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都市を脅かす“持ち主不明の土地”

持ち主がわからず放置される「所有者不明土地」。山間部などを中心に増え続けているとされ、民間の研究会は全国で九州の面積を超える410万ヘクタールに上ると推計しています。NHKはその都市部での広がりを知るため全国20の政令指定都市と東京23区にアンケート調査を行いました。その結果、これらの自治体で過去5年に公共事業を行う際に見つかった「所有者不明土地」は少なくとも713か所に上ることがわかりました。(社会部記者 松下温)

所有者不明土地とは?

「所有者不明土地」とは、登記簿に記された所有者が死亡したあとも所有権を相続した人が登記簿の所有者を更新しないまま放置することによって生じます。日本では登記が義務化されていないため、こうしたことがたびたび起きるとされています。

この状態が2代、3代と繰り返されると、所有権を持つ相続人がねずみ算のように増えていきます。建物の建て替えや土地の売却には相続人全員の承諾が必要なため、一部でも連絡が取れなくなるとそれができなくなるのです。

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東日本大震災のあと、岩手県で住宅の高台移転を進めた時にこうした土地が見つかり、復興事業が遅れる要因となりました。また、2027年に開業を目指すリニア中央新幹線の建設用地でも見つかり、JR東海が相続人を探すなどの対応を行っています。

都市部の7割以上で公共事業に影響

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NHKが行なったアンケート

アンケート調査では、この「所有者不明土地」により、都市部における公共事業の実施に影響があったか聞きました。すると全体の7割以上の31の市と区が影響があったと答えました。

自治体別に見ますと、さいたま市が353件と最も多く、次いで品川区が84件、大田区が72件、文京区が50件、京都市が34件、静岡市が27件、千葉市が13件、神戸市が10件、新宿区、福岡市、熊本市が8件などとなっています。目黒区と豊島区、そして北区は詳しい数が把握できないとして、「多数」と回答しました。

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具体的には、札幌市で土地の所有者が海外にいて連絡が取れず、境界が確定できず市の土地が売却できなかったほか、横浜市では道路用地のためマンションの土地を買収しようとしたところ相続人の行方がわかりませんでした。また岡山市では52人いる土地の所有者、全員が死亡していると見られ、道路事業に影響がでていると回答しました。

一方、千代田区や中央区、世田谷区、さらに、大阪市や仙台市、新潟市など12の市と区は「事例がない」と回答しました。

通常、土地の売買は登記簿が更新された状態でなければ行われないため、大都市のような土地の取り引きが活発なところでは、この「所有者不明土地」の問題は起きにくいと言えます。ただ、アンケート結果からはそうした傾向が必ずしも一致していないことが明らかになりました。それが、この問題に対する自治体の意識の差によるものなのか、理由を明らかにするにはまださらなる取材が必要です

都市の開発が進まない“宅地”の不明土地

一方、今回明らかになった「所有者不明土地」の5割近くが宅地でした。過疎地の「所有者不明土地」に多い、農地や林地はいずれも1割未満にとどまりました。

さいたま市のJR大宮駅前にある宅地は市が道路を拡幅するため買収する計画でした。しかし、相続人が数十人に上ることがわかり、交渉相手が特定できず工事を進められずにいます。

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また、品川区にある住宅密集地では細かく所有者が分かれていて、50メートルプールほどの面積の土地のうち、8か所で所有者が不明となっています。区は首都直下地震に備えて消防車などが通れるようこの土地を買い取ることを検討していますが、交渉すらできない状態が続いています。

このほか、アンケートでは、こうした宅地以外にも、空き家や固定資産税の徴収、さらに私道の整備などに影響したという回答が多くありました。

なぜ地価の高い都市部で?

地価の高い都市の宅地なら土地を売ればよいのではと考える人が多いかもしれません。しかし、そこに都市ならではの問題があることがわかりました。

都市の宅地は1か所あたりの土地が狭く、所有者が死亡して子どもが相続して分割すると面積がさらに狭くなります。そうすると建物を建てられるだけの広さが確保できず、土地の使いみちがなくなります。そのまま、登記が更新されずに放置された状態が2代、3代と続くと相続人が増え続け、連絡が取れなくなるケースがでてくるといいます。

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都市部での所有者不明土地の問題は今後、さらに高齢化が進み、大相続時代を迎えるとより深刻になると見られています。アンケートでも、所有者不明土地が「大いに増える」または「増える」と思うと答えた自治体は7割以上に上りました。

取材に対して、品川区木密整備推進課の高梨智之課長は「家族間や地域とのつながりも薄くなっているので、今後、所有者不明土地の発生はなかなか抑えられないのではないか」と話していました。

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品川区木密整備推進課 高梨智之課長

もてあました土地 いったいどうすれば…

今後、一層深刻化する所有者不明土地の問題を解決するにはどうすればいいのか。

相続を放棄した土地を国や自治体に寄付しようと思っても、その管理に費用がかかるため、自治体が拒否するケースも少なくありません。専門家からは土地の権利を放棄したい人に代わり、その土地を管理する「受け皿」のような組織を設けるべきだと指摘されています。さらに、国では所有者不明土地を公共事業などで利用する際にもっと簡易な手続きで利用できるようにする法案も来年の通常国会に向け検討をしています。

この問題に詳しい東京財団の吉原祥子研究員は「都市部は小さな区画に多くの所有者と相続人がいる。地価も高く権利関係の調整も難航する。人口が多い都市部で高齢化が進めば、問題解決はより難しくなるので相続登記の在り方を見直すことが必要だ」と指摘しています。

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東京財団 吉原祥子研究員

東京ではオリンピックに向けて再開発が急ピッチで進んでいます。また、地方都市でも人口減少社会に備えて、中心市街地の機能の見直しが急務となっています。公共の利益と個人の財産権という難しいかじ取りが必要な問題ですが、問題がさらに複雑化しないよう解決に向けて早く手をつけるべきだと感じました。

松下温
社会部記者
松下温