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国内初!民間宇宙ロケットの挑戦

国内初の民間単独による宇宙空間到達を目指そうと7月30日北海道のベンチャー企業が全長10メートルの宇宙ロケットの打ち上げに挑みました。この会社の社員は14人。民間企業が単独で宇宙ロケットを打ち上げること自体、国内で初めての試みでした。満を持して行われた打ち上げですが、ロケットは、打ち上げ後、1分余りで位置や姿勢を示すデータが得られなくなり、エンジンを緊急停止。宇宙空間到達という目標には届きませんでした。しかし、今回の打ち上げは、これまで国が主導して行ってきた宇宙開発の流れに一石を投じ、日本の宇宙開発が転換期を迎える可能性があることを示すものになりました。科学文化部の鈴木有記者が解説します。

社員14人のベンチャー企業

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今回ロケットを打ち上げたのは、北海道大樹町に本社があるベンチャー企業、「インターステラテクノロジズ」です。
2013年に設立されたこの会社の社員は20代から50代の技術者ら14人。大学で航空宇宙工学などを学んだ人が集まり、民間単独では国内初となる宇宙空間を目指すロケットの打ち上げに挑みました。彼らが作り上げたロケットは、全長10メートルで直径は50センチ。目標の高度100キロを漢数字にした「百」にちなみ「MOMO」と名付けられました。

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“価格破壊”を起こす

今回の打ち上げには、国内初の民間単独による宇宙空間到達という目標と並ぶ、もうひとつ大きな目標がありました。それは、ロケット打ち上げの「価格破壊」です。
これまでのロケット開発では、部品の信頼性を高めるために特注品が使われ、それが打ち上げコストを押し上げていました。
例えば、大型の衛星を打ち上げる日本の基幹ロケット「H2A」は1回の打ち上げでおよそ100億円。海外の同様のロケットに比べても、割高感は否めません。

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アメリカを中心に超小型衛星などを打ち上げて地上の様子を撮影し、ビジネスに生かす、宇宙ビジネスが盛んになる中、国内で民間企業参入を拒むひとつの壁になっているという指摘もあります。

こうした壁に挑めないか、今回、この会社が単独で開発・製造したロケット「MOMO」は、かつてないローコストを実現しようと徹底的なコスト削減にこだわりました。このため、ロケットのエンジンや機体の開発では、社員みずからが低価格の市販の材料や部品を購入して製作。

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例えば、燃料をエンジンに送るための調整用のバルブには、ネット通販で購入した電動式ねじ回しのモーターを使っています。ロケットに必要な最低限の性能を持たせながら、コストを可能な限り抑えました。JAXA=宇宙航空研究開発機構の同じようなロケットの数分の1という1回当たり数千万円での打ち上げを目指したのです。

立ちはだかる“苦難”

しかし、「MOMO」の打ち上げは、直前まで多くのトラブルに見舞われました。宇宙空間に到達するには、高度100キロ以上の上空にロケットを打ち上げなければなりません。またロケットは打ち上げ後、海上に落下するため、航空機や船舶への影響が出ないよう、打ち上げの時間帯が限られます。

会社では、今回、7月29日から30日にかけて合わせて5つの時間帯を設定したうえで国土交通省などに事前に申請して、打ち上げに臨みました。
ところが、最初の時間帯=29日の昼(午前10時20分から午後0時半)は、技術的な問題が発覚して打ち上げ延期に。
続く、2番目の時間帯=29日夕方(午後3時45分から5時)は、濃い霧に阻まれ断念。

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さらに3番目の時間帯=30日早朝(午前5時から8時)は液体酸素のタンクのバルブなどに不具合が見つかるなどして打ち上げ4分前に急遽断念。4番目の時間帯=30日昼(午前10時20分から午後0時半)は、ロケットが落下するおそれのある警戒区域に船舶が進入するハプニングがあり断念。
結局、残されたのは、最後の時間帯=30日の夕方(午後3時45分から5時)だけとなったのです。

