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“フラリーマン” まっすぐ帰らない男たち

今、仕事が終わってもまっすぐ家に帰らない“フラリーマン”と呼ばれる人たちが街なかに増えていると言います。書店や家電量販店、そしてゲームセンターなどで時間を過ごす男性たち。NHKでは、この“フラリーマン”の実態を取材し「おはよう日本」で放送しました。ネット上には、放送中からさまざまな書き込みがあり、“フラリーマン”への反発や放送で取り上げたことへの批判も多くありました。残業時間を減らすなど働き方改革が進む中、仕事と家庭にどう向き合うべきなのか、改めて考えました。(映像取材部カメラマン 富野要太)

フラリーマンたちを取材 その背景は?

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少子高齢化で労働人口が減少する中、むだな長時間労働を減らし、職場の生産性を高め、私生活も充実させる「働き方改革」。“理想の働き方”の実現に向け、国も企業も知恵を結集し、改革のアクセルを踏んでいます。

しかし一方で、これまで当たり前のように仕事中心の毎日を送ってきたサラリーマンが、突然、急激な変化を求められ、「働き方改革」っていったいなんなんだと、戸惑っています。

実は、私も妻と共働きで3歳と1歳の子どもを育てる父親です。少し前までは、「24時間働けますか!?」と言われ続けてきたのが、急に給与も労働時間も減り、仕事と家庭のバランス、そして子育てへの向き合い方に思い悩んでいます。

“フラリーマン”たちを取材することで、今の時代を生きるヒントを多くの人に伝えられるのではないかと思ったのです。

うれしいはずの“残業ゼロ” でも…

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今回、私たち取材班は、新橋、有楽町、品川などで仕事帰りのサラリーマン100人に直接声をかけ、アンケート調査を行いました。
「退社時間が早まった」など働き方改革の実感が「ある」と答えたのは100人中、半数の50人。
一方で、「早く仕事が終わっても、まっすぐ家に帰らず寄り道をしている」と答えたのは28人で、全体のおよそ3割に上りました。

家に帰らず、どこで何をしているのか、私たちはまず、ある男性の“寄り道”に同行させてもらうことにしました。

フラリーマンは“夫婦円満のため”

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品川駅の前でひとり空を眺めていた、物流会社に勤める長谷川毅さん、36歳。
「働き方改革」の影響で、これまで午後10時が当たり前だった退社時間が、1年前からは午後6時になったと言います。

家では、午後5時半ごろに帰宅する共働きの妻が夕食を作って待ってくれているそうです。しかし長谷川さんはいつもまっすぐ家に帰りません。その理由を尋ねると、「早く帰りすぎると、『まだご飯ができていない』と言われ、洗濯物を取り込んだり、家事を手伝ったりしても『下手だね』と言われ、あまりうまくいかない。それならばと、時間をわざわざ遅らせて帰宅しています」とのこと。

この日、いつものように午後6時に仕事を終えた長谷川さんは、会社の最寄り駅には向かわず、ひとつ先の駅までわざわざ歩きました。
途中の公園で本を読んだり、カフェでコーヒーを飲みながらスマートフォンをいじったり。

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午後7時をすぎ、電車に乗りましたが、すぐに途中下車。今度はバッティングセンターに入り、1回300円で20球をフルスイングです。
「これやってるときが一番いい」と、さわやかに笑っていました。

およそ2時間の寄り道のあと、帰宅したのは午後8時半。

実は長谷川さん、毎日の寄り道のことを家ではないしょにしていましたが、この日、思い切って妻の美妃さんに打ち明けました。美妃さんは、うすうす気付いていたそうで、「自分も1人の時間が欲しいので、ほどよく8時、9時くらいに帰ってきてくれるなら」とフラリーマンを許してくれました。

家事は手伝い?それとも分担?

“家事を手伝っても妻の負担を増やすだけ”という寄り道の理由に対して、放送後、ネット上で多くの厳しい声が上がりました。

「本当に責任感がない」
「家事から逃げているだけ」
「『手伝う』と言う時点で自分がやることではないと宣言してる」

確かに、“家事は分担するもの”というのは的を射た意見で、取材した私自身もハッとさせられました。

フラリーマンからの卒業宣言!

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今回の取材中、自分が“フラリーマン”であることを告白した長谷川さんは、これまで妻に任せきりだった家事も分担すると話しました。

長谷川さんは、その後、妻と話し合い、退社後の時間は一緒にピアノ教室に通うことにしたそうです。きっと今は、夕方、並んでピアノの前に座り、2人の時間を過ごしていると思います。

共感の声も

取材では、長谷川さんのほかにも2人の“フラリーマン”に同行させてもらいました。
買い物をするでもなく、書店や家電量販店をふらつく2人の姿からは、時間の使いみちがわからない戸惑いや、仕事と家庭を切り替える“ひとりの時間”を求めていることが伝わってきました。
ネットには、

「まっすぐ家に帰りたくない気持ち、すごくよく分かる」
「1人になってリセットする時間は必ず持ってほしい」

など“フラリーマン”に共感する書き込みもありました。

「専業主婦でも買い物からまっすぐ家に帰りたくないので寄り道します」

といった女性からと思われる声もありました。

批判にせよ、共感にせよ、多くの書き込みがあったのは、今の時代、男女ともに、生きづらさを感じていることの表れなのかもしれません。

名付け親が見る現代のフラリーマン

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“フラリーマン”という言葉は、目白大学名誉教授で社会心理学者の渋谷昌三さんが2007年に著書の中で使った言葉です。
当時は、団塊世代が一斉に定年退職を迎える時代。渋谷さんは、家庭を顧みなかった男性が、家庭での居場所を失いふらふらする姿を“フラリーマン”と名付けました。
しかし、その後の社会情勢の変化で“フラリーマン”になる背景も変わってきたと言います。

「“働き方改革”で男性が家庭での居場所を取り戻そうとしても、共働きの増加に伴い存在感を増す女性に太刀打ちできず、居場所をあきらめてフラフラしてしまう」と渋谷さんは分析しています。
そして、“がむしゃらに働くことが美徳”というこれまでの理想の男性像と“働き方改革”の狭間(はざま)で、現代のサラリーマンたちは生きづらさを噛みしめているのではと見ています。

“ふらり”から見えたこと

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これから「女性の社会進出」がさらに進み、男性も女性も働きながら家事や育児を担うことが当たり前になっていくのだと思います。
ネットでの書き込みの中には、こんな意見もありました。

「働くひと(父も母も)が、息抜きしつつもやるべき事に向かえるのが理想」
「家に帰らずフラリーマン、その時間を使って生涯活動できるお勉強を」

“働き方改革”は単に労働時間を減らす取り組みではなく、人生を豊かにするためのものだと思います。
生み出された時間をどう有効に活用するのか。
“ふらり”の前に、まずは、パートナーとともに過ごし方を考えることが大切だと今回の取材で感じました。

私もきょうはまっすぐ家に帰って、実は自分が“フラリーマン”だと打ち明けたうえで、家族と一緒に話し合ってみようと思います。

富野要太
映像取材部カメラマン
富野要太
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