤ」

では、“フラリーマン”をどう考えていけばいいのか。 皆さんのアンケートを読んで気付いたことがあります。 それは「家族」や「パートナー」といった言葉がたびたび登場するということです。

30代女性「パートナーには許可を取った方がいい」

50代女性「せっかく家族になったのだから、少しでも歩み寄った方がいい」

変身した“ヘビーフラリーマン”!

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パートナーと話し合ったことで、変化があった“フラリーマン”もいます。 物流会社に勤める長谷川毅さん。 働き方改革で定時退社が増え、週に5日は寄り道をするという“ヘビーフラリーマン”。前回の放送にも登場して頂きました。
長谷川さんは、まっすぐ帰ると共働きの妻の家事の邪魔になると考え、残業だと言って、2時間近く寄り道をしていました。公園で読書をしたり、カフェでコーヒーを飲んだり、バッティングセンターに行ったり。楽しそうにバットを振って「気分最高!これやってるときがいちばん」と、さわやかに話していたのが印象的でした。

長谷川さんは、この取材を機に、自分が“フラリーマン”であることを妻の美妃さんに明かし、「あまり遅くならないなら」と許してもらっていました。

妻に告白、その後…

水曜日の午後6時30分。とある駅の改札口で待っていた私たちの前に再び現れた長谷川さん。この駅には、寄り道スポットのバッティングセンターがあります。しかし、この日は別の方向へと歩き始めました。

その先で待っていたのは、妻の美妃さん。仲良く手をつないで閑静な住宅街の方向へ。たどり着いたのは、なんとピアノ教室! 9月から週1回、一緒に通い始めたんだそうです。長谷川さんは以前、自身の結婚式で弾いてみせて、妻を驚かせようとピアノを習ったことがありました。妻の美妃さんも小さい頃にピアノを弾いていたと聞き、一緒に行こうと誘ったんだそうです。

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いま2人は、「連弾」に挑戦しています。2人ともまだ楽譜が読めないため、なかなか息が合いませんが、それでも、ずっと通い続けています。この日は、熱心な先生の愛ある指導をみっちり1時間。最後にはシューベルトの「鱒(ます)」を1曲弾き通すことができ、笑顔がこぼれていました。

“フラフラ”を有意義な時間へ

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長谷川さん夫婦には、ピアノを始めてある変化があったそうです。それは、ささいなことで起きていたけんかの数が、めっきり減ったこと。コミュニケーションを大切にすることで、夫婦関係にもよい影響があったようです。
「週に1回でも夫婦で同じことに集中するのは、とても有意義だと思う」と長谷川さん。それを聞いた妻の美紀さんも「楽しいです」と満面の笑みでした。

ピアノ教室の日は、2人で外食をしたり、スーパーで総菜を買って帰るなど、美妃さんの家事の負担も減らしているそうです。 長谷川さん、実はまだフラフラするのを完全にはやめられないそうですが、肩を寄せ合ってピアノを弾く姿はとてもほほえましく感じました。

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働き方改革の先 “フラリーマン”の行く末は

長谷川さん夫妻は子育て中ではありません。“子どもがいたら、ピアノ教室なんて無理!”という声もあるでしょう。 しかし、子育てに奮闘する姿を取材させてもらった30代女性の家庭でも、習い事はしていないものの、夫婦で話し合い、子どもを寝かしつけたあとに、それぞれ自由な時間を作るようにしているそうです。

“フラリーマン”に対しては、それぞれの立場で意見もさまざまですが、いずれにしても、夫婦、家族で話をすることが最も大切なのだと感じました。

ちなみに取材したカメラマン。実は最近、第3子が誕生、今度こそ“フラリーマン”卒業を家族に誓いました。

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働き方改革によって生み出された時間。その時間を“どう有意義に使うか”を考えることは、そのまま、“人生をどう豊かに生きるか”を考えることだと思います。

働き方改革のその先にあるいわば、“人生の未来図”をしっかりと見据えなければならないのかもしれません。皆さんも、そして、子育て中の私たちも。

富野 要太
映像取材部カメラマン
富野 要太
石川 祥次郎
社会番組部ディレクター
石川 祥次郎

“フラリーマン”

目白大学名誉教授で社会心理学者の渋谷昌三さんが、2007年に著書の中で、家庭を顧みず居場所を失い、ふらふらするサラリーマンの姿から名付けた。
しかし、時代とともに“フラリーマン”になる背景も変化。
「“働き方改革”で、男性が家庭での居場所を取り戻そうとしても、共働きの増加に伴い存在感を増す女性に太刀打ちできず、居場所をあきらめてフラフラしてしまう」と渋谷さんは分析している。