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中東の新たな火種 カタール断交

日本が輸入する原油の8割を依存する中東。なかでも産油国が集中するペルシャ湾岸で、先週起きた動きが世界を驚かせました。サウジアラビアやUAE=アラブ首長国連邦などが相次いで、カタールに対し、国交断絶を通告したのです。国境は閉鎖され、湾岸諸国の航空会社各社がカタール発着の便の運航を中止するなど影響が広がっています。
経済や安全保障をめぐって結びつきを強めてきた湾岸諸国に何が起きたのでしょうか。背景を解説します。

突如発表された国交断絶

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今月5日、サウジアラビアやUAE、バーレーンなど6か国は、カタールとの国交を断絶すると発表しました。理由として、「テロ組織を支援し、地域の安定を脅かしている」などと主張するとともにサウジアラビアと対立するイランとの関わりを指摘しました。

特にカタール周辺のサウジアラビアとUAE、バーレーンの3か国は、国境閉鎖など人の往来や物流の制限に踏み切りました。

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これを受けて、食料など生活必需品の多くを輸入に頼るカタールの国内では、多くの人が食料品を買い込もうとスーパーに詰めかけ、棚からほとんどの商品がなくなる騒ぎになりました。
さらに湾岸諸国の航空会社各社は相次いでカタール発着の便の運航を中止しました。

国際社会に懸念広がる

この国交断絶は国際社会にどんな影響を与えるのでしょうか。
懸念されているのは、シリアとイラクで大詰めとなっている、過激派組織IS=イスラミックステートとの戦いへの影響です。

カタールと、サウジアラビア、UAE、バーレーンは、いずれもアメリカが主導する有志連合の一角として、シリアとイラクのISの拠点に対する空爆の支援を行っています。アラブ諸国も一致して加わることで、この地域でのアメリカによる武力行使に正当性を与えているのです。

特にカタールは、アメリカ軍の軍用機の出撃拠点として国内の空軍基地を提供していて、重要な役割を果たしています。それだけにアラブ諸国の団結が崩れれば、ISとの戦いにも影響が出かねないとの懸念が広がっているのです。

なぜこのタイミングで?

なぜ、サウジアラビアなどはこのタイミングで国交を断絶したのか。きっかけとなったのは、断交のおよそ2週間前のカタール国営通信の報道です。
カタールのトップ、タミム首長が演説のなかで、イランとの関係改善を呼びかけるとともに、ムスリム同胞団を擁護したというものでした。

イランは、内戦が続くシリアやイエメンをめぐってサウジアラビアと鋭く対立し、去年1月には断交に踏み切ったほどの犬猿の仲です。

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そして、エジプトに起源を持ち、中東各国にも根を張るイスラム組織、ムスリム同胞団について、サウジアラビアは王制を揺るがしかねない脅威として、テロ組織に指定しています。
カタール政府は「国営通信が何者かにハッキングされた」として演説内容を否定しましたが、サウジアラビアなどの態度が変わることはありませんでした。

イランとの独特の関係

断交の原因となったとされる、イランとの関係改善の呼びかけやムスリム同胞団の擁護。実はカタールのこれまでの外交姿勢と相いれないものではありません。

カタールは、南側にサウジアラビア、北側にイランと、地域の2つの大国に挟まれた、人口250万人あまりの小国です。にもかかわらず、首都ドーハには高層ビルが建ち並び、2022年のサッカーのワールドカップの開催地となるなど、近年、国際的にも存在感を示してきました。

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それを資金面で下支えしてきたのが、ペルシャ湾のガス開発です。LNG=液化天然ガスの世界最大の輸出国として豊富な資金を得てきました。ところがこのガス田は、イラン側とつながっています。開発を円滑に進めるために、イランとの対立は避けたいという事情があるのです。

「アラブの春」から続く火種

そして、サウジアラビアがテロ組織に指定するムスリム同胞団についても、カタールは、独自の関係を築いてきました。

2011年から中東に広がった民主化運動「アラブの春」。

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エジプトでは、30年続いた独裁政権が倒れ、選挙を経て、ムスリム同胞団を支持基盤とするモルシ政権が発足しました。
モルシ政権に対し、巨額の財政支援を行って影響力の拡大を図ったカタールは、軍による事実上のクーデターでモルシ政権が倒れたあともムスリム同胞団の支援を続けたとして、サウジアラビアなどから厳しく非難を受けたのです。

カタールは、「あくまでもエジプトに対する支援であって、ムスリム同胞団への支援ではない」などと反論しています。

事態打開に向けた仲介役は?

事態の打開に向けた動きは続いています。国交断絶が発表された5日には、ロシアやトルコなどが対話を呼びかけました。

そして、カタールやサウジアラビアと同じ湾岸諸国のクウェートのサバハ首長も、仲介役として、各国に働きかけを続けています。

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クウェートは2014年にムスリム同胞団をめぐって、サウジアラビアやUAEなどがカタールから大使を召還した際も仲介して解決に導きました。

さらに注目されるのがアメリカです。トランプ大統領は9日、「カタールは歴史的にテロの資金提供国だ」などと述べて、サウジアラビアなどに寄り添う姿勢を示しましたが、ISとの戦いに影響が出かねないとして、ティラーソン国務長官は双方に緊張緩和を呼びかけています。

アラブ諸国の団結が求められるこの時期に、突如として起きたサウジアラビアなどによるカタールとの国交断絶。微妙なバランスのもとに安定を保つ湾岸情勢にどのような影響があるのか、そして、事態打開の行方は。

この地域に石油や天然ガスの多くを頼る日本にとっても重要な関心事だけに今後の行く末を注視する必要があります。

吉永智哉
国際部
吉永 智哉 記者