この時間帯を逃せば、周辺の海域で地元の漁協による漁が始まるため、次の打ち上げは、11月以降と3か月以上遅れるおそれがありました。

こぎ着けた打ち上げ。そして異常発生

そして迎えた最後の時間帯でもトラブルが…。ロケットの落下警戒区域に再び船舶が侵入。打ち上げ可能時間が残り30分余りとなったところで、カウントダウンが始まり、霧で視界が遮られそうになる悪天候の中、午後4時31分、ようやくロケットは、打ち上げられたのです。

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ところが、打ち上げから66秒後。異常事態が検知されました。ロケットの位置や姿勢などのデータが突然、送られてこなくなったのです。位置がわからなくなれば、ロケットが警戒区域外に落下し、何らかの被害を及ぼす危険性が否定できなくなります。
このためインターステラテクノロジズのチームは、ロケットがおよそ高度10キロメートルに到達したところで信号を送ってロケットのエンジンを緊急停止。発射場から6キロ沖合の海上に落下させました。
推定される最高高度はおよそ20キロ。高度100キロの宇宙空間到達はなりませんでした。

専門家の見方は

トラブル続きで、エンジンの緊急停止という結果になった今回の打ち上げ。しかし、市販の部品を使った徹底的なコスト削減のロケットが高度20キロに到達したことに、専門家からは、着実に一歩を踏み出したと肯定的な評価をする声が出ています。

宇宙工学に詳しい大同大学名誉学長の澤岡昭さんは、「データが公表された上でないとはっきりとしたことは言えませんが、手作りで、しかもエタノールと液体酸素で到達したのは、大したものだと思います。相当に実りある失敗だったと考えています」と話しています。

また、宇宙工学が専門の九州大学名誉教授の八坂哲雄さんは「少なくとも数回の実験で初めて目的を達するのが宇宙ロケットで、原因がわかれば改修は難しくなく、その意味で1回目の実験は成功であったともいえます。MOMOというロケットはまだまだ荒削りで高度化できる可能性をもったロケットだといえます。これからしばらく、どんどん高い目標をクリアしていくでしょうが、どこかで壁にぶちあたる。その時にどう行動するかが一番重要なことでしょう」と話しています。

今後の挑戦は?

今回、打ち上げ後の会見で、インターステラテクノロジズは、年内にも後継機の打ち上げを行い、宇宙空間到達に再挑戦したいと表明しました。
この会社では、すでに人工衛星を搭載出来るロケットを3年後の2020年を目標に打ち上げ、衛星打ち上げビジネスにも参入すると表明しています。

インターステラテクノロジズの稲川貴大社長は、「途中までは順調だったが、宇宙到達という目標の一歩手前で何らかのトラブルが起きた。なるべく早く原因究明をして、より良いものを作っていきたい」と打ち上げ結果を受け止めていました。

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また会社の創業者のひとりで実業家の堀江貴文さんは、「目標は達成できなかったが、実際に空を飛んだことでたくさんデータが取れた。今後解析して開発に役立てていけば、次か、次の次の打ち上げでは宇宙に行けると思う」と話していました。

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日本の宇宙開発は、これまで国の主導で進み、技術では世界でも高いレベルに達していながら宇宙ビジネスへの参入は出遅れていました。今回のロケット打ち上げは、目標の宇宙空間到達は果たせなかったものの、市販の安い部品を使って、格安の宇宙ロケットを作れる可能性があることを世に示しました。

アメリカなどを中心に宇宙開発が国主導から民間主導へと変わりつつある中、今回の打ち上げが、同様の変化を日本にもたらした起爆剤となった挑戦だったと、後に評価されるかも知れません。日本の民間宇宙開発がこれからどう変わっていくのか、注目したいと思います。

鈴木有
科学文化部
鈴木有 記者